実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第463回】今度は容疑者役の巻(沢井美優 in『おとり捜査官 北見志穂』)

1. プロローグ:白井靴子さん(仮名)の犯罪



 安楽椅子探偵は原則、事件の捜査には直接かかわらず、関係者から得た情報のみに基づいて仮説を組み立て、真相を推理する。だから犯人を言い当てても、実は探偵自身は、まだ犯人に会ったことさえない場合がほとんどだ。
 『謎解きはディナーのあとで』第1話「殺人現場では靴をお脱ぎください」(2011年10月18日放送、原作:東川 篤哉/脚本:黒岩勉/撮影:栗栖直樹・後藤継一郎/演出:土方政人)でも、安楽椅子探偵の影山(櫻井翔)は、会ったこともない真犯人を指摘する。ていうか、捜査にあたった刑事の麗子お嬢様(北川景子)も、そして我々視聴者も犯人を知らない。そもそも、まだ捜査線上にあがってもいない人物なので、名前すら分からない。ただ犯人が「白い靴を所有している女」であることは明らかである。



 白井靴子(伴杏里)は、恋人の田代(戸次重幸)が浮気していることを知り、浮気相手の女(木南晴夏)のアパートに突撃して、激昂するかなにかして、殺人に及んでしまったらしい。影山と麗子は、とりあえず田代の家に急ぐ。案の定、玄関には白い靴が並んでいる。制止する田代を振り切って勝手に家の中に踏み込むお嬢様と影山。




麗 子「白井靴子さん!」



田 代「は?」



麗 子「単刀直入にお聞きします。あなたはなぜ吉本瞳さんを殺したんですか?」





麗 子「やっぱりあなたが……どうして?」



靴 子「あんたに何が分かるのよ!」



麗 子「もう一度だけお聞きします。なぜ吉本瞳さんを……」



靴 子「あの女が、美人で大金持ちのお嬢様とかだったらまだ許せたかもしれない。でもゴミだらけの部屋にいるあんな女が……」





田 代「お前なんてことしくれたんだよ!」



麗 子「だまらっしゃい!」



麗 子「あなた、吉本瞳さんとの関係はまだ続いていたの?正直、彼女の気持ちは私にはまったく分からない。だけどとにかく、この事件はあなたのせいで起こったのよ。今すぐこの場で彼女にあやまんなさい!」



田 代「済まない。おれが悪かった」



 すぐにあやまっちゃう田代だが、ここはその潔さを評価したい。まあこの人が元凶であることは間違いないが、戸次重幸なのでどうしても許したくなる。
 一方、木南晴夏みたいな女だからという理由で殺された木南晴夏はちょっとかわいそうな気がする。いや木南晴香がゴミだらけの部屋にいるかどうかは知らないが。


╳    ╳    ╳


 刑期を終えた後、靴子(伴杏里)は罪滅ぼしのために刑事に転身する(あまり細かいツッコミは入れないでください)。そして敬愛する十津川警部(高橋英樹)のために新人ホステスに扮し、いわくありげなクラブのママの身辺調査を行う。そこで出会ったのが、おしゃべり好きな先輩ホステスのうさぎ(沢井美優)。放っておいても情報をぺらぺらしゃべってくれる(土曜ワイド劇場『西村京太郎スペシャル 秩父SL・3月23日の証言〜大逆転法廷!!沿線の洗濯物に秘密が 十津川警部VS黒い帽子の女!』2013年7月13日放送、撮影:原秀夫/監督:村川透)。


久保田「あのさぁ、昨日ママから“刑事さんたちには何も言わないように”って言われましたけど、あれはどういう……」



うさぎ「それはね、ウチに来てた戸川さんていうお客さまが事件を起こして逮捕されたのよ。そのことで刑事が来て、ママに“事件があった日、戸川さんと一緒に居なかったか?”って」



久保田「それで?」



うさぎ「ママはお金持ちな人としか付き合わないから、違うと思うんだけど」
久保田「じゃあ、その戸川さんと一緒にいた女性は……」



うさぎ「ホント言うとね、ひょっとしたらママかも知れないの」
久保田「えっ」
うさぎ「事件の前の日、戸川さんが店にきたとき……」


╳    ╳    ╳



戸 川「じゃあ明日、熊谷駅で」
理 恵「ええ」



╳    ╳    ╳



うさぎ「……ママと戸川さんが待ち合わせをしていたのは確かなのよ」


 潜入捜査官として「白い靴の女」ならぬ「戸川さんと一緒にいた白い帽子の女」の特定に成功した彼女(伴杏里)は、その後、刑事からタレントに転身するが、今度はうまくいかず、鳴かず飛ばずの時期が続く。そこで「カラー・スーパーバイザー」と称する占い師のマダム・ルリコに相談しに行くと、「いつまでも白井靴子をひきずっていてはだめ。白を捨てて、身に付けるものはすべて黄色にしなさい」とアドバイスを受け、黄色一色でコーディネートする。
 が、その直後、彼女は富士山のよく見える公園のベンチで、絞殺死体となって発見されたのでありました。





「下着まで黄色」というサービスショット。




捜査にあたったのは、潜入捜査官ならぬ「おとり捜査官」として有名な北見志穂(松下由樹)とその相方の袴田俊郎巡査部長(蟹江敬三)。




いやちょっと、我ながらプロローグが長すぎたと反省しています。では本編。

2. タキシード刑事の活躍


 山田正紀の『女囮捜査官』シリーズは、最初の『女囮捜査官1 触姦』が1996年2月にトクマノベルスから出版された。以下『2 視姦』『3 聴姦』『4 嗅姦』と、およそ2ヶ月に一冊の割合で続々とリリースされ、同年11月の『5 味姦』で完結している。
 プロットはかなり凝ったサスペンス仕立てで、どの作品にも面白いアイデアやトリックが惜しげもなくつぎ込まれていて(特に第2作目のバラバラ殺人の話はすごかった)最後の一冊で、シリーズ全体を通しての大どんでん返しが用意されている。力のこもった本格ミステリ連作である、個人的には傑作と言いたい。しかしそういう内容と、扇情的なタイトルとジャケットデザインのミスマッチのせいか、商業的には、たぶんそれほど成功しなかった。SFや冒険小説ではおなじみの山田正紀(名古屋市出身)も、ミステリ作家としては当時まだ評判が確立されていなかった、ということもある。



 それでも、さすがにマニアやプロはいちはやくその魅力に気付いていて、法月綸太郎とか我孫子武丸といった新本格系の作家たちがそのすごさを喧伝していた。私もそれで読んだんだったな。そんなふうに評判が広がって、2年後の1998年には『触覚』『視覚』『聴覚』『嗅覚』『味覚』とそれぞれタイトルを改めたうえ、「五感推理シリーズ」として幻冬舎から文庫で再刊された。2009年には朝日文庫より「おとり捜査官シリーズ」としても再刊されている。
 これを原作とした『おとり捜査官・北見志穂』の第1作が「土曜ワイド劇場」で放送されたのは1998年であった。主演は松下由樹。原作者と同郷の名古屋市出身なので選ばれたのかな(冗談)。
 でも原作のヒロイン北見志穂は、「被害者学」の手法でおびただしい犯罪データをプロファイルして出てきた「理想的被害者像」にぴったり合致する、という設定だ。要するに痴漢や暴行魔や変質者に最も狙われやすいタイプで、だからおとり捜査官に任命されたのだ(いまちょっと小松彩夏を連想した)。他方、松下由樹は当時『ナースのお仕事』とかで自立する女のイメージが強かったし、女性が選ぶ「理想の上司」にもランクインしていた。ちょっと違うんじゃないかな、と私は思っていた。



 でもまあ、ドラマ版はドラマ版で、原作とは違うヒロイン像をつくり出して好評だったらしく、原作以上に息の長いシリーズとして、1作目から15年経った今日まで続いているのだからエライ。最近は、およそ年1作強のペースで制作され続けて、もはや原作の本数をとっくに越えて、今回が第18作目だそうである。当然、話はオリジナル脚本なのだろう。
 実はこのシリーズ、前作のときも(シリーズ第17作『右手を挙げた美女連続殺人』2013年6月9日放送)私はいくつか画像をキャプチャしていて、でもそれを使わなかった。使わなかったのはこういう場面だ。



ターゲットを張り込み中のヒロイン志穂(松下由樹)、相棒の袴田刑事(蟹江敬三)。後ろに若手のタキシード刑事(渋江譲二)。



と、近くのビルの非常階段の踊り場から、同じターゲットの写真を撮っている謎の男がいることに気づく。



袴田が職務質問をかけようと近づくと、慌てて逃げ出す男。



追う袴田。しかし階段を昇り始めたところで、早くも息切れする袴田。追い抜いていくタキシード刑事。



必死で後を追う袴田。





屋上に追いつめられる男。追っ手を緩めずチャージをかけるタキシード刑事。



ようやく屋上までたどり着いた袴田。もうボロボロ。一方、華麗に男を確保するタキシード刑事。



このあたり、私としてはもちろん、サスペンスドラマでさっそうと活躍するマスターの姿をご紹介したくてキャプチャしたんだけど、でも実際の映像を見ると、どうも蟹江敬三さん演じる袴田刑事のくたびれ方が妙に生々しく感じられて、もうドラマの流れからも浮いてしまっているぐらいに思えたわけ。それで、余裕もなかったこともあり、なんとなくこの場面、使わなかった。



もちろん、この映像は今から一年前のものだから、この時点で胃ガンがどうこうという話ではないとは思う。芝居だろう。ただ蟹江さんの訃報を知った私が真っ先に思い出したのがこの場面だったっていうだけの話なんですけどね。
いずれにせよ、シリーズはこれで打ち切りになるのか、継続するのか。継続する場合、二代目袴田刑事を起用することになるのか、新たなキャラクターを相方に持ってくるのか、どうなんでしょうか。


3. 西条弥生の憤り


だらだら書いていたら例によって長くなって、まだ本編前なのに時間も気力も尽きてきたなぁ。
というわけで土曜ワイド劇場『おとり捜査官 北見志穂18 “幸福の絶頂”美女連続津人!富士山だけが知る、黒いベールの女の秘密…被害者3人に謎の接点』(テレビ朝日系、2014年4月5日放送)である。



話はもう、タイトル通り。冒頭で、赤一色の衣装に身を包んだ若い女(柴田かよこ)が、団地の屋上で手すりにひっかかった形で発見される。首筋にはどす黒い索条痕がくっきりと残されている。明らかに絞殺だ。



 現場捜査にあたった北見志穂(松下由樹)は、この女性に見覚えがあった。可愛がっていた後輩の女性警官、千恵(中島亜梨沙)の葬儀で見かけたはずだ。




 一年前のある日、千恵は富士山のよく見える山梨のロッジで爆死を遂げた。衣類から出た静電気がガスに引果したためと推定されたが、なぜロッジの内部にプロパンガスが充満していたのか、そしてなぜ千恵は東京からそのロッジに車を飛ばして急いだのかは、謎のままだった。婚約者との挙式を目前にしての、悲劇的な死だった。
 その千恵の葬式に参列していた、千恵の学生時代の同級生が、一年後に富士山のよく見える団地の屋上で死体で発見されたのである。しかも指にはエンゲージリング。彼女もまた、結婚を間近に控え、幸福の絶頂にあったところを、唐突に生命を断たれたのである。



 二つの死に何か関係はあるのか。被害者の自宅を捜査した三上刑事(半田健人)は、机の奥に保管されていた一枚の写真を見つけた。写っているのは四人の女子大生。



一年前に死んだ千恵(中島亜梨沙)。



今回の被害者である祐子(柴田かよこ)。



同じく学生時代の仲間だった牧野梓(伴杏里)。



そしていちばん可愛い後輩の西条弥生(沢井美優)。


さっそく、残る二人への聞き込み捜査が始まる。半田健人と真中瞳(今は東風万智子という芸名らしい)のコンビは牧野梓のもとへ。
彼女は芸能人として活動をしていた。こじんまりとした事務所「プロダクションS. I. G」の、いちおうトップタレントらしい。対応してくれた社長(長谷部香苗)によれば本人は海外で今は会えないという。


社 長「牧野梓だったら、おとといからバンコクに行っています」
三 上「いつ帰国される予定ですか?」



社 長「今日の夕方です」
三 上「お仕事ですか?」



社 長「はい、CMの撮影で。と言っても人気タレントの引き立て役ですけどね。梓にはもう、たいした仕事なんか来ないんですよ。大学時代にはミスキャンパスになったりして、もてはやされていた時代もあったんですけどね」





 う〜ん。社長のお言葉が沁みるなぁ。
 一方、志穂と袴田は西条弥生の家に。
 西条弥生の家は電気工務店だ。父一人娘一人の暮らしで、しかも娘の弥生は二階の部屋に引きこもったまま滅多に外に出ようとしない。
 彼女は現在、車イスで生活している。学生時代、先輩たちと丹沢へ登山に行ったとき、近道をしようと誘われ、山道を外れて歩いていたところ、滑り落ちて腰と足を骨折してしまい、手術の成果も思わしくないのだ。







 事故のあと、入院している彼女を親切に見舞ってくれたのは、ガス爆発で死んだ千恵だけだった。だから千恵のことは今でも好きだ。でも、あとの二人は何も音沙汰なしで、自分のことなどなかったかのように、恋人を作って楽しくやっている。そういうネガティブ思考から一種の人間不信になって、いまはあらゆる交友関係を絶ってしまっているのだ。そして父親(宇梶剛士)は、そんな傷ついた娘を必死で守ろうと、誰一人外部の人間とは合わせようとしない。



志 穂「ごめんください。弥生さんはご在宅でしょうか?」
西 条「警察が娘に何の用だ?」
志 穂「弥生さんにお伺いしたいことがありまして……」



志 穂「こちらはお嬢さんの弥生さんですよね」



志 穂「一年前、この三田村千枝さんが亡くなったことはご存知だと思いますが、二日前に、こちらの篠原祐子さんが……」



西 条「帰ってくれ。娘は具合が悪くて寝てるんだ。そんな二人とは、もううちの娘は関係ない」




(凶器は硬い材質の紐状のものと見られる)




袴 田「出直したほうが良さそうだな……」




 退散する二人を二階から見送る人影。弥生である。




 その夜、バンコクでのCMの仕事を終えた牧野梓が、空港に着いてから消息を絶ったという知らせが、梓の婚約者と称するメガネ会社社長の御曹司(牧田哲也)から届く。御曹司は不安で胸も張り裂けそう。もちろん、事務所にも何の連絡もない。



 そして一夜明けた翌朝、公園のベンチで牧野梓の死体が発見される。首には絞殺を示す索条痕、富士山が一望できる見晴らしの良い死体発見現場、そして結婚を間近に控えての死、ほとんど篠原祐子の状況を反復している。



 一方、西条電気工務店の2階。作曲中の佐村河内氏のように暗く締め切った部屋にこもった沢井美優はノートを広げる。



4. マダム・ルリコの悔悟

 さて、篠原祐子は赤ずくめの服装で発見され、牧野梓は下着まで黄色だった。これは何かと調査を続ける志穂と袴田の前に、また別の怪しい人物が登場する。自称「カラースーパーバイザー」のマダム・ルリコである。私も詳しくは知らないが、Dr. コパとか風水の人がよく言いますよね。ストレス解消のためには寝室のカーテンを青にしなさいとか、今週はピンクを身につけると恋愛運アップですよとか、ああいうやつ。
 篠原祐子も牧野梓も、マダム・ルリコのアドバイスで、運気をあげるためにそれぞれ赤ずくめ、黄色ずくめの服に身を包んでいたという。というわけでルリコのもとに事情聴取に急ぐ志穂と袴田。





 よく言えば神秘的な、悪く言えばいかがわしいヴェールで顔を隠してマダム・ルリコ(清水美沙)登場。ここで視聴者的には「おーっ、これは」と思う。
 このドラマはタイトルに「おとり捜査官」とあるから、どうしても松下由樹が、どこかでおとり捜査をしなければいけない。そのためにこんな、ヴェールで顔を隠した女を出してきたな。てことは、松下由樹は最後、この人の身代わりになって守るわけだから、このマダム・ルリコってのは、いかにも怪しげに登場したけれど、実はそんなに悪い人じゃないな、と。ほとんどシリーズを観ていない私ですらだいたい読めちゃったけど、それでいいのか。まあいいか。
 根っから悪い人じゃないのだが、このマダム・ルリコには消せない過去があった。いまから15年前、自動車事故で主婦を死なせてしまったことがあるのだ。その主婦というのがなんと、沢井美優のお母さん。ここで今回のドラマの最大の見せ場、沢井美優の正調セーラー服姿だ。うさぎちゃんとはまた一味違う魅力だぞ。




 ところが、マダム・ルリコこと本郷瑠璃は、実は某大物国会議員の隠し子で、スキャンダルを恐れた父親は、交通課にいた染谷という子飼いの警察官(深水三章)を使ってもみ消しをはかる。



染 谷「奥さんのほうが信号無視をしたことにしてくれないか」



染 谷「五千万、これで何とか納めてもらえないかな」



染谷のM(あの頃、西条は負債を抱えて、電気工務店は倒産しかかっていた)



 というわけで、こっちの線からも西条弥生(沢井美優)が浮かんでくるのである。もちろん車椅子の弥生に犯行は困難なので、直接の嫌疑は父の二郎(宇梶剛士)にかかるわけだが、それにしても、捜査線上に次々浮かぶ謎がみんな沢井美優の方を指さしているって、これドラマとしては、かなりオイシイ話である。
 当然、最初から前に出てペラペラしゃべっては、謎めいた感じも出ない。だから後半の解決編に入るまで、沢井美優のセリフはほとんどない。ていうか、そこまでセリフ抜きで雰囲気でもたせなくちゃいけないんだけど、その雰囲気づくりが良く出来ていた。M14さんも書いていたけど、一時期ちょっとオーラが消えかけていたのがウソみたいに、プリンセスムーンの神秘が復活していた。




 しかしそのプリンセス・ムーンが、ある雑誌の特集記事を見るなり顔色を変える。それどころか、雑誌のページをぐちゃぐちゃにして車椅子でなんども踏みつける。何かといえば、マダム・ルリコがファッション・デザイナーとしてデビューし、ショーを開催するという記事である。






 本郷瑠璃は、もともとデザイナー志望だったけど、沢井美優の母親を死なせた事故がきっかけで、その夢を捨ててしばらく海外で生活していた。やがてほとぼりが冷めたころ帰国して、カラー・スーパーバイザーのマダム・ルリコとして成功してからも、やはりデザイナーは夢だった。それがこのたび、本名でファッション・ショーを開くことになったわけ。怒り心頭に発した弥生はある行動に出る。
 



弥生のN「許せなかったんです。母は事故の後遺症で苦しみながら亡くなった。なのにあの女が夢をかなえて晴れ舞台に立つなんて……絶対に許せなかった」


ファッション・ショーの主催者に脅迫電話をかけちゃうのである。もちろん、電話の声の主が沢井美優の演じる弥生であることは、解決編まで伏せられているのだが、声のトーンがまるっきり「星のハメツ」を告げるPムーンそのものなので、沢井美優原理主義者にはモロ分かりである。電話を受ける吉満涼太。



弥 生「明日のファッションショーに本郷瑠璃を出席させたら、ショーの最中に本郷瑠璃を殺す。これは脅しではない。我々はすでに罪深い女たちに天罰を下した」


 というわけで、脅迫電話からマダム・ルリコを護るために、北見志穂は自分がルリコに扮してファッションショーに姿を見せ、脅迫者が襲ってきたところを逮捕しようと提案する。



 これで看板の「おとり捜査官」にウソ偽りはないことになった。ただこれ、結局メインとなる赤い女と黄色い女の殺人事件にはあまり関係ないんだよね。事件の本筋はこのあと解決する。おとり捜査が無事かたづいてホッとしたのもつかの間、北見志穂(松下由樹)は、ロッジで爆死した千恵の婚約者、アバレキラー(田中幸太朗)に誘拐される。そしてアバレキラーは世界の中心で事件の真相を叫ぶのだ。



だけどまあ、この記事はこのへんで。ラスト、マダム・ルリコも、実は事件以来、ずーっと良心の呵責に苦しんでいたことを知った西条親子は、故人の墓前でルリコと和解する。



西 条「あんただったんですか…」



西 条「申し訳なかった。女房の命日にいつもいつも百合の花を供えてくれたのがあんただなんて…」


弥 生「私も…ごめんなさい」


瑠 璃「西条さん、お嬢さん…。私のほうこそ本当に申し訳ございませんでした」

5. エピローグ:蟹江敬三の栄光


いくつか備考。
 その一。前回は捜査チームの「若手イケメン刑事」のポジションに渋江譲二がいて、おっマスター、レギュラーの座ゲットか、なんて期待しちゃったけど、今回は渋江君はいなくて、半田健人が入っていた。



 調べてみたら、もともと半田健人はこの「おとり捜査官 北見志穂」の11作目からずーっとレギュラーだった。たまたま前回の第17作だけ欠場して、今度の第18作目でまた復帰したということである。なぜ前回だけ渋江君だったのかが、かえって謎になってしまったけど、要するにここは仮面ライダー枠で、1号ライダーを担当した人が欠場した場合は、2号ライダーがサポートする、みたいな感じなのかもしれない。



ちなみに、いま公開中の『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊』は、全体としては『黄泉がえり』のパロディみたいなアホな話だが、半田健人のパートとか桐山漣のパートとか、個別に観ると味わい深いぞ。そして井上正大は相変わらずだ(どういう意味?)。ちなみに泉里香は出ていません。



 その二。真中瞳が東風万智子(こち・まちこ)という芸名で出ていた。けっこう前からこの名前で活躍されていたようです。そして次回予告を見たら、次の土曜ワイド劇場には葉月里緒菜が、最後の一字だけ昔と変えて「葉月里緒奈」という芸名で出ている。なんかいろんなこと考えちゃいましたよ。諸行無常とか。



 その三。この「おとり捜査官 北見志穂」シリーズ、第16作目には亜美ママの筒井真理子が重要な役どころで出演、第17作目には渋江譲二が刑事役で出演、そして第18作目には沢井美優が最有力容疑者役で出演ということで、どうしても次に期待がかかる。でも蟹江敬三さんが亡くなってしまったので、このあたりを潮にシリーズ終了ということになるかもしれない。



 セーラームーン関係者ではないが、今回のブログはやはり、蟹江敬三さんへの追悼をもってしめたい。この人の代表作って「無い」と思う。強いてあげれば日活『天使のはらわた 赤い教室』の村木ということになるのだろうが、しかしGメン75の犯人、ウルトラマンの異星人、スケバン刑事のエージェント、鬼平犯科帳の「小房の粂八」と、時代劇から現代劇からロマンポルノから朝のテレビ小説から特撮まで、殺し屋から強姦魔から小市民から善人まで、ジャンルを問わず、役柄を問わず、我々世代にとっては、記憶のあちこちにこの人の顔がばらまかれている。結局、どの作品のどの役というよりは、「蟹江敬三」というインパクトのある名前と奇妙にマッチしたその風貌だけが残っているのだ。こういうキャリアの残し方もありですね。おつかれさまでした。
 
 



作品データ】土曜ワイド劇場『おとり捜査官 北見志穂18 “幸福の絶頂” 美女連続津人!富士山だけが知る、黒いベールの女の秘密…被害者3人に謎の接点』テレビ朝日系、2014年4月5日、21:00-23:06
<スタッフ>制作:泉放送制作/プロデューサー:高橋浩太郎(テレビ朝日)、雑賀俊郎・坂上也寸志(泉放送制作)/原案:山田正紀/脚本:外村朋子/監督:山本邦彦/撮影:岩田憲/VE:香山達也/撮影助手:生野美智信/CA:早川裕樹/照明:青山茂雄/照明助手:金原聖、矢尻昌也、飯田香奈/録音:葦原邦雄/録音助手:甲斐田哲也、星野裕雄/美術:大光寺泰/装飾:加瀬豊/装飾助手:堀口浩明/小道具:山川詩緒里、山内栄子/衣裳:野村明子/スタイリスト:上山和子、鈴木智子/メイク:岩浅美都子、土橋大輔/編集:目崎和恵/HD編集:佐藤利史/選曲:合田麻衣子/効果:橋本正二/MA:河野弘貴/擬斗:深作覚/医療監修:神平雅司/車輌:前田オート/AP:藤田修/助監督:大草郁夫、伊東英輔、五籐陵/制作担当:奧田順一/制作主任:古谷雷太/制作進行:田口豊、池田彩乃/スクリプター:竹本貴久子/スチール:神谷智次郎、黒部健一朗/宣伝:豊島晶子
<キャスト>北見志穂 : 松下由樹/袴田刑事: 蟹江敬三/井原主任:小木茂光/三上刑事:半田健人/大森刑事:東風万智子/佳代:赤座美代子/マダム・ルリコ: 清水美沙/西条弥生:沢井美優/西条二郎 :宇梶剛士/片桐悟志 :田中幸太朗/山路康介 :長谷川朝晴/橋下直人:牧田哲也/仲根益美 : 大谷みつほ/三田村千絵 :中島亜梨沙/篠原祐子:柴田かよこ/牧野梓: 伴杏里/染谷庄助:深水三章/芸能事務所社長:長谷部香苗/常務:吉満涼太/武良之:広島光