実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第758回】SEKAI NO OWARIはまだ来ない(泉里香『隕石家族』第1話)


 『空気の無くなる日』(1949年、日本映画社、監督:伊東寿恵男)は、ハレー彗星騒動をヒントにした教育映画。1910年、ハレー彗星が地球に接近したとき、ヨーロッパから、彗星の尻尾に含まれる毒ガスによって世界が終わるという風評が出回り、マスクや酸素吸入器が売れたという。



 この映画は「彗星が最も地球に接近する5分間だけ、地球上の空気が無くなる」というデマに振り回された、とある北陸の村の騒動を描く。うわさを真に受けた小学校の校長が、児童たちを校庭に集めて、洗面器に顔をつけて5分間呼吸をしない練習をさせる。家に帰った子供たちの話を親が聞いて、村が大パニックになり、大地主は自転車のタイヤチューブを買い占め、家族全員でそれを吸って自分たちだけ生き延びようとする、というふうに騒動は広がっていく。



 ビデオソフト未発売で視聴は困難だが、原作(岩倉政治の児童向け絵本)は今も売られていて、テレビドラマ化もミュージカル化もされているので、ご存知の向きも多いのではないか。私は映像作品は観たことなくて、原作を小学校の教科書かなんかで読んだような記憶がある。映画の方は、特撮を後のピープロの鷺巣富雄(うしおそうじ)が担当しているところもポイントだ。
 次はSF映画界のゴッド・ファーザー、ジョージ・パル制作の『地球最後の日』(1951年、パラマウント、監督:ルドルフ・マテ)。





 マグマ大使のような流線型のロケットが印象的。宇宙から二つの遊星が地球に向かって来る。天文学者の計算によると、地球は第一の星と激突して消滅し、そこへもう一つの星がやってきて、もとの地球の軌道に収まって新しい太陽系第三惑星になる。凄い話だね。で、脱出ロケット「アーク」(ノアの方舟)を大急ぎで建造して、第二の地球に移住する計画が立てられる。
 次は日本が誇る妖星激突映画の本命、『妖星ゴラス』(1962年、東宝、監督:本多猪四郎)。



 妖艶な水野久美さんと清楚な白川由美さんが終始ツーショットで仲良さそうに画面に収まっている映画は、けっこうありそうで実はあんまりない、という意味でも貴重。
 巨大な黒色矮星ゴラスが地球に接近する。地球よりもはるかに巨大な質量なので、衝突すればひとたまりもない。人類は南極に核エネルギーによるロケット噴射機をつけて、地球全体をロケット化してゴラスの軌道から移動させる。





 とんでもない方法だが、しかし以下に紹介するハリウッドの隕石衝突映画が「衝突してくる隕石は核兵器で破壊して我が身を守る」というアメリカファーストな考え方であるのに対して、『妖星ゴラス』は「こっちから軌道修正して隕石をよける」という日本的な謙譲の美徳をいまに伝える。私たちはこの奥ゆかしさをいつ忘れたのか。(私の考えでは、接近するマイクロブラックホールの軌道を変えるために木星を爆破した『さよならジュピター』の頃から。)
 話を戻す。とにかく、ちゃんと怪獣退治もあり、水野久美さんの入浴シーンありの全方位エンターティメントなのが嬉しい。





 どうですこの目線。私たちの世代はこういうのを見ていろんなことにめざめていったのだ。
 いや、話が戻ってなかったな。次、ちょっと時代が離れて『メテオ』(1979年、AIP、監督:ロナルド・ニーム)。




 これは『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)の監督によるパニック映画。木星と火星のあいだ、いわゆるアステロイド・ベルトに彗星が飛び込み、玉つき事故が起こって飛び出した巨大隕石が地球に衝突する。アメリカの核ミサイルだけでは破壊できないが、ソ連と共同で狙い撃ちすればなんとかなりそう。でもなにしろバリバリの米ソ冷戦時代である。すぐ手を組めばいいのに、お互い我を張りあっているうちに地球は大惨事に。最後になってようやく、アポロっぽいアメリカの核ミサイルとソ連の赤い核ミサイルがそろって隕石爆破に向かう。





 ソ連が想像よりはるかに大量の核兵器を隠し持っていたおかげで地球が助かった、というオチが、当時の合衆国の疑心暗鬼ぶりを表している。



 次、『ディープ・インパクト』(1998年、ドリームワークス、監督:ミミ・レダー)と『アルマゲドン』(1998年、タッチストーン/ブラッカイマー、監督:マイケル・ベイ)は、ほぼ同時期に公開されて話題になった映画で、確かスピルバーグ率いるドリームワークスの『ディープ・インパクト』の方が先で、そっちのチームから外れたスタッフがブラッカイマーに雇われて作ったのが『アルマゲドン』じゃなかったかな。



 実際『ディープ・インパクト』のほうがじっくり作り込んであって面白かった。モーガン・フリーマンが黒人俳優としてはハリウッド史上初めて大統領を演じたことも話題になったね。それに較べると『アルマゲドン』はマイケル・ベイとブルース・ウィリスとエアロスミスとセイコ・マツダで、とにかく大味だったが、こういうのは大味で良いのかもしれない。勢いもあって、興行的には『アルマゲドン』の方が稼いだ。



 次、これはアダルトビデオだ。『世界が終わる日、あやみ旬果と…』(2016年、プレステージ、監督:萬舐亭ムジナ)。AVを詳しくレビューするなんて、今までやったことなかったな。あと2時間で隕石が地球に衝突して世界が終わってしまうという設定。



先 生「みんな、今日は地球最後の日と知りつつ学校に来てくれて、先生は誇りに思うよ。最後の瞬間まで人間らしく、素直に生きていってくれ、いいね。日直」



日 直「起立」
先 生「今までありがとう」



日 直「礼」



先 生「さようなら」










 以下略。私はしっかり観たけどね。資料として。
 もうすぐ世界が終わるという虚無感のなかでひたすら欲望をぶつけあう、ということなんだけど、でもアダルトビデオの場合、ストーリー性もなくただやりまくるだけ、という展開も、誰もいない学校の教室とか、ガレージみたいな廃工場みたいな荒涼とした舞台も珍しくないので、結局ふつうのAVみたい。何のための特殊な設定なのかよく分かりませんでした。ラスト、真っ赤な海岸で空を見上げる二人、そして安いCGで世界の終わりが描かれる。





 シリーズ化を予定していたみたいなんだけど、結局、数ヶ月後に鈴村あいり主演で第2作が作られただけで終わってしまった。でもあやみさんも鈴村さんも、とにかくおキレイですし、出し惜しみせずサービス精神旺盛で、ありがたいことです。
 ところでこのアダルトビデオという業界、濃厚接触が不可避なわけだが、現在どういう状況にあるのか。



 そうですか。トップ女優の方々はともかく、そうでない方や男優の方はけっこう大変ではないかと思う。なんとか乗りきって欲しい。



 さて、例によって前置きが長くなってしまったが、フジ・東海テレビ系「大人の土ドラ」『隕石家族』は、ここに挙げたなかで言えば、最初の『空気の無くなる日』や最後のアダルトビデオと同じ系列の作品である。つまり隕石が落ちてくるのをどうこうしようとか、そういう話ではなくて、近い将来、世界の終わりが避けがたくなったとき、我々小市民は果たして残された日々をどのように生るだろうか、というテーマの特殊ホームドラマである。



 「隕石家族」こと門倉家は、お母さんの久美子(羽田美智子)とお父さんの和彦(天野ひろゆき)、長女の美咲(泉里香)と次女の結月(北香那)、和彦の実母のお祖母ちゃん(松原千恵子)の5人暮らし、第1話で次女の恋人の翔太(中尾暢樹)が転がり込んできて居候状態、こいつもいれれば6人で一緒に生活している。一見平凡で平和な一家に見えるが(そして本人たちもそうありたいと望んでいるが)ひとりひとりが家族に打ち明けられないあれやこれやがあって、それがこの極限状況のなかでひとつずつ明らかになる趣向である(と思う)。



 第1話「好きよ、キャプテン」は、全体の主人公でもある久美子(羽田美智子)の秘密(2020年4月11日、原作・脚本:小松江里子/照明:生嶋航/撮影:布川潤一/監督:竹村謙太郎)。
 結婚して二人の子供を授かり、ずっと専業主婦として平穏な日々を過ごしていたが、心の底では学生時代の憧れ、テニス部のキャプテン(中村俊介)への想いを抱き続けていた。あと半年で世界が終わると知った久美子は、ネットで知ったキャプテンとひそかに通じあったあげく、家を飛び出してしまう。
 がしかし、一度は家族を捨ててキャプテンの許に走った羽田美智子だが、数日後に「許して」と戻って来る。




 久しぶりに会ったキャプテンは思っていたのと違って、メタボだし頭は薄くなっているし、改めて家族といることの大切さを知ったというのだ。夫の天野ひろゆきは黙って羽田美智子を許す。



 でも次女の北香那は、キャプテンが今やメタボだなんて大嘘で、その後も二人が逢瀬を重ねていることに気づく。後をつけて証拠写真を押さえ突きつけたが、羽田美智子は意外と動じない。



結 月「ママ、これどういうこと?」




久美子「そう、バレちゃったか」



結 月「どうして嘘ついたの?」



結 月「ママはさ、家族の中で誰よりも明るくて、五歳若く見えることが自慢で、娘とも友達みたいに何でも話せて、家族の幸せが一番で……それなのに……パパや私たちのこと裏切ったまんまでいいの?」



久美子「ひとつじゃダメなの。両方欲しいの」



結 月「両方?」



久美子「結月もよく言ってたじゃない『ママ、つまんなくないの?』って」



久美子「『家族の世話して、毎日過ごして、いっつも同じこと繰り返して、そんなの楽しい人生じゃないんじゃないの?』って」



結 月「それは……」



久美子「でも仕方ないでしょ。何のキャリアもないのに何ができる?資格取れば良いって言うけど、何の資格?」



久美子「それにそんなの取って働き出しても、そろそろおばあちゃんの介護の世話も始まるし、あんたたちが結婚したら、孫の世話だってどうせママに任せてくるに決まってる」



久美子「……でも、それでもいいと思ってた。それが自分にふさわしい幸せだって」



久美子「けど、あれが来るの」



久美子「これからは自分の生きたいように生きる。欲しいものはすべて手に入れる」



久美子「それが家族と純愛なのよ」



 いやもうすばらしいね羽田美智子。母親が家族に尽くすのは当然と思っているこの娘は少し反省すべきだと思う。羽田美智子は取り返しのつかないおばあさんになる前に、自分の生きたいように生きられるようになったのだ。それも「あれが来る」から、もう半年足らずで世界が終わるからである。



 と言う感じで、ドラマ全体の構図が見えてきたところで第1話は終わる。と思ったらもう一山あった。妻の不貞を許した(でも、まだこっそり遭っていることは知らないはずの)天野ひろゆきが、最後に、ネットで知り合った趣味の鉄道模型仲間と、どこかの店で落ち合う。



 待ち合わせの相手はハンドルネームがキャプテン(中村俊介)。妻の羽田美智子の不貞の相手である。実際に会ったのはこれが最初のようだけど、鉄道模型の話題で一機に盛り上がる。




 趣味が縁で妻の浮気相手と偶然にも巡り合ってしまった。……と思いきや、最後の最後に中村俊介を見つめる天野ひろゆきのこの表情。



 鈍感で人の良いお父さんと思えた天野ひろゆきだが、知っているのである。これが妻の浮気相手だということを。というところで第1話終了。



 今のところ何も秘密がなさそうなのは次女の北香那だけで、あとはお父さんもお祖母ちゃんもお姉ちゃんも、居候中の恋人も、ご近所の奥さん(光浦靖子)も、みんな何か秘密を隠し持っている。それが、もうすぐ隕石が地球に衝突して世界が終わる、という極限状況のなかで徐々に明らかになって話が二転三転する、そういう予感のあるなかなか面白い第1話だったと思う。




 ところどころに「地球滅亡まであと○日」というテロップが出るところと、北香那の恋人が務める喫茶店の店長(ブラザートム)の役名が「古代鉄郎」で、店の名前が「カフェ・イスカンダル」であるという点については、説明は要りませんね。つまりこのドラマは、宇宙戦艦ヤマトに搭乗した愛の戦士たちではなく、無事帰還する可能性はほとんどないヤマトを待ちながら、地球で暮らす一般の人々の側に立った物語である。



 すみません、肝心の泉里香についてほぼ触れないうちに、時間いっぱいになってしまった。泉里香の演じる長女は、受験に失敗した妹の北香那が、半年後には隕石がやって来ると知ってなお予備校へ通うと言い出すと、「馬鹿な妹だと思ってたけどホント馬鹿」と突き放し、羽田美智子のお母さんが家を出ていったときも「ママの人生なんだから、最後ぐらい好きにさせてあげればいいじゃない」なんてクールに応じる、わりと我が道を行く性格に見える。



 でも仕事帰りに沢山のトイレットロールを抱えて帰ってきたり、お母さんが出ていったあとのお父さんの様子を誰よりも心配していたり、実はかなり複雑なキャラクターであることが暗示されている。あと家族内でのポジションは、常に松原智恵子の隣である。



 彼女の秘密はいまのところよく分からない。とにかく、今後の展開が楽しみなドラマである。ていうことで、そろそろ第2話のオンエアに備えなきゃならないので、尻切れトンボだけどこんなところで。コメント欄で教えていただいた沢井美優のショートドラマについてはまた来週ってことでお願いします。