田崎竜太がここのところ一般ドラマでよく仕事をしている。なんて、とっくに知っていた風に書いてるけど、実は前回のコメント欄で百日紅さんから教えていただくまで、気づいてませんでした。
沢口靖子主演『科捜研の女』(東映・テレビ朝日)には、2013年の第12シーズンから監督のラインナップに加わっている。しかしこのシリーズ、「木曜ミステリー」枠で、なんだかんだと15年も制作され続けているんだから、すごいね。で、なぜ田崎監督が……と、スタッフ・リストを見てみたら、この第12シーズンから、塚田英明がチーフプロデューサーになっているのである。『仮面ライダーW』『仮面ライダーフォーゼ』以降ごぶさたしているなと思っていたら、そっちへ行っていたんですか。ま、塚田プロデューサーって、もともと『科捜研の女』には、番組立ち上げから関わっておられたらしいから、古巣に戻った感じなのかも。
で、田崎監督の話なんだけど、去る2015年1月15日より放送が始まった、これまた「木曜ミステリー」枠の観月ありさ主演『出入り禁止の女 〜事件記者クロガネ〜』の第1話を担当されている。これがなんと、丸山真哉プロデューサー。
丸山プロデューサーといったら、『警視庁捜査一課9係』で北川景子以外の全戦士(小池里奈も含む)およびジェダイト以外の四天王とマスター、そして元基をかたっぱしからゲストに呼んでくれた方である。黄川田将也にいたっては『女刑事みずき』『遺留捜査』にも出ていた。沢井美優も『女刑事みずき』に出ていたな。そういう、たいへんありがたい御方である。
また沢井さんとか呼んじゃってくれるかなぁ、丸山P。よろしくお願いします。
いやそれにしてもあれだね、特撮畑の人がどんどんゴールデンの一般ドラマも手がけるようになってきて、東映の次期社長はほんとうに白倉伸一郎なのかもしれない。がしかし、『仮面ライダー』を乱発して稼ぐやり方も、そろそろ限界なんじゃなかろうか。東映の実写映画って最近ふるわないよね。昨年も実写版『魔女の宅急便』が5億円弱で、剛力彩芽の『L♡DK』が4億円、あとは『偉大なる、しゅららぼん』『幕末高校生』『イン・ザ・ヒーロー』といったあたりが2億円台かな、まあとにかく元気がない。『相棒III』がなんとか20億円を稼いだらしいけど、海外勢ではディズニーの『アナと雪の女王』(260億円弱)とかワーナーの『るろうに剣心』(2作あわせて100億円弱)に食われ、国内では東宝の『テルマエ・ロマエII』(43億円)や実写版『ルパン三世』(24億円)や『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』(21億円)、松竹の『ホット・ロード』(25億円)にも圧されちゃってるもんなぁ。このまま白倉Pが社長になっても、なんかこれまでの失敗も含めて経営責任を取らされたりしそう。エグゼクティブ・プロデューサーとしてかかわった北川さんの『ルームメイト』もナニだったみたいだし。
さて、無駄話をしていたらもう時間がなくなってきた。すみません。実写版レビューに戻ろう。
話はどこまでいったか。Act.12の観覧車だ。約束した観覧車の前で待ち合わせている。
と、箱を持ったうさぎが姿をみせて、ぴょんぴょん跳ねながら大きく手を振る。その無邪気な様子につられて思わず微笑む美奈子。
という場面なんですが、でもここ、台本を読むと印象が違っている。シーン21「観覧車・下」がどう書かれていたか、もう一度、確認してみましょう。
待っている美奈子。と、箱を持ったうさぎが手を振りながら駆けてくる。
美奈子「……!」
「……!」がどういうニュアンスかは解釈による。紙箱をもっているので「あれっ」と思ったのかな。でもともかく、この「!」にたぶん「ニッコリ微笑む」という意味はない。つまりこの時点では、プリンセスがあまりにバカなのでガッカリしちゃった美奈子の冷ややかな思いは、基本的にはそのまま変わっていない。変化は観覧車の中で一気に訪れる。少なくとも台本はそういう流れで書かれている。
というわけで今回は、美奈子の心境の変化というか、そのあたりに注意しながら、台本のシーン22「観覧車・中」を少しじっくりと観なおしてみたい。
美奈子「……大丈夫だった? 裏口から出れば良かったのに」うさぎ「あ、そうか。でもアイドルになったみたいで、気持ち良かった〜。こういうの、ヒゲ武者、でしたっけ」美奈子「……影武者……」
うさぎ「あ、影武者。ホントにやったら大変そうですよね〜」
美奈子「……」
うさぎは美奈子に「影武者。ホントにやったら大変そうですよね〜」と語りかけている。でも本当は、美奈子こそプリンセスの「影武者」だ。バカかと見くびっていたら、いきなりグイっと本質を突かれてしまって絶句する美奈子。だから台本には「……」という言葉にならないセリフが書かれている。
もうひとつ。美奈子の絶句に込められた驚きは「プリンセスがそんなことを言うなんて」というものではないか。
実写版の戦士のなかで、美奈子は完全ではないにせよ、前世の記憶をもっている唯一の存在だ。そして前世のプリンセスと護衛戦士の関係は、徹底した主従関係だった。ヴィーナスがプリンセスのためなら命も捨てる覚悟でいるにもかかわらず、冷たい印象があるのは、それが友情とか仲間意識からではなく、純粋に家来としての使命感によるものだったからだ。だから彼女は、プリンセスにも個人の愛情よりプリンセスとしての使命を果たすことを求めた。セーラームーンの前に初めて姿を現したAct.7で「追ってはダメ!」と、タキシード仮面への想いを捨てるようきっぱり忠告したのである。
一方プリンセスも前世においては、ヴィーナスたちを、ただの兵士、持ち駒としか考えていなかった。このあたりは実写版独自の設定で、かつて『M14の追憶』がAct.42の台本をテキストに読み解いたとおりである(ここ)。互いにそういう関係だったそのプリンセスが、転生して目の前にいて、記憶を失っているとはいえ「影武者。ホントにやったら大変そうですよね〜」などと、こちらの労をねぎらうような言葉を口にしている。ここでの美奈子の沈黙には、そのことに対する絶句もあると思う。
そんな美奈子の複雑な想いなど知らないまま、うさぎは「あ、そうだ」と箱を差し出す。
さっき手を振りながら走ってきただけあって、中のケーキは箱の中で動いちゃっていて、ほとんど倒れかかって端にくっついちゃっていたりする。これってリアリズム表現か?
うさぎ「メリークリスマス、はいどうぞ」
うさぎ「アイドルってお腹空きますね」美奈子「……私たち同じ年でしょ。敬語、やめない?」
うさぎ「え! そんな事言ってもらえるなんて、そんな……!でも憧れだから。私、ホンットに大好きなんです」
美奈子「……そんなこと……ホントはもっと大事なことが……」
うさぎ「ぜんぜんないです! 愛野美奈子が一番なんです!」
ここで本編の美奈子は「やっぱりこいつバカ」と見切ったようなため息をつく。でも台本の流れからするとこれも演出の解釈間違いだ。台本では続いてト書きがあって「まっすぐ笑顔で見られて、視線を落とした美奈子が、ごまかすようにケーキを食べる」となっている。つまり、ここで美奈子はうさぎのまっすぐな笑顔に激しく動揺している。なぜか。
美奈子は、ストイックな性格なので、そろそろ戦士としての使命を優先させて、アイドル稼業から足を洗うべきだ、と思っている。本心では歌うことが大好きで、この仕事がなかなかやめられないのに、なかば意地になって「私にはもっと大事な使命がある」と言い聞かせている。それはプリンセスを守ることだ。
でもうさぎはきっぱり「愛野美奈子が一番なんです」と言った。プリンセスその人が、私は自分を押し殺して使命に殉じようとしているあなたなんかより、あなたらしく今を生きているあなたの方がだんぜん好きだ、と面と向かって言っている。だから美奈子は、ちょっとどう返事していいか分からなくなって、つい顔を伏せたのである。
うさぎ「あー!」
うさぎ「ケーキの食べ方一緒!」
美奈子「……イチゴは最後でしょ」
うさぎ「最後だよねー!」
ト書きには「二人が大きな声で笑い出す」とある。ここも難しいね。
笑いながら、気がつけば自然とうさぎの敬語が取れてタメグチになっていて、美奈子も美奈子ですっかりリラックスする。
美奈子「こんなに笑ったの、久しぶりかも知れない」うさぎ「えー、そんなに大変なんだ、アイドルって」
美奈子(こんな風に笑ってもいいんだ。戦士だって、プリンセスだって……)
観覧車は高いところまで来ている。
美奈子は心の中で「こんな風に笑ってもいいんだ。戦士だって、プリンセスだって……」と呟く。いままでの流れからすると、「戦士だって」「プリンセスだって」という繰り返しに、なかなか深い意味のある良いセリフである。ト書きはそれを「観覧車は高いところまで来ている」とフォローする。
リアルタイムでいうと、横浜みなとみらいの観覧車「コスモロック」は1周15分だというから、高いところまで7〜8分。その時間のあいだに、うさぎに対する美奈子の思いに劇的な変化が起こる。それがこのシーンである。
映像作品で「高さ」の感覚を表現に取り込むのって、きちんと計算しないとうまくいかないものなんだが、田崎竜太監督はそういう画面設計の出来る人だ。たとえばAct.2では、成績が上がれば上がるほど孤独に追い込まれていく亜美の心象を、エスカレーターや階段を物理的に「上る」運動で描いた。
そしてそんな彼女が、初めて「下がる」というか「落ちる」場面でセーラーマーキュリーに変身する、という演出を見せてくれた。
あるいは映画『ガメラ 小さき勇者たち』では、名古屋駅の高層ビル、JRセントラルタワーズに突き刺さったガメラというユニークなビジュアルを見せてくれた。
こういう感覚をもった田崎竜太がこの回を担当していたら、ひょっとすると美奈子の(こんな風に笑ってもいいんだ。戦士だって、プリンセスだって……)という心のセリフをフォローする「観覧車は高いところまで来ている」というト書きを、何らかのかたちでビジュアル化してくれていたかも知れない。観覧車はここで頂点に達してから、悲劇を繰り返すまいとするヴィーナスの必死の努力もうらはらに、再び前世の悲劇と同じ地点までゆっくり回り、うさぎはやがてプリンセス・ムーンへと「落ちて」行くのである。う〜ん。ま、今回はこのくらいで。