安座間美優が関西テレビ/フジの『健康で文化的な最低限の生活』にレギュラー出演中だとか、渋江譲二がテレビ東京系の『警視庁ゼロ係 〜生活安全なんでも相談室〜』サード・シーズンに出演だとか、小ネタが溜まってるんだけど、整理できておりません。安座間美優はM14さんのところでやってるし、うちではいいかな。
「健康で文化的な最低限の生活」という文言は日本国憲法第25条に出てくる。国民が受けるべき権利(生存権)である。もちろん権利は義務とセットになっている。いやそれはともかく、私はこのタイトルを聞いたとき、ホームレスとかネットカフェ難民が主人公の話だと思った(なぜ?)。けどそうじゃなくて生活保護担当のケースワーカーが主人公だという。それは難しいテーマですね。しかも漫画が原作だそうで、日本の漫画文化ってほんとうにすごいなあと改めて感心した。第2話で視聴率がガクッと落ちたそうだが、かまわんかまわん、こういうテーマで青春ドラマを描こうという心意気を買いたいな、私としては。
しかし、たとえば『ブラック・ペアン』でどれだけ荒唐無稽な手術を描いても、日本医師会とかから形式的な抗議を受けるくらいで済む(というのもナンだけど)けど、生活保護がテーマだと、何をどう描いても、左右双方から粘着質なクレームをつけられそうで、ひとごとながら面倒そう。そういえば昨日(2018年7月27日)厚生労働省は、熱中症対策として生活保護世帯に上限5万円の「エアコン代」を支給する方針を決定した。支給の基準について現在ケースワーカーに周知しているという。
気象庁から記録的な酷暑の予想が出た今年6月に、厚労省は受給者のエアコン購入を「まったく問題ない」と明言した。それまでは「網戸設置費用」(これもすごいね)しか認めなかったのだから、えらい進歩だ。しかしニュースサイトのコメント欄には「生活保護の連中なんて、昼間はパチンコ屋で涼んでいるくせに」とか、いろいろ書き込まれてもいる。議論も白熱してさらに暑い夏になりそうだが、安座間美優出演ドラマが無事であることを祈る。いや吉岡里帆も。
さて本題。『探偵はBARにいる3』だけど、封切り時にコメント欄で「前田敦子はこの映画に必要なのか?」というご意見を伺った。私はまだ観ていなかったので何とも言えなかった。観終わった後も、何とも言えない。ただ原作小説と映画を比較してみて、最も原作に忠実だったキャラクターが前田敦子の諏訪麗子であることは間違いない。そういう意味ではやっぱり必要だったかな、と。
原作も映画も、物語は、大学生の原田誠が失踪した恋人の諏訪麗子の捜索を依頼するところから始まり、麗子が原田の元へ帰っていくことで一件落着となる。そこは一緒だが、諏訪麗子登場のタイミングはだいぶ異なる。原作の麗子はモンローに匿われて逃げ回っていて、ラスト近くでようやく探偵の「俺」に発見される。
「……麗子さん」「……はい」いいご返事だ。「原田君には、君が友達の部屋に遊びに云って、熱が出た。で、どうやらインフルエンザらしくて、ずっと寝てたってことにしておいた。わかる?」「……はい」いいご返事。「そういうことだ。後はうまくやってくれ。それと、君のお母さんと電話で話したんだけどね」途端に麗子は喚きだした。「え! なんでですか! なんでそんなことしたんですか!」「いや、あの、君の仕事の話をしたんじゃなくて……」麗子は聞いていない。泣き喚く。「そんな! ひどい! そんな! なんでそんなこと! ひどい! そんなことするケンリ、どこにあるんですか! どんなケンリがあって、そんなことするんですか! バカヤロウ! ひどい! ひどいいいいいい!」権利だとよ。俺はうんざりして、左手で顎を掻いた。
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「なぜ泣いた?」「だあってぇ。だあってぇわたし、体を売ってるとかいうワケでもないのにぃ……」「え?」俺は混乱した。「わたし、バイシュンフなんかじゃないのにぃ。それなのに、あのひと……」ワケがわからない。「どういうことだ?」俺はモンローに尋ねた。「あのね、つまりね、このコは、自分はシロートだと、こう言いたいワケよ」「素人?」「そう。自分は売春をしているんじゃない。アルバイトの素人だと思ってるのよ」「本気で?」「モチロン。水商売の女だとも思ってないわ。このコは、あくまで女子大生。短大でも、学校行かなくなってもね。だから何も知らない彼氏にもそんなに疚しい気分は持ってないし。そうだよね、麗子」「……だってわたし、毎日やってるわけでもないし、一日に、今まで一番多くて五人だもん。売春婦とかじゃないもん」俺は史上最大の溜息をついた。
(東直巳『探偵はバーにいる』早川書房)
ホントにバカだなあ。よくぞこの役に前田敦子をもってきたと思う。映画には上のセリフは出て来ないが、このまま前田敦子がしゃべっていても一向に違和感がない内容である(笑)。そういう意味ではベストキャスティング賞だ。
ただ、原作の麗子は最後の方でそれなりに重要な役回りを当てられるが、映画版ではそういうこともなく、原作よりはかなり存在感が薄く、原作よりさらにバカだ。そういう役に、曲がりなりにも、かつて国民的アイドルグループの不動のセンターと呼ばれた子をもってきていいのか、という問題はある。でもやっぱりベストキャスティングだよな、これ。
岬マリのあとをつけて、麗子のかくまわれているアパートを見つけた探偵(大泉洋)と高田(松田龍平)は、さっそく部屋に乗り込む。大好きなアイドルのネイキッドのチケットが当たるというアホな誘いにまんまとドアを開けてしまった麗子(前田敦子)は、「原田誠の依頼で来た」という探偵の言葉に緊張の糸がとぎれたのか、泣きじゃくりながら二人に事情説明をする。要するに、ウニいくら丼に釣られて、毛ガニを運ぶ椿の仕事に同行したら、帰り道で惨劇の立ち会い人になってしまった。でも必死で身を潜めていたせいで見つからなかった、というのだ。
麗 子(しゃくりあげながら)「帰ろうとしたら、椿さんがね」
麗 子(コップを渡して)「はい……。漁港のウニいくら丼が超おいしいっていうから」
麗 子「だって私、ウニもいくらも超好きだしぃ」
俺 「ウニいくら丼なら仕方ないね」高 田「ウニいくら丼だからな」
麗 子「そしたら……」俺 「事件に遭遇したんだな」
麗 子「怖くて動けなくて……でも私のこと気づかなかったみたいで……マリさんに電話して……ここに」
俺 「犯人の顔は見たのか?」
麗 子「背の高い男の人だった……」
麗 子「このことは、誠は……」
高 田「原田は何も知らないよ」
麗 子「誠には言わないでください。真剣なんです。結婚したいんです!」俺 「そんなこと言ったって……いつまでここに隠れてるつもりなんだよ」
麗 子「……ごめんなさい……」
俺 「別にあやまって欲しいわけじゃねえんだよ」
麗 子「変な二人組が来たって、もうメールしちゃったんです……さっき」
俺 「えっ!」マ リ「……探偵さん……」
いつの間にか背後に岬マリ(北川景子)と工藤(斎藤歩)がいて、拳銃を握った工藤の手が振り下ろされると、画面は暗転。
気がついたら車で運び出されて、雪道に放り出されていた。
マ リ「全部忘れて」
マ リ「私たちは麗子を警察から守っているだけ」
マ リ「犯人が捕まって事件が解決したら麗子は帰すわ」
工 藤「次ツラ見せたら殺すぞ」
麗 子「誠には上手く言っといて。ね、お願いね!」
せっかく見つけた麗子を、為す術もなく連れ去られ、探偵は高田の手を借り、やっとの思いで立ち上がる。でもなんで高田はなんともないんだろう。
俺 「お前なんで無傷なんだよ」
高 田「キャラじゃねえか?」
何の説明にもなっていない。特典映像のメイキングを観ると、高田は探偵の指示がないと何も動かないので静かにしていたのではないか、と松田龍平は推測していた。
立ち上がり、痛みを堪えて雪道をゆっくり歩きながら、探偵はまたマリのことを想う。
頭を殴られた弾みかどうかしらないが、どこかで見覚えがあると思ったその記憶が蘇ってきた。数年前、雪降る五條新町での出来事だ。
俺 (岬マリ……)
マ リ「お似合いですね。ネクタイ」
俺 「おいモンローいたぞ」
俺 「おい、大丈夫か?……こいつだろ」モンロー「ありがとね。……またこんなとこでぶっ倒れて……死んでもいいの?」
モンロー「ウンじゃないわよ、ほら、立ちなさい」
俺 (あれか……? あれが……マリか?)
モンローは、ススキノ界隈で身体を売っている女たちみんなから慕われていた、面倒見の良い姐さん。四年ほど前、そのモンロー姐さんに頼まれ、路地裏で凍えかけていた若い商売女を探し出したことがある。あれがマリだった。
探偵は、昔モンローと仲の良かったSM嬢の聖子(小島達子)が働く、言葉責め専門クラブ「SM調教部屋 罵詈雑言」を訪ね、聖子から「糞尿を垂れ流すブタ人間」とか罵られながらモンローの居場所を聞き出した。
原作では現役バリバリのモンロー姐さんは、映画版では数年前に業界を引退して、いまでは高倉健の映画に出てきそうな港町で、食堂のおかみさんになっている。
モンロー「いらっしゃい」
ちなみに、以前紹介した、探偵が裸で漁船の舳先に括り付けられるシーン、麗子がウニいくら丼を頬張るシーン、そしてこの、探偵がモンローを訪ねるシーンは、どれも小樽ロケだそうです。ウニいくら丼の店は鱗友朝市内の食堂「のんのん」、そしてこのモンローの食堂は高島「かたの」で、「かたの」は本当はラーメンやチャーハンがメインの中華屋さんなんだけど、撮影用に看板とか付け替えられて大衆食堂になっているという。
俺 「久しぶりだな」モンロー「ふふふ、天下のモンロー様がこのザマよ」
俺 「今のほうがいい女だよ」モンロー「ありがと」
俺 「この女なんだけど」モンロー「見違えたわねえ。生きているか死んでいるかわからないような子だったのに」
俺 「どんな女なんだ」
モンロー「本名、根本典子。私と地元が近いよしみで仲良くしてた」
モンロー「小さな牧場やってた両親がね、悪い筋に金借りて破産したの。で、一家心中はかって、生き残ったのはこの子だけだった。業界に堕ちるのも当然でしょ」
モンロー「それでも、四年前かなあ。好きな男ができてね、妊娠したのよ」俺 「妊娠?」
モンロー「うん。結婚するんだぁなんて嬉しそうに言ってたけど、案の定捨てられちゃって」
モンロー「でも子どもはぜったいに産むんだって言い張ってさ」
モンロー「この子がこんなにキラキラ目輝かせることあるんだって」
モンロー「そう思ったら、何だか私も楽しみになってきちゃってさ」
モンロー「一緒に育てちゃおうかなぁなんて……今でも憶えちゃってる。いや、予定日」
モンロー「2月18日。もうすぐね。4歳か」
モンロー「生まれていれば、あの子の人生も変わっていたんだろうな」
俺 「……駄目だったのか」
モンロー「しばらく姿を見せなくなって、次会ったときは、すっかりお腹へっこんじゃってて、ひどくやつれちゃってさ」
モンロー「こっちもなんにも聞けなかったわ」
モンロー「……あの子、家族が欲しかったのよね……」
モンロー「それからは抜け殻よ、抜け殻。何されてもOK、NGなし」
モンロー「安い金でひどい仕事やらされて、いつもぶっ倒れてた……」
俺 「俺と会ったのはその頃か」
モンロー(頷く)「しばらくしたら、猟奇趣味のサディストから引きがあってね」
俺 「北城だな」モンロー「あの連中はやめとけって言ったのに、結局ふらふら行っちゃった……それっきり」
モンロー「でもこれ見たら、うまくやったみたいね。お金持つと変わるわねえ、いい暮らししてんだろうな」
亭 主「おーい、そろそろ!」
モンロー「今行く〜!」
モンロー「へへへ、あいつのせいで私は産みたくなっちゃった。おかげでこのザマ」俺 「幸せだろ?」
モンロー「会えて嬉しかった」
もともと『探偵はBARにいる』シリーズのスタッフは、『相棒』とけっこう重なっているので、それで鈴木砂羽さんの起用につながったのだろうか。なんにせよ、ワンポイント出演に近いけど、北川景子演じるマリとの関係性において、ドラマのカナメとなる役であり、場面である。この後、長距離バスで札幌に戻る探偵の回想シーンと併せて、味わい深い。
モンロー「ほら、立ちなさい」
俺 「温かい酒でも飲ましてやるよ、行こう」モンロー「うん」
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モンロー「死にたいわけ?」マ リ「死にたいとも、生きたいとも、思わない。ただ息吸って吐いてるだけ」俺 「まあ、それでもいいからさ、とりあえず生きとけ。な、生きてりゃそのうち、何かあるさ」
マ リ「何かって?」
俺 「何かってそりゃ、何か命を燃やすものだよ」マ リ「命を、燃やすもの」
俺 「それは、本人にしか分からないからな。他人にとっては、すげえくだらないもんだったりするしな」
モンロー「ふふ、またテキトー言って」俺 「適当じゃねえって。だいたいなあ、お前みたいなのに限って、私出会っちゃった、とか言ってあっさり手に入れたりするんだよ馬鹿野郎。へへっ」
俺 「とにかく、それまでとっとけ」
モンロー「たまぁに、まあまあいいこと言うね」俺 「ははははは。だろ? 惚れた?」
あの自暴自棄で半分死んでいたマリは、何があって今のような輝きと地位を得たのか。
札幌に戻ると、「次ツラ見せたら殺すぞ」と凄んでいた工藤が自宅マンションで拳銃自殺を図るという事件が起こっていた。
探偵は北海道新報記者の松尾(田口トモロヲ)から情報を聞き出す。拳銃は椿を殺したものと同じ、椿の殺害現場の足跡と同じ登山ブーツも発見された。つまりボスの北城とうまく行っていなかった工藤が、腹いせに椿の運んでいた毛ガニを横取りしたものの、その先どうにもならなくなって追い詰められて自殺した。
というのが表向きの筋書きで、警察はこれで事件の幕を引くつもりだ。だが北城はまったく満足していない。肝心のものが工藤の家から見つからないのだ。毛ガニの甲羅の下にあったはずの計五キロ、末端価格四億円の覚醒剤である。はたして覚醒剤はどこに消えたのか。
松尾の情報にひとつ引っかかるポイントがあった。確かに椿が殺された現場の雪には、工藤の部屋にあった登山ブーツと同じ足跡があった。しかしその現場の足跡、男物の大きなブーツを履いているにしては、あまりにも歩幅がせまいというのだ。
男にしては歩幅が少ない。まさか……。もう一度マリを調べるため、探偵は単身、先日突き止めたマリのマンションのエントランスに張り込む。
ところが、それらしい女性の後ろ姿に気を取られている隙に、岬マリに背後を取られてしまう。
マ リ「うふふ。遊ぼうよ」
遊んじゃうっ。おじさん、夜通しだって遊んじゃう! と空しく叫んだところで今回はこれまで。次回は大泉洋と北川景子のデートだ。