1. TEARSってどういう意味だ?
やあ男子諸君。前回のブログでは、よくも『シン・ゴジラ』にばかり食いついて、少女漫画のレジェンド、浦井タキシード仮面渾身の舞台『王家の紋章』を無視してくれたな。と言いつつ、実は私も『シン・ゴジラ』を引きずっていて、庵野監督の過去の実写作品を引っ張り出して、村上龍原作の『ラブ&ポップ』(1998年)とか、藤谷セガール文子原作・主演の『式日』(2000年)とか観てしまった。
でも今回は、劇場公開された庵野監督の実写映画としては『シン・ゴジラ』の直前の作品ということで(といっても公開は12年前だけど)『キューティーハニー』(2004年)をアバン・タイトルだけ紹介する。
冒頭いきなり入浴中のハニー(佐藤江梨子)。彼女は天才科学者の如月博士が、事故で死んだ娘をモデルに造ったアンドロイド。このへんは『鉄腕アトム』へのリスペクトね。
そこへ電話が鳴り、「宇津木のおじさま」こと宇津木博士が誘拐されたという情報が飛び込む。宇津木のおじさまは如月博士の死後、その研究を引き継いだ科学者である。
お風呂から飛び出して、首のチョーカーのボタンを押し「ハニー・フラッシュ!」と叫ぶが、何も起こらない。エネルギー不足である。
ハニーはしかたなく、下着と、そのへんにあったゴミ袋を身体に巻き付けて町に飛び出す。
で、そのままファミリーマートに飛び込んで大量のオニギリとお茶を購入。
走りながらオニギリを次々に食べていく。
そういえば、永井豪の原作漫画には、変身能力を失って裸になってしまったハニーが公園の草むらに姿を隠し、近くにやって来て弁当を広げた人を襲って奪い、満腹になって変身するという、ヒーローにあるまじきシーンもある。
ハニーは体内に「Iシステム」(空中元素固定装置)を内蔵していて、首のボタンひとつで、周囲の物質(主にハニー自身が着ている服)や空気中の分子を分解・再結合して自由自在に変身できるんだが、装置の駆動に必要なエネルギーが切れたとき、最も手っ取り早く補充する方法は「米の飯を食う」であるらしい。
不燃ゴミとペットボトルはちゃんと分別して出す。
コンビニおにぎりを沢山食べて変身パワーを取り戻したハニーは、満を持してハニー・フラッシュ。
バイクでも車でも自在に乗りこなせるハリケーン・ハニーに変身する。
ちなみに、原作でも、ハニーの最初の変身はハリケーン・ハニーだ。こういうところも、きっちり原作に忠実である。
原典を尊重する姿勢は『シン・ゴジラ』にも通じますね。
バイクを飛ばして、東京湾の海ほたるパーキングエリアに向かうハニー。
だが海ほたるでは、すでに警官たちが宇津木博士誘拐犯を追って動き出していた。
警官隊の指揮をとるのは公安8課の警部、秋夏子(市川実日子)。
原作の秋夏子はハニーの同級生で親友で寮のルームメイトだけど、この映画版は、そもそも舞台が「聖チャペル学園」じゃないし、ハニーも夏子も生徒じゃない。ここでの夏子はバリバリに仕事が出来る女刑事。庵野監督は市川実日子がお気に入りなのだろうか。言うまでもなく、彼女のキャラクターはそのまま『シン・ゴジラ』に受け継がれていると見ていい。
完全包囲の状態で、人質の宇津木博士(京本政樹)を解放して投降するよう説得する夏子だが、逆に反撃される。
誘拐犯は悪の秘密結社「パンサー・クロー」の幹部ゴールド・クロー(片桐はいり)。
パンサークローは、如月博士の発明した「Iシステム」(空中元素固定装置)を狙っていて、そのために如月博士も殺してしまった。でもIシステムを内蔵したハニーをとらえることはできなかった。それで如月博士の研究を受け継ぐ宇津木博士を誘拐して、秘密をさぐろうというのである。
パンサークローの銃弾に襲われる秋夏子刑事。でも間一髪、謎の婦警さんが登場して、夏子を銃弾の当たらないパトカーの影まで誘導する。
強気の夏子は「ちょっとあんた、余計なことしないでよ。これくらいの状況はひとりで切り抜けられるんだからね」と銃を構え、振り返るが、そこにはもう謎の婦警の姿はなかった。
一方、宇津木博士を拉致してさっさと逃亡するつもりだったパンサー・クローだが、気がつけば博士は、裏切り者の戦闘員の手配で逃げだしてしまっている。
なんてこった。後を追うパンサー・クロー一味は、展望デッキでようやく宇津木博士を追い詰める。
と思ったら、その顔は博士と似ても似つかない。
ハニー「ふふふふふ……ははははは」
ゴールド・クロー「貴様、宇津木博士ではないな」
ハニー「気づくのが遅くてよパンサークロー」
ハニー「ハニー」
ハニー「フラッシュ!」
変身シーンのバックに流れる「♪パッパッパヤ♪」というBGMは、おそらく最初のアニメのときのサウンドトラックをそのまま流用しているのではないか。
そのあたりにも伊福部昭のオリジナル・サウンドトラックをまんまモノラルで流した『シン・ゴジラ』に通じる趣向を感じる。
ゴールド・クロー「貴様、なにやつ!」
ハニー「はっはっはっはっ。教えてやろうかパンサークロー」
ハニー「ある時は疾走するバイクレーサー」
ハニー「またある時は木更津の婦人警官」
ハニー「パンサークローの手下」
ハニー「そして宇津木博士の身代わり」
ハニー「しかしてその実体は」
ハニー「愛の戦士、キューティーハニーさ!」
こんなこと書かなくても良いのかも知れないが、念のために解説しておくと「あるときは〜、しかしてその実体は」という決め台詞は、比佐芳武が創造し、片岡千恵蔵が演じて昭和20年代〜30年代にかけて好評を博した探偵映画「七つの顔を持つ男 多羅尾伴内シリーズ」(もしくは「藤村大造シリーズ」)からのイタダキである。
永井豪は同じように昭和30年代のテレビヒーロー『月光仮面』をもじって『けっこう仮面』、桑田次郎の人気漫画でテレビドラマになった『まぼろし探偵』のパロディで『まぼろしパンティ』、あと短編で『ウスラセブン』など、(だんだん書いていて恥ずかしくなる)昭和30年代もしくは高度成長期のヒーロー物にオマージュをささげた作品が多い(ちょっと上品な言い方をしてみた)。そういえば『まぼろし探偵』だけでなく、『月光仮面』も『ウルトラセブン』も漫画版は桑田次郎だったな。
ともかく、そういう永井豪マインドを受け継ごうと思ったら、『キューティーハニー』はまず絶対、多羅尾伴内風に「あるときは〜」というセリフを一度は決めなきゃなんない。で庵野秀明はさすがにそこをきちっと守っているのだ。
と、こんな感じで「原典へのリスペクトを忘れない」「市川実日子が好き」「オリジナルのサウンドトラック仕様」など、探してみれば『キューティーハニー』と『シン・ゴジラ』の間には、ものすごく様々な共通点がある(本当か?)。主題歌もヒットして倖田來未は紅白歌合戦に出場した。でも『シン・ゴジラ』が記録的な大ヒットで、すでに興行収入40億円越えは確実と言われているのと対照的に、『キューティーハニー』は興収4億円で、この作品に社運を賭けていた(賭けるなよ)制作会社は直後に倒産した。ハニーが公開された2004年は、那須博之監督の実写版『デビルマン』も公開されたので、永井豪ファンの中には、この年を「なかったこと」にしている人もいると聞きます。
どうしてそんなに不評だったのか。要するに庵野監督に等身大ヒーローを任せるのは、なかなかリスクの大きい賭けなのである。逆に巨大ヒーローとか巨大ロボットとか巨大な宇宙戦艦とか巨神兵とか巨大怪獣とかだったら安心。アンノは巨大モノに限る。
だから実写映画の次回作は、台本は出来ているのに、徳間→角川とたらい回しにされた揚げ句に頓挫した『大魔神』(脚本・筒井康隆)ではどうか。今だったら出資者はいると思うぞ。
で、実写版『キューティーハニー』としてはこのあと、横山誠総監督、原幹恵(赤ハニー)・水崎綺女(青ハニー)・竹田真恋人(白ハニー)主演の全25話のテレビシリーズ『キューティーハニーTHE LIVE』(2007年)があって、これは原幹恵・竹田真恋人もさることながら、とにかく水崎綺女がすごく良かった。
ミ キ「分かるか。私はハニーのなかで生きるんだ」
ハニー「ミキちゃん!」
そして今年、あと二ヶ月後、2016年10月には久々の実写作品『CUTIE HONEY -TEARS-』が公開されるわけだが、西内まりやの変身した姿が地味すぎないか、という気がする。
そもそも西内まりやがハニーで敵役が石田ニコルっていう配役は、客層としては女子を狙っているということなのかな。だとすると「キューティーハニーの実写版」という企画そのものが、なんか違う気もするが。監督もミュージック・ビデオ畑出身らしいが知らない人だし、ポスターの「サヨナラ、私のキューティーハニー」というコピーも意味不明。というわけでまだイマイチ、ピンと来ない。情報が少なすぎる。
しかし8月も終わりだし、そろそろ本格的な宣伝が始まるのではないかな。待ちましょう。そして応援しましょう。
あと今回も『家売るオンナ』の記事はなし。またそのうちまとめて取り上げることにする。
もちろん私も『家売るオンナ』はずっと気になっている。特に裏番組のオリンピック中継は心配の種だった。もしも日本人選手がメダルをたくさん獲って、国民の関心がそっちに集中しちゃったら、当然『家売るオンナ』の視聴率も落ちる。それは困る。
だからここ2週間はず〜っと「どうか日本が活躍しませんように。もうアメリカとか中国とか韓国とかにコテンパンにやられちゃって、国民のみなさまがあきれかえってチャンネルを変えて、『家売るオンナ』が視聴率40%越えますように」とひたすら念じていた。でも結果的には、前々回は五輪中継の影響で視聴率が1ケタまで落ちたようだが、前回は2ケタ台をキープしているようで良かった。
しかもチームニッポンも怒濤の快進撃ということで、めでたい。いや私だって日本人ですから、北川景子さんに迷惑がかからないのであれば喜んで応援します。頑張れニッポン!
……って五輪もそろそろ終わりか。
さあそれでは、今回は3月以来、半年近く途切れていた本編を再起動したい。ほんとうに久しぶりの本編だ。
2. クンツァイト目覚める
Act.13、クンツァイト登場編の途中だった。て言うかほとんど終盤。
夜な夜な姿を変えては外を出回り、人びとを妖魔に変えてしまうシン。いままでは妖魔が人間の身体に乗り移っていただけだから、妖魔を倒せば、とりつかれた人間は無事にもとに戻った。でも今回は、妖魔を倒すということはその人を倒すことになってしまう。
アユミ「助けて……」
セーラームーン「え……?!」
ル ナ「セーラームーン! 妖魔が乗り移ってるんじゃないわ、人間が妖魔に変わってしまったのよ!」
セーラームーン「人間が?じゃあ倒しちゃったら彼女も?」
ル ナ「あなたの力なら人間を傷つけずに、妖魔の力だけを封じられるはずよ!やってみて」
「妖魔が乗り移っているんじゃないわ、人間が妖魔に換わってしまったのよ!」というルナの言っている理屈は分からなくもないが、結局、攻撃の方法は変わらないのに、なんでこんな設定しにたの? でもまあ、とにかく頑張れセーラームーン!……という、このあたりでしばらく放置しておりました。
さて、次の場面はシンの家に戻る。シンってのはゴジラじゃなくて、まだ普通の記憶喪失の人だったころのクンツァイトだよ。
さっきまでシンのなかでは、平和を愛する青年シンと、クイン・ベリルによって強引に目覚めさせられたクンツァイトの記憶が葛藤していた。もうちょっと正確に言うと、(1)シン(記憶喪失でもいい。このまま平和に暮らしたい)と、(2)クンツァイトA(前世の悲劇はエンディミオンとプリンセスのせいだ。許せん。復讐したる)と、(3)クンツァイトB(でもやっぱりマスターが好き)の三つの思いがぐちゃぐちゃに入り乱れて苦しんでいた。
でもベリルの妖艶パワーで、ついにクンツァイトAの人格が勝つ。
╳ ╳ ╳
ベリル「目覚めたか……四天王最後の一人、クンツァイト!」
╳ ╳ ╳
衛 「……シン……」
クンツァイト「汚らわしい名で呼ぶな!」
かつてのマスターに向かって剣を一閃。衝撃に後じさった衛が顔をあげたとき、すでにクンツァイトの姿はなかった。
と、ここでまたカメラは現場に戻ります。バトルシーンだ。
ルナが変なことを言ったせいで、妖魔の攻撃をかわすばかりで、こちらから攻められないセーラームーン。
セーラームーン「ルナ、ほんとに攻撃しちゃって大丈夫なの?」
ル ナ「セーラームーン、力を信じて。やるしかないのよ」
セーラームーン「わかった……ごめんね……」
このあたりのセーラームーンのセリフ、台本では「攻撃しちゃって」ではなく「攻撃して大丈夫なの?」だったり「わかった、ごめんね」の「ごめんね」のセリフはなかったりする。たぶんこれはうさぎ/セーラームーンのキャラになりきった沢井美優が、自ずとそういうふうに細かいところのニュアンスを直していったんだろうと思うんだけど、どうかな。
で、「人間が妖魔に換わってしまった」状態だと、妖魔への攻撃がそのまま人間体へのダメージとして残るらしいので(だけど「妖魔が乗り移った」状態でもそうなると思うんだが)セーラームーンは妖魔の頭上を飛び越えざま、後頭部を軽く蹴る。
たぶんアユミをあまり傷つけないよう配慮して、軽い脳しんとう状態でも起こさせようとしたんだろう。
セーラームーン「ムーンヒーリングエスカレーション」
なんだかんだと最後にだすワザは結局これである。
でも無事、アユミは元に戻る。駆けよるセーラームーン。
セーラームーン「うん、大丈夫みたい」
ル ナ「よかったわ。でも一体どうやってこんなひどいことを……」
セーラームーン「なに?」
セーラームーン「髪の毛?」
ル ナ「たぶんそれがその子を妖魔に」
クンツァイト「お前がセーラームーンか」
セーラームーン「誰?」
クンツァイト「ダーク・キングダム、四天王の一人、クンツァイト」
ベリルも初対面のとき「お前がセーラームーンか」と言っていた。このときすでにクンツァイトは前世の記憶をある程度取り戻していたはずで、ほかの戦士だったら「おう、お前じゃん」みたいな感じになっていた可能性もあるのだが、「セーラームーン」は超古代の月の王国には存在しなかった戦士なので、たぶんセーラームーンの情報はベリルから得たんだろうね。
といったあたりで今回はこのへんで。やれやれようやく本題に戻れた。