実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第406回】DVD第3巻:Act.10の巻(9)


『特命戦隊ゴーバスターズ』も2月10日でいよいよ終了だ。全話通じて固定的な変身バンクを使わないという試みは、スーパー戦隊としては始めてではないかな?



メインライターは、前作『侍戦隊シンケンジャー』(2009年〜2010年)のときも全49話のうち42本までをひとりで執筆してしまった小林靖子。今回はそこまで行かなかったとはいえ、やはり全50話中36話と、スーパー戦隊としては破格の本数を手がけた。残る14話のうち8話は下山健人、6話は毛利亘宏が書いている。かつて井上敏樹がよく小林靖子を起用したように、自分の担当以外のエピソードは、信頼できる弟分たちに任せたって感じで、小林靖子もアネゴの貫禄である。
監督はパイロットが柴崎貴行で、あと中澤祥次郎、渡邊勝也、竹本昇とお馴染みの名前が続いたが、そんななか理科の加藤先生(加藤弘之)が8本、舞原健三が2本を担当しているのがセーラームーン的にはポイント。特に第20話は、タイトルも「5体結集!グレートゴーバスター!」というくらいで、本来は合体ロボットお披露目の大イベント回でなくてはならないのに、久々に小林靖子脚本を得た舞原健三の関心は、どうも違う方角を向いていた。主人公が敵の罠にかかり、失った家族の幻影に悩まされ、苦しみながらも、自分の弱さを克服する、という心理描写の方を掘り下げすぎて、巨大メカの活躍は少々おざなり。そういうのを楽しみにしていた少年たちには不満だったかも知れない。まあ私としては、冒頭いきなりイエローのパジャマ姿を、可愛く可愛く出してくるところからすでに「舞原監督だなぁ」という感じで楽しかったけど。



ゴーバスターズとは「生体プログラム研究所」で人体に直接「ワクチンプログラム」(敵と戦う変身用のデータ)を書き込まれた三人の若者のことで、謎のウィルスに感染して自我をもった巨大コンピュータを倒すことがその使命である。敵組織の親玉がコンピュータというアイデアは古めかしいし、後半に出てくる「ヒーローにとって敵は必要悪」という発想も、さして珍しいものではない。でもそれを「敵のラスボスのバックアップデータがヒーローの体内に書き込まれているので、倒しても倒しても敵が復元される。敵も敵で、自分のバックアップ先であるヒーローを完全に倒すことは出来ない」というすくみ合いの構造にアレンジしてオチに持ってくるあたり、やっぱり小林作品はおもしろいや。

1. 夏樹静子原作ではないです


さて、本題に入る前にこっちだな。2013年2月4日午後9時にTBS月曜ゴールデンで放送された「女医・早乙女美砂  〜ガラスの階段〜 事件は巨大病院で起こった! 正義を貫く女医が挑む少年の原因不明の病と闇の権力 美砂の壮絶な過去が暴かれる!」(プロデューサー:森下和清/脚本:高木凛/撮影:初瀬康一/監督:松本健)だ。あいかわらず長いタイトルである。あっ後半のはタイトルじゃないのか。
都内でも有数の総合病院に勤務する内科医、早乙女美砂(真矢みき)は、事務長から、原因不明の嘔吐や痙攣に悩む少年(佐藤瑠生亮)の診療を任される。少年の負った傷や強い精神的ストレスの原因をさぐるうち、美砂は家庭内暴力の可能性に気づく。さらに言えば、仕事のために家庭に犠牲を強いる父親(石橋保)の職場にこそ、真の問題はあった。というわけで美砂は少年の父が勤める会社に乗り込む。



……って、それはもう、医者のなすべき仕事ではないよなぁ。しかもその会社の経営者(中尾彬)は、美砂の病院の理事長でもあるのだ。これはもう懲戒解雇必至である。それでも美砂は、秘書の制止を振り切って会長室にずんずん突き進むのである。あれっ、この秘書のひと見たことがあるぞ(笑)。


    


秘 書「お帰りください!会議中はお取り次ぎできないと言っているでしょう」
美 砂「どうしても申しあげなくてはならないんです」


    


青 山「どうしたんだね騒々しい」


    


秘 書「この方がいきなり入ってらして……」


    


青 山「先生、これはまた」
一之瀬「君!会社まで押しかけてくるとは何て礼儀知らずなんだ!」


    


美 砂「お話しなくてはならないことがあります」
秘 書「会長、申し訳ありません。いま守衛を呼びます」
青 山「いやいい。先生の話とやらを伺いましょう。どうぞ」


このドラマ、タイトルからしてシリーズものの一篇かな、と思ったんだけど違った。というか、これを第一作としてシリーズ化したい意向のようだ。
真矢みきは2006年末に日テレ系で夏樹静子原作『検事・霞夕子』(火曜ドラマゴールド)に主演したが、翌年の春には「火曜サスペンス」以来の同局の2時間サスペンス枠そのものが消滅してしまった。だからこのシリーズは、半年後に「スペシャルドラマ」と銘打って放送された第2作目をもってあえなく頓挫している。さらに2010年には、今度はフジテレビの「金曜プレステージ」で、同じく夏樹静子の『弁護士・朝吹里矢子』に挑戦したが、これも1作のみで、続編は製作されていない。
日テレで検事、フジテレビで弁護士、そして今度はTBSで女医さんと、2時間サスペンスの主演にトライを繰り返す真矢みき。総じてキャリアウーマンの役をやるときの彼女は、仕事はできるが「いっぱいいっぱい」な印象が強い。男の目からすると、そんな突っ張り具合がちょっと可愛いわけだが、2時間サスペンスのヒロインとしてはキツいかも知れない。だから、もう少し余裕を出せるどうかがポイントかなぁ。ともかくこの作品がシリーズ化されますように。そして沢井美優さんに、出番は少なくセリフは短くてもいいので、看護師役か何かでレギュラーをください。

2. まだ遠い妖魔図鑑


それではAct.10レビュー。うさぎとレイが変身、Aパート終了というところまで進んだ。
Bパート。高いところの方が音が届きやすいからなのか、どこかのビルの屋上で、四方八方に向かって朗々と「プリンセスへのレクイエム」を歌い続ける妖魔。でも口は閉じている。



胸のところに白いボンボンみたいなものが2つくっついているけど、この妖魔はAct.1以来、はじめての女性妖魔に見えますね。声も仕草もそういう感じだ。そもそも作り方からして違う。ゾイサイトが譜面を書き書き2週間にわたって作り上げてきた。これに較べると、ジェダイトもネフライトも、ハニワ(Act.2)とかサボテン(Act.4)のそばに石を置くと、その力を受けてまんまハニワとかサボテンの妖魔が生み出されるという、けっこう雑な作り方である。



実写版セーラームーンの妖魔は、人間に憑依するとかしないとか、M妖魔であるとか泥妖魔であるとか、男であるとか女であるとか、とにかくその生まれ方や特徴に応じて様々な分類方法が考えられる。というか、いちばん適当な分類方法はどういうものか、見当がつかない。私も何度か、全エピソード通しての妖魔一覧あるいは妖魔図鑑を作ってみたい、などとコメント欄などで述べたこともあったが、結局、着手しかねているのはそのような理由による。もちろん誰かがやってくれていれば言うことない。誰か『実写版美少女戦士セーラームーン妖魔大図鑑』を同人誌として出すなりネットに公開するなりしてくれないものか。



話を戻す。歌い続ける妖魔。そこにセーラーマーズと駆けつけたセーラームーンは、すかさず「ムーンティアラブーメラン!」と叫んで武器を放ち、こちらを向いた妖魔に向かって宣戦布告。


  


セーラームーン「あんな小さい子まで苦しめるなんて最低。月に代わって」


  


マーズ「火星に代わって」


  


セーラームーン「お仕置きよ!」


おっ。変身バンクの時は分割画面のを使わなかった舞原監督だが、この決めポーズのところは、セーラームーンのアップが左から右、マーズが右から左へと交錯する「スライド」(命名:名古屋支部)で処理した。

3. trial and error


さてここから先が戦闘シーンになるのだが、このAct.10の戦闘シーンは、Act.4の対サボテン妖魔戦と並んで、実写版セーラームーンが当初、戦闘シーンの演出にどれほど試行錯誤していたかをありありと実証するサンプルとなっている。
両者の共通点は、どちらもBGMとは違う意味で「音楽」がアクションに絡んでくるところだ。たとえばAct.4は、三体に分身したサボテン妖魔をタイミング良く一挙に倒すために、愛野美奈子の「C’sest la vie」の曲を利用してセーラームーン、マーキュリー、マーズが呼吸を合わせる、という話だった。



どうもアレだね、スタッフが当初、頭に思い描いていた実写版セーラームーンの戦闘シーンは、おそらくミュージカル映画のアクションをバトル風にアレンジしたものだったのではないだろうか。それがイマイチうまい感じに収まらなかったせいで、ちょっとワケの分からないものになってしまったというか。
さて今回Act.10は、妖魔の歌声と、そこから放たれる「♪」記号の攻撃に翻弄される戦士たち、という演出である。なんと、さっきまでこの妖魔の攻撃の武器は「歌声」そのものかと思ったら、歌と共に音符のかたちでエネルギー弾みたいなものを発射できるのである。



だから戦士たちは、歌声を聞かないように耳をふさぎながら、音符エネルギー弾を避けなきゃいけないので忙しい。加えて、妖魔のエレガントな歌声に併せて優美な振り付け風アクションも入ってくるので、演出も大変である。



う〜ん。久しぶりに見ても、やっぱりなかなかですね。このあたりの演出で、監督やアクション監督と並んで苦労されたのがヴィジュアルコレオグラファーの彩木エリ(彩木映利)さんなのでしょう。東映ヒーローネット「ゲキレンジャー・インタビュー第3回 彩木エリ」に、当時の試行錯誤ぶりをうかがわせるインタビューが掲載されているので、その部分を採録します。2007年3月中旬といえば、まだ『獣拳戦隊ゲキレンジャー』が始まったばかりのころの談話です。そういえば福井未菜さんって、一昨年ご結婚されたんですってね。



――まずは東映作品に携わるようになったキッカケから。
彩 木「『美少女戦士セーラームーン』からですね。そちらの丸山プロデューサーが、たまたま主人がずっとレギュラーでやっているNHKの『いないいないばぁ』という番組のプロデューサーと友達だったんですよ。その紹介で、“お願いできますか?”って言われたんです。けど、その時は仕事内容の全てを説明すると絶対断られると思ったらしいんですよ。あまりにも負担が大きかったから。で、最初は女の子のポーズとか、エンディングの踊りをお願いしたいという話で、軽くOKしちゃったんです。
  最初は本当に軽い振り付けだと思ってたんですけど、戦いのシーンで女の子が殴る蹴るのはどうかということで、“何か別の方法で戦っていきたいな”という話が出たんです。で、私も責任感がある方というか、やりがいを見つけたいタイプなので、“やります”と言っちゃって。そこから一年間付きっ切りでした。
 始まってみると、そういった振り付けを取り入れた戦いって誰も見たことがないので、手探りでした。私もイメージだけはいっぱいあったんですけど、私の頭の中は皆には分からないじゃないですか。そうなると説明が上手くいかなくて、カメラマンもどう撮っていいか分からなくなるから、時間もかかりますよね。そういった苦労はありました」
――前例が無い=これまでの経験則が通用しないということで、セーラームーンの現場は大変だったようです。特に戦いの見せ方については悩まれたとのこと。しかし、そこは彩木先生。豊かな経験とアイデアでこれまでにない戦いを具現化します!

彩 木「殴る蹴るができないから、“避ける”っていう方向性にしたんです。でも、チャラチャラ踊ってもなぁ……と。私は器械体操選手だったので、バク転とかキレイなアクロバットで避けるというアイデアが出てきたんです。戦って綺麗に避ける形、ダンス形で避けるという。
 でも番組後半は、戦いが激しくなっていったので、そういったキレイ・カワイイの要素がどうしても前面に出てこなくなってしまったんですね。『ドカーン!』って爆発するようになりましたし。なので、キレイ・カワイイを失わないようにするにはどうしたらいいかずっと考えてました。やっぱり女の子は戦いよりも、どんな服を着ているか、どんなメイクをしているかってところが気になるじゃないですか?ポーズもカワイク、キレイにしなきゃいけないし。当時はそういった葛藤がありましたね」
  (東映ヒーローネット「ゲキレンジャー・インタビュー 第3回 彩木エリ」)


整理すると(1)初期のひらひらアクションは、彩木エリの発案による。(2)ただし東映特撮初参加ということもあって、イメージが周囲にきちんと伝わらず、彩木エリ自身も必ずしも初期のアクションの出来に満足しているわけではない、(3)「攻撃する」より「華麗に逃げる」というところに女の子らしさを表現する方向を見いだした、(4)後半の攻撃的バトルにおけるアグレッシブさと女の子らしさの微妙なブレンドは、誰かが納得したと言うよりも、結果的にそうなってしまった――と、だいたいそんなことが語られている。何ごとにおいてもパイオニアというのは、後進に分からない苦労をするものなのだね。


今回はこのくらいで。最後に、ぴょ〜んと飛んで背後に回った妖魔の攻撃に、思わずマーズが前に出て、セーラームーンを守るシーン。


  


マーズ「うっ」


  


セーラームーン「レイちゃん!」


  


セーラームーン「レイちゃん、レイちゃん、しっかりして。レイちゃん!」


まだ前世のことなど何も知らない二人なのに、プリンセスと、自らの身体を張ってプリンセスの命を守る護衛戦士という構図になっているところが面白いですね。しかも後に「普段はプリンセスなんて呼ばないし、お姫様扱いもしない」とうそぶくことになるレイが、いざとなれば無意識にこういう行動に出るところがちょっと感動です。
ではまた。