実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第343回】DVD第2巻:Act. 8の巻(その14)

1. 『謎解きはディナーのあとで』第4話

 


伊丹十三脚本・監督の映画『タンポポ』(1985年)より、レストランの厨房に忍び込んで、子供にオムライスを作ってあげるホームレス。演じているのはNHK教育テレビ『できるかな』のノッポさんこと高見映。「オムレツを作ってチキンライスの上に載せてナイフで切り開く」というオムライスの作り方を、私はこれで初めて知ったな。



『謎解きはディナーのあとで』第4話より、麗子お嬢様(北川景子)にオムライスを作ってあげる影山(櫻井翔)。



前回は「初回、2回目あたりまではちょっとアレだったが、第3話になって乗ってきた」という趣旨で記事を書いたが、第4話も好調。どこが良かったかというと、今回も、原作に対する脚色が優れていた。
たとえば冒頭。麗子の学生時代の後輩、沢村有里(小林涼子)が結婚することになり、自宅で披露パーティーが開かれる。いつものように影山の運転するリムジンに乗り、有里の家に向かう麗子。麗子としては、影山は招待を受けているわけでもないので、パーティーが終わるまで待機させるつもりだった。ところが気がつけば、なぜか彼は、堂々と招待客の一人として会場にいるのである。この顛末については、原作よりもこのドラマの方が、影山のキャラクターを活かした話の運びになっていたと思う。ていうか、執事をやっていても、どうしても育ちの良いお坊ちゃんにしか見えない櫻井翔をうまく活かした展開であった。
それから、ちょっと飲み過ぎた花嫁が自室に戻ってベッドで一休みしている間に、何者かに刺される。悲鳴を聞いて駆けつけた麗子だが、部屋には鍵がかかっていて、密室状態だった、というところ。原作では、部屋のバルコニーにも、足跡など犯人が逃走した形跡はない、というような描写が続く。ところがドラマ版の方では、足跡も何も、そもそもこの質素な部屋にはバルコニーとかテラスというものがない(笑)。寝室自体もこぢんまりとしているし、白金に複数の高級レストランを経営しているという名門、沢村家の邸宅とは思えないつつましさである。



このあたり、相変わらず内容に較べて実に予算が少なそうなドラマなんですけど、第4話まで来てこっちが慣れちゃったのか、もうこれでいいや、という気にさせられる。だってこのほうが、ヘタに大邸宅のだだっぴろい部屋にするよりも「密室」という状況が分かりやすいじゃん、なんて思えてくるんですね。


そして影山のティータイム。第1話で、お嬢様が喫茶店で関係者に聞き込み調査をしているそばで、影山はひとり優雅に英国式のティータイムを愉しんでいる。



初回なので気づかなかったが、これは毎回エスカレートしていく、続き物のギャグだったのだ。第2話の影山は、釈由美子がママをやっているスナックで、おでんをつまみながら紅茶タイム。



第3話はロイヤル戦士クイーンQと一緒に、自分で焼いたイングリッシュマフィンを味わう。



そして今回、第4話では、結局、第一発見者の麗子に犯人の容疑がかかってしまうのだが、その騒動の最中であっても、お茶の時間はちゃんと守っている。



と、セオリーどおり話数を重ねるたびにエスカレートしていて、次回はどんな状況でティータイムとなるのかが楽しみですね。



てなわけで『謎解きはディナーのあとで』、なかなか快調でたのもしい。何よりも、視聴率が高めのところで安定しているのはありがたい限り。
今シーズンはあと、第1話に沢井さんが出演した『家政婦のミタ』が数字的にかなり良いらしい。ダークな話がどれほど受け入れられるかと思っていたが、脚本の遊川和彦にとっては、『女王の教室』(2005年)以来の大ヒット作となった。
『妖怪人間ベム』も、あの素材にしては頑張っていると言えるだろう。
一方、どうなっているんだと思うのが、木村拓哉&オールスターズの『南極大陸』。初回こそ20%を越えたが、目に見えて視聴率がダダ下がりで、今は15%台まで来て、制作費なんか比較にならないくらい安い(推定)『謎解きはディナーのあとで』を下回っている。かつて同局で、綾瀬はるか以下、人気俳優をはべらせる同様の手法で制作された『MR.BRAIN』(2009年)が平均視聴率20.5%だったことを思うと、ちょっと辛そう。やはり台本に大幅なテコ入れをして、綾瀬はるかをモデルに「南極1号」が開発されるまでのプロジェクトX的秘話に変えてみたらどうか。



さ、今回こそはAct.8のDVDレビューに戻ろう。Cパート冒頭からである。

2. 狙われたアイドル

 


ナコナコなりきりコンテスト会場で、セーラームーンがジェダイトと対峙していたそのころ、愛野美奈子が会場に到着する。
カメラは、車窓を開ける美奈子を、最初は下から捉えているが、これはクレーン撮影でしょうか、上に移動して、最後は美奈子を俯瞰する位置につく。



田崎監督が手がけたAct.1の冒頭で、セーラーVは満月を背景に立ち、タキシード仮面を見下ろしていた。あるいはAct.7ではセーラームーンを見下ろして、タキシード仮面への接近を禁じたのだった。



これまでセーラーVは常に上から目線で見下ろす人だった。それはまあ仕方がない。前世の記憶を持っている唯一の戦士で、しかも気の強い子だからね。しかし今回、セーラーVのマスクを外した「愛野美奈子」は、ゾイサイトという未知の敵から狙われることになって、カメラも彼女を俯瞰気味に見下ろすようになった。
こういう使い方の上からのショットって、不安感をかき立てる。そこへ聞こえてくる奇怪なショパンの音色や、バックミラーを横切るゾイサイトの影。

美奈子「音楽止めて!」
マネージャー「どうかした?美奈子ちゃん」

 


このマネージャーを演じている俳優さんは、長友克巳さん。なぜかオープニングタイトルには名前が出てこない。
長友マネージャー(という役名じゃないけど)は、Act.10のラストで、ロンドンでレコーディングをすませた美奈子が空港に到着したときにも、荷物持ちみたいな感じで一緒にいた。でもそのとき、ゾイサイトが術を使ってトラックを突入させて、美奈子は大事には至らなかったが、ケガで入院してしまう。
それ以降、長友マネージャーはドラマに一切、顔を出さなくなって、代わりに社長のスガオちゃん(池田成志)がマネージャー業務を担当するようになる。てことは、スガオ社長に「ホントにあんた、使えないマネージャーね。ナコナコなりきりコンテストも、美奈子のドタキャンで主催者から苦情が来るし、ロンドンレコーディングの帰りには空港でケガをさせるし」とか言われてクビになった、という可能性が高い。
Act.8のキャストは、火野レイのパパの秘書、倉田さん(宮下今日子)といい、このマネージャーといい、いろいろ人生を感じさせる人が出ている。せめて倉田さんぐらいは、以前コメント欄にNakoさんが書かれたように、結婚退職していまは子供も小学校に入って幸せなお母さんをやっていると信じたい。

3. ドリーム合体技の顛末


さて一方、ナコナコなりきりコンテスト会場。ジェダイトは、これまでの自分の計画を妨害され続けてきたことへの意趣返しはいま、と言わんばかりの怒りにまかせた激しい攻撃で、セーラームーンを追い詰める。ジェダイトの放つ、紫がかった光の球(台本では「黒い光」)に包まれ、電撃を乱打されて倒れ込むセーラームーン。
絶体絶命、でもそこにナイスタイミングで助っ人が登場する。

 


セーラームーン「きゃぁ!」


ジェダイト「ここまでだ。よくも今まで……」


ジュピターの声「待て!」


マーズ「炎と情熱の戦士、セーラーマーズ!」
ジュピター「雷と勇気の戦士、セーラージュピター!」
マーズ「火星にかわって!」
ジュピター「木星にかわって!」


マーズ&ジュピター「おしおきだ!」

 


ちなみに台本ではマーズが「火星にかわって!」と言うと、それを受けてジュピターが「おしおきだ!」と言うことになっているから、そこはちょっと台本を変えてある。
さて、さすがに決めポーズはなかなかサマになっている。が、続くアクションシーンは、残念ながらまだ試行錯誤の域を出ない。この点はおそらく、田崎監督も心残りがあったのではなかろうか。メインとなるアクロバティックな動きの場面では、カメラが引きっぱなしで顔も見えない(顔が見えないようにロングショットなんだけど)。そこへ顔の分かる寄り気味のショットがつぎはぎされる。アップでは、二人ともかなり高く脚をあげたりとか、頑張ってはいる。でも沢井美優のような精悍さがちょっと足りない。私の品性の問題であろうが、ジュピターが脚をあげるカットなんて、なんか「あられもない」なんて言葉が脳裏をよぎってしまう。



直前の、ジェダイトによるセーラームーンぐるぐる回しとフォークダンス的一対一戦(分析はここ)もかなり変であったが、こっちも妙である。以前からしつこく言っているとおり、Act.7のセーラームーンVS納豆妖魔@東京ドーム戦のアクションが、短いながらきちっとできていただけに残念だ。あれはやはり、敵役がスーツアクターで、戦士が沢井美優だから可能だったのだろう。ということで、田崎竜太最後の演出も、アクションシーンには課題を残したままであった。
そして最後、台本ではセーラームーンファンにとって夢の合体技が出る。


  


マーズ「ファイヤーソウル!」


  


ジュピター「フラワーハリケーン!」


  

 


でも、できあがった作品では、上のマーズの「ファイヤーソウル!」というセリフは「妖魔退散!」に変えられてしまっている。一説では、この場面のマーズの口の動きをよくよく見ていると、「ファイヤーソウル」と叫んでいる、つまり撮影までは台本のまま進められたのだが、その後なんらかの事情で、アフレコ段階では変更になったのだ、とも伝えられている。
言うまでもないことだが、「ファイヤーソウル」は、武内直子先生の原作漫画には出てこないアニメ版オリジナルのマーズの必殺技で、一方の「フラワーハリケーン」は、逆に原作漫画ではベーシックな攻撃なのにアニメでは一度も使われることのなかった技である。アニメ版オンリーの技と原作版オンリーの技、これらが同時に打たれれば、セーラームーン史上初のコラボという快挙になるはずだった。でも残念ながらそれは実現しなかった。なぜか。真相は分からない。詳しくは『M14の追憶』(2008年5月21日)の考察をご参照ください。わたしも以前、ここで、あーだこうだと類推しているが、例によって特に根拠もないので、ほとんど妄想みたいなもんである。でもまあ、武内直子先生の意向がはたらいた、とか、東映特撮と東映アニメとのあいだの複雑な関係があった、とか、やはりそのへんの事情が絡んでいるのだろうね。
とにかくそういう、問題含みの合体技だったが、しかしヘタレのジェダイト、今回は頑張って二人の攻撃を食い止めた!



というあたりで、今回はこれまで。またね。






おまけ】yamabosiさん江(下記コメント欄を参照のこと)