実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第144回】Special Actの巻(13)


どちらも開幕ダッシュで快進撃を始めたタイガースとドラゴンズが、シーズン初の直接対決をはたした。シリーズ前半の流れに影響する重要な試合だったと思う。3連戦の予定が雨のために2連戦。肝心の結果は、う〜ん、みんな知ってるでしょう。知らない人は『ぽんたのエスティマ日記』でも読んでくれや。良かったね関西支部(投げやり)。で、こういう状況なのに、名古屋支部のみなさまは、プロ野球なんかより社会人野球チーム「NAGOYA23」に夢中である。これにはこれで深〜い理由があるので仕方がない。
気を取り直して、金本選手、しばらく足踏みが続きましたが、2,000本安打おめでとうございます。ほんと立派。すごいぞアニキ、なんでだアニキ。

1. すまん、また下らない映画の話を…


たとえばウォルフガング・レルツレさん。『Special Act』の冒頭、手術が終わった後、亜美に「アドバイスありがとう、でも内緒にしてね」とささやき、うさぎ失踪の知らせを受けて走り去る亜美の背中に「手術室はこっちだよ」と声をかけるお茶目な先生であるが、この人いったい何者であろうか。Wolfgangはともかく、レルツレのスペルさえ分からない。Googleで「レルツレ」を検索すると、このブログしか出てこない。
これほど左様に、実写版に出てくるガイジンさんたちは謎の人ばかりである。多少は素性が知れているのは、Act.29の雨のロンドンで衛の友人をやっていたトレバー・ルート(Trevor Root)さんくらいだ。当時、上智大学生で、タレント活動をやっていた。後は、Act.10でエストア国のプリンセスをやったオレナ・シュペレヴァ(Olena Spereva)さんも、Act.17とAct.18で神父をやっていたヴィクター・カサレ(Victor Casarett)さんも、もうまったく、何の情報もない。スペルがこれで合っているかさえ、保証の限りではない。
その代わり、と言っては何だが、今回IMDbで変な人を見つけてしまったので、とりあえず報告だけしておく。利用されている方も多いだろうが、IMDb(Internet Movie Database)というのは、たぶんネット界で最大の映画情報データベースである。映画だけではなくテレビドラマの情報もそこそこ入っており、実写版セーラームーンもエントリーされている。で、そこにトーマス・リンチ(Thomas Lynch)という人の名前を見つけた。
このリンチさん、プロフィールによれば、日本語が堪能で、柔道二段、極真空手の黒帯、元ナイトクラブの用心棒という経歴の俳優である。TBSのテレビドラマ『さとうきび畑の唄』(2003年)で「アメリカ兵その1」をやったり、韓国映画『力道山』(2004年)で「プロレスラーその1」をやったり、アメリカ映画『ゾンビ・ストリッパーズ(Zombie Strippers)』(2008年)で「ゾンビその3」をやったりしているそうだが、私はどれも観ていません。


あ『ゾンビ・ストリッパーズ』なんて書いちゃった。こういう単語があると、まめに検索してくる人がいるんだよなあ。無駄足を踏ませるのも申しわけないので、ちょっとだけ紹介します。この映画は『スローター 死霊の生贄』(2006年)のジェイ・リー監督の最新作で、来週末からアメリカで限定公開される(日本の劇場公開は、たぶんない)。舞台は近未来のアメリカ。ネブラスカの田舎町で、ストリッパーがゾンビに襲われる。このゾンビ、実は米政府が極秘開発した人間ゾンビ化ウィルスの感染者である。対中東の軍事目的で試作した不死身兵士が、研究施設を脱走しちゃったのだ。
怖ろしいことにこのウィルスには、女に感染するとストリップと踊りが上手くなるという副作用がある。だから嚙まれて死んだストリッパーは元気良くよみがえり、仕事に出て、これまで以上にばんばん服を脱ぎ、激しく腰を振りまくって、たちまちクラブの一番人気になる。それをうらやんだほかの踊り子たちも、我も我もと進んで嚙まれてゾンビ化する。ショーは夜ごとにヒートアップし、クラブは大繁盛でオーナーはほくほく。夜な夜な客の男を間引きして、生きたままストリッパーの餌にする。踊り子たちが、哀れなスケベ親父を踊り食いである。一方、この情報をつかんだ政府機関は、ゾンビ・ストリッパーズ殲滅のために、最新兵器で武装した精鋭軍団を、ストリップ小屋に送り込んでくる。えーとみなさん、ちゃんと読んでますか。あ、いや別に読んでなくてもいいです。
クラブのオーナー役に、『エルム街の悪夢』シリーズのフレディでお馴染みのロバート・イングランド。一番人気のストリッパー役に「世界で最も有名なポルノ女優」ラスベガス生まれのジェナ・ジェイムソン。ただいまYouTubeで予告編公開中(ここ)。こんなもんでいいですか。ポスターも、レトロなB級テイストがなかなかいいので下に貼っておいてと、そろそろ話を元に戻します。ああ、また無益にアクセス数を増やす種を蒔いちまった。



ともかくだ。そういう映画に「ゾンビ役」で出ているトーマス・リンチさんという方が、実写版の『Special Act』で「司会(MC)役」をやっている、とIMDbには書いてある。しかし『Special Act』に司会なんて出てきたか?
と思って冒頭から確認してみたら、最初の方で、うさぎの家のテレビ画面のなかで、ロンドンの美奈子にマイクを向けて、グリッター賞受賞記念インタビューをしている人がいる。こいつか。顔はほとんどテレビのフレームで切れてしまっているが。
この人の名前は『Special Act』のエンドロールにも出てこないし、ひょっとして本人がIMDBに書き込んだのかもしれないね。ということで、ほとんど「それがどうした」という話だが、いちおう新発見の情報なので。
申し訳ない。ようやく本題です。

2. 亜美ちゃんのペンギン走りは舞原監督の確信犯(推定)

(前回までのあらすじ)月の宮殿から「邪悪な力を感じます。何かが目覚めようとしているような」というクイーン・セレニティのメッセージを受け取ったルナは、さっそく捜査を開始する。一方、レイもまた不吉な予感を感じ、京都の山を降りてきてルナと出会う。だが再開を喜ぶ間もなく、その場で復活を遂げた黒木ミオの攻撃を受け、レイは深手を負う。
十番病院にかつぎこまれたレイ。ルナから知らせを受けたうさぎは「どういうこと?どうしてレイちゃんが」と不安を胸に病院に駆けつけようとするが、その前に立ちふさがるピエロの姿をした妖魔軍団、そして四天王。
「うさぎちゃん、衛君!」駆けつけたセーラールナの声もむなしく、うさぎと、うさぎを助けるために久々にタキシード仮面に扮した衛の二人は、四天王の放った光に包まれ、何処へか消え去ってしまったのでありました。嗚呼この二人の運命やいかに。

前にも書いたように、おそらくルナはここまで、もうそれぞれの道を歩んでいるかつての仲間たちを戦いに巻き込むまいと、一人でがんばっていたのだろう。でもレイが負傷し、うさぎと衛も拉致されたいま、頼れるのは彼女たちしかいない。ルナから緊急事態を知らされる元戦士たち。いよいよ事態は風雲急を告げます。

【日本:花屋の店先にて】
 まこと(携帯を手に)「え、うさぎが!」
【米国:治療室から飛び出す白衣の亜美】
 レルツレ「Ami, your operating room is this way!」
 亜 美(走りながら)「This is the way to Japan!」
【ロンドン:トンネルを移動中の車内】
 美奈子「道を変えて!ヒースロー空港よ、急いで」
 黒 服「え、しかしレコーディングが…」
 美奈子「キャンセルして。…日本に、行かなきゃ」
 白 猫「大変なことに…」

軽快に進む演出が心地よい。まことは、ほんの1秒程度の「え、うさぎが!」というセリフのみ。ハードボイルド・ジュピターにそれ以上のリアクション描写はいらない。あとは駆け出すのみである。亜美の「This is the way to Japan!」というすっとぼけた答えと、いわゆるペンギン走りの組み合わせもいい。焦っているのにほほえましいこの感じは正解です。まあ舞原監督が亜美の演出を間違えるわけがない。ただし、亜美が飛び出してくる部屋のドアに「Treatment」(「処置室」とか「治療室」って意味?)と書いてあるわりに、ちらっと見える部屋の中には本棚しか見えない。大学の文学部の先生の研究室みたいである。いや、まあいいや。
そして美奈子。ふだんは周囲に気をつかうキュートな世界のアイドル(推定)だが、いざとなれば屈強なボディーガードの黒服をキッと睨みつけ、命令する女王体質は健在だ。そして「日本に、行かなきゃ」とつぶやくあたりににじみ出る義務感というか使命感。いまでも、うさぎは彼女にとって守るべきプリンセスなんだ。その身に何かが起これば、何を措いても私が行かなきゃいけないのである。さらに、思わず力のこもった美奈子の胸元にぎゅっと抱きしめられて、にやけそうになるのを真剣そうな表情でこらえるアルテミス。短いカットの積み重ねで、きちんと各キャラクターが描き分けられている。

3. ハンドル問題


ところで、私はエンジン付き乗り物にあまり詳しくないので(といって別に自転車に詳しいわけでもないが)美奈子の乗っている車の車種などはさっぱり分からないが、これって明らかに左ハンドルである。
ご存知と思うが、世界規模で言うと、自動車は右側通行という国の方が多い。アメリカ、カナダを初めとする北米大陸、それにドイツ、フランス、イタリアなど、ヨーロッパ諸国も多くは右側通行で、当然、そういう国の車はだいたい左ハンドルである。しかしイギリスはわが国と同様、右ハンドル・左側通行が普通だ。あとイギリスの植民地だったり、かつて影響下にあった国々もそうですね。インド、オーストラリア、ニュージーランドとか。
で、このシーンだが、車は左ハンドルだが、美奈子に「道を変えて!ヒースロー空港よ」と命令された運転手は、トンネルを出たところで右回りにUターンしている。ということは左側通行か。
ここで「だって海外ロケしているわけないんだから左側通行で当然じゃん。で、深く考えず、外国っぽく見せるために左ハンドル車で撮影しただけだろ」とつぶやいた君、反省しなさい。そうではない。イギリスだから左側通行ということで、考証はしっかりしている。いや、ちゃんとイギリスのどっかのトンネルでロケしているに違いありません。路面も濡れている。ロンドンと言えば雨だ。
だから問題は左ハンドルだ。分かったね。というわけで、少し調べて考えてみた。
先ほど挙げた左側通行の国の中には、オーストラリアやニュージーランドのように、そもそも法律で左ハンドルの車を禁止しているところもあるが、イギリスはそうではないという。つまり左ハンドル車で走ってもかまわない。しかしイギリスで左ハンドル車を所有登録すると、右ハンドル車よりも、ものすごく高い税金を払わされるともいう。それで実際には右ハンドル車がほとんど、ということなんだそうだ。これが近隣国のヨーロッパ車を買わせないための経済政策なのか、それとも、高級外車を買うような金持ちからは、それだけ税金を取ってもいいという発想なのかは知らない。ともあれ、答えは見えてきた。このシーンは「美奈子は、運転手やボディーガードを雇ったうえ、わざわざ高い税金を払って左ハンドル車に乗るくらいセレブなスーパースターである」ということを表現するための、深い意図に基づく演出なのだ。分かったね。


4. 黒木ミオとは何者か(その2)


さて舞台は再び「ピエロの王国」である。前夜、黒木ミオが最初にここを訪れた場面とほぼ同じアングルで、小山ゆうえんちの観覧車の向こうにロックハート城が見える合成ショットが写った後、カメラは城の内部へと移動する。
新生ダーク・キングダムの広間には、サーカスの道具や、ぬいぐるみが転がっていて、ちょっと楽しそうな感じもするが、ミオが座る女王の座の周辺には、ピエロたちがエナジーを吸い込んだ風船がたくさん集められていて、その中からエナジーを奪われた人々のうめき声が漏れるので、やはり不気味だ。ミオにとっては、新たな世界征服の野望に向けての第一歩である。その最初の「生きた獲物」が手錠を掛けられたうさぎと衛なわけで、るんるんである。

ミ オ「ようこそ、私のお城へ。うさぎちゃん、久しぶり。衛君、元気そうだね」
 衛 「いったい何の真似だ」
ミ オ「放送、見てくれなかった?あたし、地球を支配することに決めちゃった。女王になるの」
うさぎ「どうしてそんなこと…みんなのエナジー返して」
ミ オ「だ〜め。で、エナジーの方はいいんだけど、もうひとつ、足りないものがあるんだよねー、ほら女王様の隣りに。さて(等身大パネル1)何で(等身大パネル2)しょー(等身大パネル3)か(等身大パネル4)」
 衛 「お前はクイズやりたくて俺たちを連れてきたのか」
ミ オ「も〜う、にぶいなあ!王様だよ王様。衛君になってもらおうと思って。つまり、私と結婚するの」
うさぎ「えーっ」
ミ オ「ごめんね、うさぎちゃん。うさぎちゃんのエナジーは、結婚式が終わったら貰うね。私たちへのお祝いとして」
うさぎ「ミオちゃん!」
ミ オ「それまでちょっと待ってて、準備が大変なんだよね」

と、杖をさっと一振りしてうさぎと衛を消してしまう。檻の中へ移動させられちゃったのである「あー楽しみ。ねえチャッピイ。うん」。自分勝手に喜ぶミオの傍らには、四天王がじっと立っている。ジェダイト、ネフライト、ゾイサイド、クンツァイト。このへんではもう、4人とも感情の通わない薄っぺらな表情を浮かべていて、本当はただの人形であることが暗示されている。
「さて・なんで・しょー・か」というセリフに合わせて次々に変わる4枚の「黒木ミオ等身大パネル」のうち、もし1枚くれるのなら私はだんぜん2番目を希望するが、そういう話もないので、ここでもう一度、黒木ミオについて考えてみたい。いや、つい先日も【第140回】の「3.黒木ミオとは何者か」および「4.ボディ・アンド・ソウル」で少し考察したが、あれをやってみて「黒木ミオって難しいキャラクターだなあと」つくづく思った。そこに書いたことも含めて、もういちど「黒木ミオって何なのか」ということを箇条ふうに整理してみよう。


*ミオを発案し、生みの親となったのはジェダイトである。Act.27冒頭の会話によれば、当初の目的は「うさぎに近づき、身辺をさぐり、幻の銀水晶を手に入れること」であった。
*しかし、Act.29でうさぎのクラスに転校してきたときには、愛野美奈子の座を狙う新星アイドルであった。いつのまにか「芸能界入りして、守護戦士のリーダーであるヴィーナスの活動を邪魔する」という任務も加えられたようだ。
*また彼女はベリルの「影」でもあり「ベリルの分身として、ベリルの望み通りに動く」という使命をもっている。これはジェダイトが初めからそう設計したのかも知れないし、あるいはミオの制作時に「力」が足りなくて、ベリルの「力」を借りた(Act.29)せいかも知れない。どっちにしても「ベリルさま命」のジェダイトにとっては本望であろう。
*「ケバい」「嫉妬ぶかい」「性悪」という属性は、ベリルの影であることから来ているように思われる。特にうさぎをクラスで孤立させたり、衛とうさぎの恋を邪魔をしようとするのは、だいたいベリルの、前世の昔から積もりに積もった恨みと嫉妬が動機になっている。そのわりにセクシーさが足りないのはジェダイトの経験不足。


もともとの設定はそんなところだと思う。ところがシリーズ後半、具体的にはAct.36のラストにいったん姿を消して、次にAct.37 で衛と鶏の足を食うシーン以降は、そういう「ベリルの操り人形」的な属性が弱くなって、ベリルの意志ともジェダイトの命令とも関係なく、一個の独立した人格として振る舞い始める。学校へ通学しているのか、芸能活動をしているのかも定かではなくなり、有閑マダムのようにダーク・キングダムの自部屋にゴロゴロしていて、退屈しのぎに火野レイを連れてきたり、エンディミオンとクンツァイトの一騎打ちを見せるためにうさぎを拉致したり、どんどん自由行動が目立つようになるのだ。
特に衛への態度は、ベリルとはだいぶ違う。ベリルは、エンディミオンの気持を自分に向かせたくて仕方がない。それがかなわないので、ジェダイトを使って「命を吸い取る石」を衛の体内に埋め込ませて、強引に彼を自分のものにしようとする。それでも衛はAct.43で、日没までに帰れと言うベリルの命令を無視し、うさぎと永遠の愛を誓う。怒り心頭のベリルは、もはや衛の命を奪うこともやむを得ないと決意するが、でもやっぱり、前世以来ずっと抱き続けている彼に対する恋心は、最後まで捨てることができない。
一方ミオは、ベリルのようには衛に執着していない。ミオがこだわっているのはうさぎだ。Act.29で十番中学に転校してきて、体育の時間にうさぎの足を蹴っ飛ばしたときから、ミオの目的は、うさぎを傷つけ、おとしめることだけに向けられているように見える。
前世の月で、仲むつまじい地球の王子と月のプリンセスを物陰から盗み見ていたとき、ベリルの心の中には、エンディミオンへの切ない想いと同時に、エンディミオンの愛情をまるで当たり前に独占して、その影で身分の違いに苦しむ自分のようなみじめな者がいることに気づきさえしない、恵まれたプリンセスの境遇へのどす黒い感情が渦巻いていた。その後者の感情だけが純粋培養されて、一人歩きしたのが、黒木ミオであると私は思う。

5. La femme de l'ombre


闇から生まれた影の女、黒木ミオにとっては、常にみんなから慕われ、明るい光と祝福のなかで生きているうさぎの存在自体が妬ましくてしょうがない。芸能界にデビューして、愛野美奈子をトップの座から追い落とそうとしたのは、美奈子がうさぎのあこがれのアイドルだったからだ。そして衛を憎むのも、彼がうさぎの大切な人だからなのであって、ベリルのように、エンディミオンに恋しているわけではないのだ。だから胸に石を埋め込まれた衛が衰弱していくのを見ても、大して悩んだそぶりを見せなかった。大阪なるをにらみつけて腹痛を起こさせた時と同様、それでうさぎが不幸になるなら、なんだって大歓迎なのだ。
こういう黒木ミオのキャラクターは、この『Special Act』でも一貫している。ラストで異形のバケモノに姿を変えたミオが叫ぶ「うさぎちゃん、あなただけ幸せになんかさせないんだから!」という言葉が、彼女の本音だと思う。今回、新しいダーク・キングダムの女王として地球に再デビューしたのも、人々のエナジーを奪ったのも、衛と結婚しようとしたのも、要するにぜんぶうさぎへの嫌がらせである。別に本気で衛と結婚したかったわけでもないのだ。
この嫉妬の感情は、裏返せば「私もうさぎちゃんみたいになりたい」という羨望でもある。でももちろん、逆立ちしてもうさぎみたいにはなれっこない。そういう意味ではミオはけっこう可愛そうな女だ。そんなミオの悲しみを象徴しているのがチャッピイだと思う。いつもうさぎのそばにいるルナのような、親友であり忠実なしもべである存在が、ミオにはいない。だから薄汚れた犬のぬいぐるみのチャッピイをきれいにして、ルナの代わりに見立てた。けれどもチャッピイは、しょせんはただのぬいぐるみだ。
ラストシーンの先取りになるが、ミオが倒されて、最後にチャッピイがぽとんと地面に落ちる場面は、そんな「私も本当はうさぎちゃんみたいになりたかったのに」というミオのいじらしい気持が伝わってくるようで、ちょっとだけせつない。その気分は、おそらくうさぎも同じだ。憎たらしかったミオちゃんだけど、同い年の淋しい女の子でもあった。私がセーラームーンでなくて、ミオちゃんがベリルの影でなくて、もっと違う出会い方をしていれば、仲良くなれたかも知れないのに、倒してしまった。そうするしかなかったんだけど。そんな迷いが、戦いの後のちょっと沈んだうさぎの表情と「これで、良かったんだよね」というつぶやきになったのだと思う。
ただ、大家さんが以前コメント欄に書かれていたが、この「これで、良かったんだよね」という最後のうさぎのセリフは、いまいち何を言わんとしているのか分からない部分もある。いま私が書いたような意味でこのセリフを解釈するためには、本当はこの新生ダーク・キングダムのシーンで、うさぎに対するミオの屈折した感情がもう少し描かれていなくちゃいけない。だけど実際には、全体的にかなりコミカルな感じで処理されていて、ミオの感情表現は、全編を通じてあまり生々しくならないように抑えられている。まあしかし、すっきり終わりたいシリーズのエピローグ的番外編で、あんまり敵役の性格描写が重くなっても困るわけで、なかなか難しいですね。
いや、ミオのこと考えてたらけっこう時間食った。てことで、また来週。