実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第337回】DVD第2巻:Act. 8の巻(その12)


クローシェ、クロッシュ(cloche)とはフランス語で「つりがね」という意味だそうです。ご婦人のかぶる帽子に、こういう形のものがありますね。私なんか1930年代というか、「モガ」なんて言葉を連想しますが。



で、フランス料理がワゴンで運ばれるとき、料理の上にかぶせてある銀の蓋ね。あれをなんと呼ぶのか調べていたわけなんですが、やっぱりクローシェって言うそうです。確かに釣り鐘型。メインディッシュの時にはだいたいぴかぴかの銀、デザートだと、透明なガラスってこともありますね。



はい、じゃそういうことで本題だ。




1. ひつこくひつこくホスト談義



あ、でもちょっとその前に。ここのところ毎回ふれている実写版『桜蘭高校ホスト部』の話題。関東地方じゃもう最終回を終えてしまったかな。でも全国各地では、まだ放送されていない地域もあるはず、と思ってTBSの公式ホームページをチェックしにいったところ、これがアナタ、東北・北陸・九州を中心に、まだ放送されていないけど、これからオンエア予定という地域もけっこうある。なので一覧表をコピーしておきます。



これから放送、という地域にお住まいの皆さん。面白いですから、騙されたと思ってぜひご覧になってください。結局やっぱり騙された、と思われるかも知れませんが。私としては今年のベストワンです。




さあ、じゃ今度こそ本題ね。

2. (これもしつこく)疾走するワゴン


さて、ルームサービスに扮したまことが部屋から出てワゴンの上のクローシェを持ち上げると、そこにはレイの顔が。




そしてワゴンで疾走するレイとまこと。
普通のドラマとして観た場合、この部分がエピソードのクライマックスになる。セーラームーンは特撮ドラマなので、この後もうひとつ変身して戦う、という山場があるんだけど、そっちでもセーラームーンは途中で倒れてしまって、いちばんオイシイところはマーズとジュピターがもっていくんだから、やっぱり今回はレイとまことが徹底的にフィーチャーされている。
逆にシリーズの主役であるうさぎの扱いは、とてもおろそかだ。Act.8におけるうさぎの役目は、第一に宿題を紛失して、レイとまことのケンカのきっかけをつくる、第二には、まことにお守りを渡して二人の対話のきっかけを作る、それだけだ。完全に、二人をケンカさせたり仲直りさせたりするための道具になっちゃっている。
ゴールデン・タイムのドラマだと、たぶんこうはいかないね。ゴールデンの青春ドラマの主役は、トップアイドルだったりするから、毎回ちゃんと主役として立てなくちゃいけない。だからこういう話のときも、何らかのかたちで主役が二人の仲直りに一役買う、という話にして、無理にでも活躍する場合が多い。

実写版セーラームーンは、荒唐無稽なのに、そういう細部がリアルで面白い。実際、今回みたいな話は、結局は当事者たち、つまりレイとまことが相互に向き合うことぬきに、本当の和解はありえない。
ちょっと先の話になるが、Act.33とAct.34で描かれたような親子の確執もそうだ。あれだってとことん家庭の問題であって、親友だろうがなんだろうが、他人がへたに介入してはいけないデリケートな世界である。Act.33で初めてレイのパパ(升毅)が登場すると、レイはとりあえず、みんなに「ちょっと先へ行っててくれる?」と言う。うさぎは「えっ…」とその場で様子を見届けたいそぶりを示すが、このAct.8で大体の事情を察しているまことが「うさぎ」と軽く制して、みんなは気にしながらも、レイを置いてその場を離れていく。そしてそれ以降、パパとレイとの問題に、中学生のうさぎがよけいな首を突っ込むことはない。これは正しい態度だし、セーラームーンを繊細で上品なドラマにしている大きな要素だと私は思う。ゴールデンのドラマには、概してその種の品位が欠けているんだよね。たいていの場合、主人公が割って入ってきて「どうして仲直りできないの、分からず屋!」とか言うんだよ。


話が脇にそれた。Act.8、大脱出のシーンでした。このシーンでは、小難しい考えや、くよくよした悩みなど吹っ飛ばしてしまう、木野まことって子の不思議で爽快なパワーが画面を駆け抜けなくちゃいけない。さっきまでのユーウツな空気を一新し、ずっと鬱屈していたレイの気分を癒し、ついでに「さっきのルームサービスの子は結局どうなったんだろう」という視聴者の疑惑や、「倉田さんはレイのパパの愛人かな」なんていうフラチな大人の考えも、どこかに置き去りにしてしまいたい。そういう疾走シーンだ。
ここのところは前回もざっと観たんだけれど、やっぱり面白い。以前、舞原監督のフリーハンドなカメラワークのおもしろさは、文章と静止画像だけではとても紹介しづらいが、田崎監督作品の味わいは、構図とかカット割りとかのスマートな組み立てにあるので、ブログでもある程度その魅力に迫れるんじゃないか、と書いたことがある。なので、ここでこの名場面を、細か〜く分析的に観察してみたい。ポイントとしては、まず最初に、まことがワゴンのハンドルをぎゅっと握ってスタートをかけると、次にワゴンの底にスティディカムカメラを据えた感じの、レーシングカーから撮りました風映像、これで加速感を出しているところ。そして最後に「行けー」のところで手をあげるレイ。


まこと「考えたら、私も家族いないからさ」



まこと「そんなのわかんないよっ」(スタート)



レ イ(嬉しそうに)「きゃーっ」



ワゴンの下からのスティディカム映像



ワゴンの上物を放り出すレイ



走っていくまことの足下に転がり落ちるクローシェ



ロビーにて、あわてて後じさるボーイ



お構いなしに進む二人



(台本ト書き)風を切って走るワゴンにレイが面白そうな悲鳴を上げ、
まことも笑顔でさらにスピードを出す。
驚く客達を後目に台車は走り続け――



まこと「行くよー」



レ イ「行けー」



嬉しそうに両手を挙げるレイ。スローモーションだが、押している安座間さんのポニーテールの揺れ具合からして、決して減速していないことがわかる。この状態でワゴンから両手を離すって、バランスを崩せば危ないっていえば危ないんだが、北川さんは、そういう芝居は自分から買って出てやるタイプだね。この「行けー」は当然、田崎監督のアイデアだろうと思う半面、ひょっとすると両手をあげてバンザイのポーズに北川さんの意見が反映されていたら、と思うと非常に楽しい。


3. いよいよ戦いの場へ


というわけで地下の駐車場へ到着。なぜ一階ロビーからそのまま外へ出ないで地下へ潜ってしまったのか。でもオリジナル台本も「シーン30. 駐車場」とあるから仕方がない。駐車場まで行ってどうするつもりだったんだろう。
このシーンも、台本と映像とではトーンがちょっと違う(しつこいようだが台本全文はここをクリックして読んでね)。台本では「台車を間にして息を整えているまこととレイ」がいて、まことが「そろそろ行かないと」とバッグを持とうとすると、口が開いていて中身が落ちる。二人は笑ったりしながらも「なんとか抜け出したけど、倉田さんの部下たちがまだ追っかけてくるかもしれない」というスリルもちょっぴり味わっている。まこともけっこう、素朴でいいやつなんだけどぶっきらぼう。
 でも完成作品では、駐車場に着いたところで、まことが笑いながらレイに手を差し出して「そろそろ行かないと」と言うと、レイがその手をつかんで起ち上がる。そのあと、レイが巫女の装束の乱れを直している仕草も可愛いし、まことが落っことした文房具をレイが笑うと、まことも最後には笑ってしまう。台本よりもテンポがゆっくりになって、そのぶん、二人の親密さが印象に残って、楽しい。


まこと「そろそろ行かないと、追ってくるかも」



まこと「あ!」




レ イ「へぇぇ、かわいいの好きなんじゃない」



まこと「これは別に……」



レ イ「へぇぇ」



まこと「……好きだよ! 文句あるか!」




ここ、台本のト書きでは「小物をバッグにしまうまことに、ちょっと笑うレイ」とあり、笑うのはレイだけになっている。確かに、アニメ版に近いぶっきらぼうで照れ屋の木野まことだったら、ここは顔を赤らめるだけで笑わないかもしれない。原作版でも、そうかも。でも安座間美優だったら、ここは完成作品みたいに笑顔を見せる方がいいですよね。
まあ、まだAct.8である。当時は観ている我々も、安座間美優という子がどういう個性か把握できていなかった。なにしろセリフ回しがセリフ回しだけに、感情が読み取れなかったし。小林靖子だって、Act.6で出てきた木野まことと、安座間美優のキャラクターのすりあわせは、まだきっちり終わっていなかった(推定)。でもクランクイン前から現場で指導していた田崎監督は、台本ではアニメ版寄りの印象を引きずっていたまことのキャラを修正して、安座間さんの笑顔を入れた方が良いと判断したんだろう。
と、そこへ二人のテレティアが鳴る。

ルナの声「たいへんよ!」


さあ、いよいよナコナココンテスト会場でVSジェダイト戦。そして愛野美奈子が(ポスター写真やテレビ出演やセーラーVとしてではなく)生身の「愛野美奈子」として初登場するシーンへと展開して、後半のクライマックスだ。
……というところで今回はこれまで。いや今とっても忙しくってですね。とりあえず10月いっぱいは仕事の方で怒濤のラッシュなんです。それをやりきって11月の上旬に入れば、後は、わりとのんびりと2012年を待ってればいいことになると思うんで、向こう一ヶ月、たぶん(いつもよりは)短めのブログになります。じゃそういうことで。



考えてみると、この後、Act.12になると、レイの宿命のライバル、セーラーヴィーナスが登場してしまうので、それからはもう、レイはほんとうに屈託のない、心から無邪気な笑顔というのを見せたことがないような気がする。あとはAct.34くらいかな。