実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第349回】『謎解きはディナーのあとで』補遺の巻


前回のコメント欄にも書いたとおり、謎の「セーラームーン忘年会」についての速報は、ひろみんみんむしさんのブログでどうぞ(ここ)。

1. 追 悼



うろおぼえだが、弱冠35歳で『それから』(1985年)を映画化したとき、森田芳光監督は雑誌のインタビューに答えて、これは本当はもっと歳を重ねてから撮りたい題材だった、でも、この先こんなチャンスがあるかどうか分からないので、というようなことを言っていた。
それから20年近く経ち、53歳になった森田監督が、『それから』と同じ筒井ともみの脚本で『阿修羅のごとく』(2003年)を手がけたとき、私はようやく、かつての監督の言葉を理解できた気がした。『それから』も良かったけど、やはり『阿修羅のごとく』に較べれば若気の至りがちらほら見える。なるほど、この手の文芸映画には(月並みな言い方しかできないが)歳をとってこそ出せる「深み」や「味」が必要なのだな、と感心した。同時に、森田監督の自己分析の正確さに驚嘆したりもした。



そのあと森田芳光は、ひさしぶりに脚本・監督の二役を兼ねた『間宮兄弟』(2006年)を発表した。これは意図的に『それから』以前の、自身の初期コメディ作品(『の・ようなもの』や『家族ゲーム』)の世界に回帰した作品だった。この人らしく技巧的なやり方ではあるが、森田芳光は『家族ゲーム』『それから』に始まり『阿修羅のごとく』『間宮兄弟』に終わるかたちで、作家生命を一巡したのではないかと、私は考えている。
その意味で、『椿三十郎』(2007年)は、森田監督の「二巡目」のスタートを予感させる作品だった。なにせ黒澤明の歴史的名作のリメイクなのでいろいろ言われたが、要するに森田芳光は(『男はつらいよ』後の山田洋次のように)時代劇に向かおうとしていたのではないだろうか。




『椿三十郎』は興行的に苦戦したが、昨年の『武士の家計簿』(2010年)は批評家の評判も興行成績もまずまずで、時代劇作家への転身の手応えはつかめたと思う。これらはどちらも自作脚本ではないので、次はいよいよ自分で脚本を書き始めるのではないか。そしてその主要キャストには(森田作品ではないが)『花のあと』(2010年)で時代劇への適性を見せた彼女が絶対に入っているはずだ。第二次森田芳光において、北川景子は重要な柱になるはずだ。私は勝手に期待していたのだ。
還暦を迎えた森田芳光の脚本・監督による痛快娯楽時代劇で、北川景子(ヒロインとはちょっと違う配役)がはじける姿が観たかったよ。残念だ。本当に残念。合掌。

2. グッドニュース(おつかれちゃん)



その北川さんだけど、ご存じのように『謎解きはディナーのあとで』が終了した。最後は第9話と第10話の前後編。第1話に出てきた、影山の「子供の頃は野球選手か探偵になりたかった」というネタを最終話で受ける、という構成は、かなりふくらませてはあるが、原作どおりの趣向。途中だいぶ順不同にはなったが、原作本(1冊目)の第1話と最終話が、ちゃんとドラマ版の第1話と最終話に対応している。でもそれなら、ドラマオリジナルで第1話に出した伊東四朗を、ぜひとも最終回に再登場させて欲しかったと思う。でもまあ、代わりに(なのか?)高橋英樹が出てきてキレイにオチを飾った。ワンシーンのみの特別出演だが「実は麗子には秘密がある」というひと言で最後まで興味をひっぱるのだ。



その秘密とは「実は麗子はいまだにサンタ・クロースを信じている」ということなのだが、ドラマ内では、ラストで麗子に「早く帰って寝ないと、サンタさんが来ちゃうでしょ」と言わせて暗示するだけで、ハッキリとは明言していない。



麗 子「靴下用意するの忘れた! 大きいやつ!」


これはけっこう親切設計である。このドラマ、我が家では小学3年生の息子がいちばん熱心に観ているのだが、現在の彼はサンタ・クロースの存在について、未だ半信半疑なのである。そんなウブな息子が観ているドラマで「麗子ってばサンタさんがいるって本当に信じている」とかストレートに明言されると、親として困るのだ。実際、最後まで観た息子が「麗子の秘密って何なの?」と尋ねたので、私は「大人のところにはサンタは来ないのに、麗子はまだ自分のところにもサンタが来るって信じていること」と答えたよ。どうだ、いたいけな子供の夢を壊さないグッドアンサーだろう。

ところが隣にいた妻がなぜか「違うよ。麗子はまだサンタがいるって信じてるんだよ。それだけ」と不意打ちをかけてきたものだから、息子はしばらく黙りこんでしまったじゃないか。バカバカバカバカ。今年もちゃんとサンタからのメッセージつきでプレゼントを用意しているのに。
でもM14さんのレビューを読んだら(ここ)、小学3年生でサンタの存在を(半信半疑ながら)信じているというのは珍しい、ということになっていた。そうかな。うちは娘も、小学3年まではサンタの存在を根本から疑ったりはしていなかったはずだ。私自身はどうだったかな。よく憶えていないが、たぶん、やはり半分くらいは信じていた。小学校3年の私は、UFOだってネッシーだって宇宙人だって信じていた。5年生の時に出版された五島勉の『ノストラダムスの大予言』だって、けっこう信じた。実際今年は(1999年ではないが)大予言が当たったような年でした。

そういえばNHKで『刑事コロンボ』の放送が始まったのが、私が小学3年生になった年だったのだ。私はたぶん、小学校の図書室で「少年少女世界推理文学全集」(あかね書房)とかに手を出し始めてはいたと思うが、でもコロンボの面白さでミステリに開眼した、って部分は確実にある。
いまや女子高生の娘もそうだ。娘が漫画の『名探偵コナン』とかが好きだったころ、テレビで『富豪刑事』が始まった。放送は2005年の1月から3月で、娘は当時、小学3年生の3学期だった。あれがきっかけでウチの子は、はやみねかおるの夢水清志郎シリーズ(講談社青い鳥文庫)なんかを揃え出したのである。
そして今、うちの息子は小学3年生で、こいつは四六時中ゲームの攻略法ばかり考えていて、コロコロコミックとか怪傑ゾロリくらいしか読書というものをしないバカだが、『謎解きはディナーのあとで』を観るようになってからは、原作を読みたいって言いだした。たぶんバカはバカなりにミステリに開眼したんだろう。小学3年生ってミステリに目覚めやすい年頃なのか?それともウチの家系だけか?
そして何度か書いているように、この作品は、そういう意味でミステリに開眼した人が「アームチェア・ディティクティブとはどういう形式か」「密室のパターンと推理の仕方」「ダイイング・メッセージとは何か」みたいな基本をひととおり学習するには、まずまずの入門編だと思う。ものすごく売れているせいか、原作にケチをつける人は多いけど、そこはきちんと評価してあげなくちゃいけないと思うよ、私は。


ちなみにM14さんのミステリ・SF読書歴は、小学生のクリスマスにもらったこの一冊から始まったという(どうして私はこういう役に立たないことばかりよく憶えているのだろう)。メリークリスマス大家さん。


3. バッドニュース(激しくネタバレ有り)


もうひとつ、最終エピソードについて言っておきたいことがある。この最終話『聖夜に死者からの伝言をどうぞ』は、12月13日放送の第9回が前編(演出:石川淳一)で、12月20日放送の第10回が後篇(演出:土方政人)という二部構成になっているのだが、問題は前篇の方である。



事件は、当代きっての超人気ミステリ作家、天道静子先生のお屋敷で起こる。その晩、天道の自宅には、天道からの招待状を受け取って、いずれおとらぬ才能と人気を誇る、5人のミステリ作家のみなさんが集まっていた。人気グルメミステリ作家とか、トラベルミステリ作家とか、ハードボイルド作家とかね。

綾辻行人の『迷路館の殺人』では、ミステリ界の大御所作家が、将来有望な若手作家4人を自分の館に集めコンペを開催する。参加者は今より5日の間に新作を一本執筆しなければいけない。で、いちばん良い作品を書いた人を遺産相続人に指名する、という話だ。長老作家の財産の額がハンパではないので、若手作家たちは色めき立つ。
この最終話も、始まり方だけは似たような雰囲気だった。招待された作家たちはとっくに集まっているのに、招待主であるはずのミステリ界の大御所、天道先生が一向に姿を見せないところとか、ちょっと『迷路館』ぽいなぁと思ったんだけど、そこから先はぜんぜん違っていた。作家たちがしびれを切らしたので、天道先生の担当編集者(一種プライベートな秘書的存在でもある)が書斎まで先生を呼びに行く。すると先生は「そんな手紙を連中に送った覚えはない」と、離れにある書斎に籠もったきり、彼らに顔を合わせようとしない。もともと天道先生は大の人嫌いで、最近は体調も悪く、この10年というもの、めったに公の場に姿を現したことも無いのだ。
……で、いろいろあるけどめんどうなので、全部省略して、思いっきりネタを割ります。実はこの屋敷には「天道静子なるミステリ作家は、いまから10年前に亡くなっていて、もはやこの世にいない。この10年間、天道静子になりすまして作品を創作してきたのは、担当編集者の佐藤(石黒賢)だった」という秘密があります。この秘密を知らなかった真犯人は、偶然この屋敷を利用して、計画殺人を実行してしまう。それがきっかけで「天道静子はもはや存在しない」というこの家の秘密がバレそうになって、それを守るため、最初の殺人とは別の人物の手によってもうひとつ殺人が起こる。で結果的に、同一犯による推理作家の連続殺人事件のように見えてしまう。ざっくりそういうプロットです。
まあこの話自体かなり無理矢理な感じもするが、そういう技巧性は、多かれ少なかれ本格推理にはつきものなので構わないと思う。でもいけないのは、本当は存在しない天道静子という作家を、あたかも実在しているかのように見せかけるそのやり口である。最初の殺人があって、風祭警部(椎名桔平)と麗子(北川景子)が聞き込みを開始する。
担当編集者の佐藤(石黒賢)の証言。


佐 藤「それで、天道先生に事情を聞きに行ったのですが……」


       ╳    ╳    ╳


  



天 道「知らないわよ、こんなの」
佐 藤「……ですが……みなさん先生から届いたと……」


  


天 道「誰かがいたずらで集めたんでしょ。とにかく、私には関係ないから」
佐 藤「……そう言われましても……」
天 道「邪魔!」


  


佐 藤「……はい……」


       ╳    ╳    ╳


  


麗 子「じゃあ、誰が集めたか分からないってことですか?」
佐 藤「そもそも、天道先生は人嫌いで有名なんです。書斎に籠もりきりで、外との連絡は必ず私を通すはずなんですが……」


続いて天道家の家政婦のミタさん、ではなくて、田口さん(青木和代)の証言。天道静子の別れた夫について。


  


田 口「いえね、私も人から聞いた話なんですけれども、ひどい男だったらしくて……」


  


田 口「借金を作りまくって、あげくの果てに、天道先生の財産と、それまでの作品の版権までもぜーんぶ売っちゃって、どこかに逃げちゃったらしいんですよ」


グルメミステリ作家、宮地沙織(三浦理恵子)の証言。


  


風 祭「アリバイがある?」
宮 地「ええ。もともと私は天道先生の大ファンで、どうしてもお会いしたくて、昨日の夜11時くらいに訪ねたら、仕事場に入れてくれたんです」


       ╳    ╳    ╳


  


天 道「仕方ないわね、良いわよ」


       ╳    ╳    ╳


  


宮 地「そうしたら、意外と気さくな方で、深夜1時くらいまでお話しさせていただいて」


以上三つの証言を並べた。このうち真ん中の家政婦の証言は伝聞で、本人が直接見聞きしたことではないが本当のこと、つまりドラマ内で10年前に起こった事実を再現した映像であり、最初と最後の二つは完全な偽証、つまりそれぞれの語り手が自覚的にウソをついているのを、あたかも事実であるかのように再現して見せたニセの映像である。
要するに私が言いたいのは、これはアリなのか?という一言につきる。
ミステリでは普通、登場人物の偽証を小説の地の文章が支持した場合、アンフェアと見なされますよね。登場人物がセリフの中で「私は11時には先生と一緒にいました」と言うのは構わないけど、地の文で「彼女には11時のアリバイがある」と明言するのはNG。

全編が一人称の語りになっている作品も、その語り手の人はわざとウソをついてはいけない。
で、映画やドラマの場合、登場人物がセリフで意図的な偽証を行ったとき、その光景が本当にあったかのように映像でフォローしてしまうのは、小説で言えば地の文で認めるのと同じくらいアンフェアな表現だと思うのだが、どうかな。さっきの再現映像のうち、家政婦が「私も人から聞いた話なんですけれども」と言って紹介した過去の逸話はドラマ内の事実なのだからそれでいい。しかし編集者とグルメミステリ作家の証言は、本人たちが自覚的についた完全なウソである。それを再現フィルムで実際に起こったように見せられると、視聴者は当然「ああ天道静子って本当にいるんだな」と思うはずだ。せめて、たとえば偽証の内容を再現するシーンだけは、全面的に白黒画像に統一するとか、天道静子(高橋ひとみ)の具体的な姿を画面内に出さない、とか、天道静子に直接セリフをしゃべらせない、とか、何かそれがフェイク映像であるヒントを残してくれれば、それはそれで文句はない。でも、ここではそうした配慮もない。いままでミステリ作品としては大目にみてきたつもりだけれど、ちょっとこれはダメだな。



ところで、ラストのカット、いつもは片隅に「……to be continued」と字幕が出ていたのが、最終回では「see you soon」となっていた。
これって、たんに「機会があったらまた会いましょう」という社交辞令か「DVD発売決定しました」という意味に取って良いのか、それともテレビスペシャルか何かの企画がスタートしたって暗示なのか?どなたかご教示いただけますか?



今回は森田監督追悼、『謎解きはディナーのあとで』無事終了記念の総括、そして安座間さんのお誕生祝いという三つのお題をマクラに振ってから、本編DVDレビューに進むつもりだった。イヤほんと。でも、例によってダラダラ書いているうちに、本題に入れなくなっちゃったし、追悼と誕生祝いを一緒にというのも、どうかという気がしてきたので、ここでいったん終了。次回は一足遅れの安座間さんお誕生祝いとAct.8DVDレビュー完結編(予定)。本当に完結するのか!?



【おまけ】今週のデジャブ



『モップガール』第10話(最終話)より、桃子(北川景子)を守ろうとして犯人に刺される大友(谷原章介)。でも結局それほどたいした傷ではなかった。



『謎解きはディナーのあとで』第10話(最終話)より、麗子(北川景子)を守ろうとして犯人に刺される風祭(椎名桔平)。でも結局それほどたいした傷ではなかった。