実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第108回】DVD第1巻:Act.4の巻(その2)


えーと、まずは『広辞苑』の第4版より。

しょ-ろう【初老】(1)老境に入りかけた年ごろ。(2)四十歳の異称

というわけで四十になったら立派な初老だよ御同輩。月曜日は敬老の日ぢゃ。

1. 古式ゆかしき悪の組織


前回『仮面ライダー電王』のイマジンについて書きながら思ったのだけれど、昔のショッカーとかって、それなりに組織がきちんとしていた。首領がいて、幹部がいて、毎回、新たに登場しては倒される怪人がいて、戦闘員たちがいっぱいいたし、幹部にはナチスからのリクルート組が多かったので、統率もとれていた。それに、世界征服という目的にも真剣に取り組んでいた。やっていることは、幼稚園バスをハイジャックするとか、仲の良さそうなカップルを襲うとか、首をかしげるような計画も多かったが、ともかく、最近の戦隊シリーズの悪役幹部みたいに最初からふざけたところもなく、マジメだったね。
最近のライダーの敵側には、組織らしい組織がない。いやクウガのグロンギとかアギトのアンノウンとか、それなりに何か組織構成があったみたいだけど、よく分からなかったし、以降の一連のシリーズも含めて、「世界征服」なんて旗印がどーんと掲げられて、そういう意志のもとにしっかり統率されている印象は、あまりない。
そう考えるとダーク・キングダムというのは、クイン・ベリルという首領がいて、四天王という幹部がいて、妖魔がいて、後半になると、いちおう泥妖魔という戦闘員らしきものも出てきて、けっこうちゃんとしている。ベリル様も、戦隊シリーズのセクシー系幹部と違って、おちゃらけは一切やらず、あくまで妖しく美しく誇り高いし、人間のエナジーを吸いとって星を滅ぼすという目標にも真剣に取り組んでいる。偉い。戦隊シリーズや最近のライダーの敵より、昔のショッカーたちに近いと思う。
特に原作は、かなり影響を受けているんじゃないか。原作では(アニメでもそうだが)、ダーク・キングダムの本拠地は北極のDポイント(どこかは聞かないでね)にあって、あちこちに支部がある。ベリルは世界中で銀水晶を探させているのだ(推定)。で、極東支部なんて、最初はたいして重要視されていなくて、だから四天王のなかで一番ヘタレなジェダイトに任されていた(推定)。ところがセーラー戦士の登場によって、ここが戦略上、非常に重要なポイントになって来て、そこで四天王が次々に呼び出される。

極東支部長 ジェダイト
北米支部長 ネフライト
欧州支部長 ゾイサイト
中東支部長 クンツァイト

ジェダイトは第3話(実写版のAct.3)で、新たな戦士マーズの炎に焼かれて倒れて、次に登場したネフライトは第5話(実写版のAct.6)で、やはり新たに登場したジュピターにやられてしまう、というふうに、四天王がひとり倒されると次が登場する。だから実写版のような、四人揃ってのいがみ合いとかはない。最後の、回心した四人が揃って笑顔でマスターを送り出すシーンは原作どおりですけどね。
一方、テレビ版『仮面ライダー』でも、最初は日本支部なんてほとんど重要視されていなかった。だから最初の2クールは幹部さえいなくて、毎回出てくる怪人たちが指揮をとっていた。ところが仮面ライダーが頑張って、征服計画がうまく行かないもんだから、第26話でテコ入れに中東支部からゾル大佐が派遣される。でも倒されちゃって、以降、第40話でスイス支部から死神博士、第53話で東南アジア支部から地獄大使と、次々に新たな幹部がやって来る。まあヒーローもののパターンと言えばパターンなんだけど、あんまり南半球からは幹部が来ないことなんかも含めて、やっぱり武内先生は意識していたんじゃないかな。
ただ、原作漫画(ダーク・キングダム篇)は、前半はいかにもヒーローものの少女漫画版みたいに、正義の味方が悪を倒す話なんだけど、後半になると、悪の組織の面々も、単純に悪と言い切れない側面を見せてゆく。クンツァイトは、かつてエンディミオンの忠実なしもべとして地球を守っていたころの記憶を取り戻して苦悩し、ベリルは、前世からエンディミオンだけを見つめていたのに、その愛に気づきもしてくれなかったことの哀しみと怨みを告白する。悪役たちもまた悲劇を背負っているのだ。
こういう原作後半のテイストは、アニメ版ではすっかり削られてしまった。四天王が前世でエンディミオンの臣下だったことなど、実写版が出るまでは「裏設定」などと言われていたのだ。その意味で実写版は、原作のダーク・キングダムのイメージを復活させたと言えるかも知れない。
とまあ、またあれこれ考えてしまいまして、今回の日記はダーク・キングダムの話題から入る。

2. 総括ダーク・キングダム:DVD第1巻


さてこのAct.4で、DVDも第1巻が終わる。どうせだからここにAct.1からAct.4までの、ダーク・キングダムでのベリルと四天王の対話をぜんぶ集めて、総括的に振り返ってみよう。そういうことをするから無意味に長くなるんだけどさ。
まずはAct.1、セーラームーンの初戦、渡辺典子妖魔を倒した後だ。これはベリル様ひとり。

【Act.1】
ベリル「誰だ、我が行く手を邪魔だてする者は?許さぬ」

まあ、特にどうというセリフじゃないですね。
次、Act.2。前回でセーラームーンの登場と戦いを目の当たりにしたジェダイトが、ベリルに報告に来た場面。

【Act.2】

ベリル「ジェダイト。セーラー戦士のひとりが目ざめたというのはまことか」
ヘタレ「はい、セーラームーンと名乗りました」
ベリル「あの小娘らが再びあたしの前に現れるとは…おそらくはあやつらの狙いも…よいかジェダイト、お前はいままでどおり、人間どものエナジーを集め続けよ」
ヘタレ「はい」
ベリル「エナジーを集め続ければ、やがてこの地球に滅びの日が訪れる。最良の破滅だ」

すでに第87回の「3. ダーク・キングダムの黎明」でも一部考察したが、ここでのやりとりからは、以下の諸点が読みとれる。
(1)ベリルは「セーラームーンと名乗りました」というジェダイトの答えを聞いても、「そんなセーラー戦士の名前、知らぬわ」などという反応は示さず「あの小娘ら」とか言っている。ベリルはセーラー戦士をひとりひとりきちんと憶えていないようだ。だから彼女はセーラームーンの正体を見抜けず、セーラーVのプリンセス影武者作戦にひっかかった。
(2)「お前はいままでどおり、人間どものエナジーを集め続けよ」というセリフで、ジェダイトが、すでにエナジー集めの活動を始めて、多少の実績を積んでいるらしいことも分かる。でもそんなに前からではない。せいぜい2、3回といったところだろう。と書いたが、強いて根拠はない。ただなんとなく、実写版のダーク・キングダムは、まだこの時点ではそんなに本格的な活動を開始していないように思えるのだ。だって部下はジェダイトひとりだしさ。それにAct.1直前の事件を描いたビデオ『Act.ZERO』にはダーク・キングダムがぜんぜん出てこないし。
まあ『Act.ZERO』は一種のおあそびだから、これをどこまで本編の解釈に使えるか、という問題はあります。でも武内直子の漫画『コードネームはセーラーV』通りだったら、『Act.ZERO』のキューティー・ケンコー一味は、実はダーク・キングダムの一味で、美奈子はかれらとの戦いを通して、悪の組織ダーク・キングダムの存在を知り、同時に前世の記憶を取り戻して戦士の使命に目ざめる、という流れにならなくちゃいけなかった。そうなっていないってことは、実写版の世界は違うって意味なんだと思う。つまり、このころまだベリルは、ようやくダーク・キングダムを旗揚げして、手始めにジェダイトを使って活動を始めたばかりのところだった。そういうことにしておいてください。
(3)ベリルの野望は「やがてこの地球に滅びの日が訪れる。最良の破滅だ」というセリフで示されるが、そうすると、最初は地球を手に入れることではなくて、すべてを破滅に導くことを望んでいたようだ。でもFinal Actを見ると、必ずしもそうでもないみたいだし、よく分からない。最初は破滅を望んでいたが、エンディミオンを見つけた時点で、エンディミオンを手に入れてこの星を支配したい、という気持ちに変わっていったんだろうか。
(4)こっちよ!さんからコメント欄でご指摘いただいて気づいたが、ここでのベリルはまだ「あの小娘らが再びあたしの前に現れるとは」と「あたし」という一人称を使っている。それが次の回になると「わらわ」に変わる。Act.3、歴代の火川神社の巫女たちを拉致しているジェダイトが、報告に現れる場面。

【Act.3】
ヘタレ「もうすぐ集まります。聖なる少女たち七人。やつらからしぼり取れるエナジーは、最良のはずです」
ベリル「しくじるなよ、ジェダイト。わらわもそう寛大ではない」

で、問題は、Act.2の「あたし」(もしくは「私」)は、単に制作サイドによるセリフのチェック忘れというか、ケアレスミスと考えていいのか?ということですよね。
そうかも知れない。でも小林靖子は、このドラマで呼称にはかなりこだわっている。たとえば第2回で取り上げた通り、うさぎと衛が互いをどう呼ぶかという問題についても、すでにAct.1で、その後の展開に向けて最初の布石が打たれていた。そういうことを考えると、ここでも意図的に「わらわ」でなく「あたし」と書かれた可能性を考えておかなきゃいけない。とすると、どうなるか。

3. 「もう良い。女王様あそびは終わりだ」(Final Act)


だいたい、キングダムだクインだといっても、前世からプリンセスだったうさぎと違って、ベリルは前世ではただの貧しい身なりの娘だった。ダーク・キングダムなんて悪の帝国は、前世に存在していたわけでもなくて、ただベリルが、前世で地球の王子の配下だった四天王を、自分の手もとに置いて、ゴージャスな女王のコスプレをして、女王様ごっこを楽しんでいるだけなのだ。杉本彩がハマリ過ぎていてそうは見えないが、ベリルの、あのいかにも威厳に満ちた振る舞いや「わらわ」という話し方は、四天王たちに自分を「女王」として認めさせるために、後から苦労して身につけたものである(推定)。
けれども四天王は、一人のヘタレを除いて、内心では誰も、彼女を真の女王とは認めていなかった。いやネフライトはそうでもないかな。とにかく、だからみんな最後には離れていった。Final Actで、何もかも崩壊してゆくなか、ベリルがつぶやく「女王様あそびは終わりだ」というセリフは、文字通りの意味に受け取らなくてはいけない。これは遊びだったのだ。そして、術を解かれても離れようとしないジェダイトに「お前は愚か者だな」と言いながら手を差しのべたとき、彼女はようやく、たった一人の臣下に君臨する、本物の女王になった。
いや話がそれた。つまりそういう意味で、Act.2のベリルは、まだ「わらわ」と名乗ることを思いつく前の段階であったと考えることもできる。そうすると「女王様ごっこ」が本格的に始まったのは、彼女が「わらわ」と名乗り始めたAct.3からと見なしてもいい。それは言い過ぎかもしれないが。
ベリルがいつ、どのようにしてベリルとなったのかは、実写版では語られていない。原作によれば、普通の人間として現代に転生したベリルは、北極圏に封印されていたメタリアを発見したとき、前世の記憶を取り戻してクイン・ベリルとなったという。実写版も同じような事情であると想定するなら、ある日、テレビのロケで吉見の百穴にやってきた杉本彩が、その奥にあった迷路に迷い込んでメタリアを発見し、そこで前世のベリルとしての記憶を取り戻した、とか、だいたいそういうことになるだろう。
そうやって、自分が闇の王国の女王になることを思い立って間もない段階では、ベリルはそれまで通り「あたし」と自称していたのだ。ところがその後セーラー戦士が目ざめたことを知ると、プリンセスのことや、エンディミオンのことや、身分違いの恋といった、前世の屈辱的なあれやこれやが記憶に甦ってきた。私が貧しくてプリンセスじゃなかったばっかりに、エンディミオンは私に目もくれなかった。今度は見違えるくらいゴージャスなクイーンになって、昔の自分を見返してやる。ベリルはそう思っている。それでAct.3からは、より女王らしく「わらわ」と名乗りだした。ということで、どうかな。
どうかなと言われても、読んでいるみなさんもお困りだと思うので、Act.4に進む。ようやくAct.4の冒頭、ダーク・キングダムのシーンまでたどりついたぞ。いつもこんな調子ですみませんねえ。

【Act.4】
ベリル「セーラー戦士が三人まで揃うとは……。まさか奴ら、本気であのおぞましいプリンセスまでも目ざめさせるつもりか。しかし、プリンセスがいるならば、あの幻の銀水晶も、手に入るやも知れぬ」
ヘタレ(入ってきて)「クイン・ベリル様、おれが幻の銀水晶を……」
ベリル「黙れ。エナジーも集められずに大きな口を叩くな。……わらわに愛されたくば、役に立ってみせよ、ジェダイト。……ネフライト、おるか?」
ネフ吉「おそばに、クインベリル様」

「セーラー戦士が三人まで揃うとは……」という言い方から察するに、ベリルは一応、セーラー戦士がぜんぶで四人ということは把握しているんだろうね。そのうち三人までも目ざめたというのだから、これはひょっとしてひょっとするかも知れない。というわけで、このAct.4では、これまであまり念頭になかった(あるいは考えたくなくて避けていた)「プリンセスの復活」が、かなり具体性を帯びた話になってきて、ベリルは少々あせっている。しかし一方で、プリンセスの所在が分かれば、同時に「幻の銀水晶」も手に入るかも知れない、とも考えている。銀水晶とプリンセスの存在がセットになっていることを、ベリルはよく分かっているようだ。そこで、プリンセスが目ざめるのはまずいが、銀水晶を奪えば、その不利をこちらの有利に転ずることができる、と考えたんですね。
Act.2冒頭で、セーラー戦士が姿を現わしたと聞いたベリルは「おそらくはあやつらの狙いも……」とつぶやく。このセリフの後に続くのはもちろん「幻の銀水晶」だろう。だから一応、ベリルも当初から、銀水晶を探し出して、メタリアを完全復活させることを考えてはいたのだろう。ただそれをやると、プリンセスを目ざめさせる危険に踏み込まざるをえない。そこで当面の活動を、人間たちからエナジーを集めてメタリアに捧げることだけに絞っていた。そのためにはジェダイトがいれば充分だった。ところがセーラー戦士が続々と登場してきたもんだから、Act.4では、彼女たちに先んじて「幻の銀水晶」を手に入れなきゃならない、と思うようになった。
非力な人間たちからエナジーを集めるだけの仕事なら、ジェダイトひとりに任せておけるが、セーラー戦士に幻の銀水晶となると、あのヘタレ一人ではちと荷がかちすぎる。というわけで、待機させていたネフライトを召喚して、銀水晶さがしはネフライトに担当させる。
ここで気づかせられることがひとつある。ネフライトは、以上のような登場の仕方をすることによって、すでに亜美と対称をなす立場に置かれているのだ。

4. 銀水晶を挟んで対峙する亜美とネフライト


ここでちょっと、ダーク・キングダムから目を転じてクラウンの方を見てみよう。こちらについても、すでに第94回の「4. カバンの問題、そして「幻の銀水晶」」で考えてみたが、しつこくもう一度取り上げます。
Act.2で、ルナはうさぎをクラウンの秘密の部屋へ案内して、戦士の使命についてレクチャーする。でもうさぎはルナカラとかテレティアとかのアイテムを面白がっていて、あまり真面目に話を聞いていない。

【Act.2】
ル ナ「ここでなら、秘密の話もできるでしょ。私たちの使命は、目ざめようとしている巨大な悪のかたまりを封じることよ。でもそのためには、プリンセスと幻の銀水晶を探さないと……あ、うさぎちゃん、何してるの?」
うさぎ(テレティアで変身)「さっき道ですれ違って、かっこよかったからさ。これいいよぉ。何にでも変身できるもんね」
ル ナ「うさぎちゃん、これは遊びじゃないのよ」
うさぎ「分かってるけど……むずかしい話は、ちょっと苦手かな」
ル ナ「もう……。とにかく敵は人間のエナジーを集めて、悪のエネルギーにしてるわ、今は、町の人たちを守ることが、セーラー戦士として……」
うさぎ(カラオケセットで歌おうとして、突然)「あっ!」
ル ナ「あら、ななな、何なの?」
うさぎ「明日テストあるの、忘れてた〜!」
ル ナ「……早く、仲間の戦士、見つけなくっちゃ」

作戦室クラウンの参謀としてのルナの方針は、ダーク・キングダムにおけるベリルときっちり対応している。ベリルは、まずは四天王のなかで最も手なづけやすいジェダイトを召喚して、エナジー集めに従事させた。しかし手なづけやすいぶんヘタレでもある彼に、銀水晶のことは任せられない。そこで次にネフライトを呼び出した。
まったく同様に、ルナは最初に見つけた戦士うさぎに、妖魔を倒す使命を与えた。そしてクラウンで、プリンセスと銀水晶さがしについても説明しようとしたが、うさぎはそもそも話を聞いていない。だから「早く、仲間の戦士、見つけなくちゃ」ということになって、Act.2で亜美を見いだす。というわけでAct.3冒頭のクイズ大会だ。

【Act.3】
ル ナ「四人のセーラー戦士の使命は?」
うさぎ「はいはいはい!人間のエナジーを奪う妖魔と戦うこと」
ル ナ「ブーッ。それだけじゃダメ、はい亜美ちゃん」
亜 美「プリンセスと幻の銀水晶を探し出して守ること」
ル ナ「正解!」
うさぎ「幻の銀水晶って、何だったっけ?」
ル ナ「もう、うさぎちゃんたらぜんぜん私の話、聞いてないんだから。幻の銀水晶は、ものすごい力を秘めた宝石なの。敵の手に渡ったら、地球がすぐにも滅んでしまうくらいの」

この二人の回答ぶりに明らかなように、うさぎは当面の自分の役目を「人間のエナジーを奪う妖魔と戦うこと」と考えていて、一方の亜美は、それだけじゃダメで「プリンセスと幻の銀水晶を探し出して守ること」という大事な使命もあることを、しっかり自覚している。ルナは一応、銀水晶のことを改めてうさぎに説明するが、やはりいざとなったら、うさぎは目先の状況に対応して行動するだけだろうし、一方、亜美なら、そういう場合も、全体を客観的に判断して、使命の優先順位を考える冷静さを持ち合わせているだろう、と期待している。そして実際、亜美はAct.4で、まさしくルナが予想したとおりの行動をとる。
Act.4の後半で、うさぎがクマの着ぐるみを着てパーティー会場を右往左往している間、亜美とレイは、レイの霊感をたよりに、パーティーの主役、桜木由加お嬢様に取り憑いた妖魔が、銀水晶とおぼしき宝石を持ち去ろうとしている現場に駆けつける。そのとき亜美は、とっさにお嬢様から宝石をもぎ取るように奪う。何よりもまず宝石を確保することを優先させている。そして由加お嬢様の身体から妖魔が姿を現わすと、二人は変身するが、マーキュリーは妖魔との戦いをマーズに任せて、ひとりで宝石を持って屋上に逃げ出すのである。そんなふうに、Act.3冒頭のクイズ大会の亜美の発言が、Act.4における彼女の行動につながる。というこのことは、実は『失はれた週末』のAct.4レビューに指摘されているんですけどね。
つまり、Act.4は、前半でベリルが「幻の銀水晶を奪う」という目的のためにネフライトを呼び出したことを描き、後半では亜美がルナの期待通り「幻の銀水晶を守る」という任務を忠実にはたしていることを描いて、ダーク・キングダム側のネフライトの役割とセーラー戦士側の亜美の役割が、鏡に映したようにぴったり対応する関係であることを表わしているのだ。
ご存知のように以降、この二人は、いまひとつよく分からないが、ともかく特別に心を通わせあう存在として描かれ続けていく。ダーク・マーキュリーはネフライトに憐憫をかけ、ダーク化が解けて戦士たちの元に戻ろうとしたとき、ネフライトによってクンツァイトの攻撃から守ってもらう。ベリルに追放されて人間になったネフ吉は亜美のクッキーを「まずい、まずい」とむさぼり食って、そのお礼を買おうとして古幡元基に金を借りる。そういう成り行きも、この回を見ていると、分からないなりに、それぞれが物語に登場した時点で定められていた、ひとつの必然のように思えてくるから不思議なもんです。
蛇足を承知でいえば、このような設定は原作やアニメではそもそも成り立たない。原作とアニメのベリルは、最初から、とにかく幻の銀水晶を探し出せと命ずるのだ。でも見つからなかったら、せめて人間たちのエナジーをかき集めてこい。銀水晶を手に入れるまでのしのぎというか、メタリアの一時的な腹の足しにするから。そういうことだ。「銀水晶担当」と「エナジー担当」に役割分担するという発想自体がないのである。

5. 崩壊の序曲


というわけで、今回もけっこうな分量になってしまった。私がいったい何を言いたかったのかというと、つまり実写版のダーク・キングダムを最後に待っている、あの崩壊の悲劇の序曲が、すでにこの初期の短いシーンのうちに、ひそやかに、しかし確実に轟き始めているということだ。
Act.1、北米支部とか中東支部とか、いかにもワールドワイドにやってますという原作の設定を捨てて、実写版のダーク・キングダムは、ただベリルだけがいる洞窟から始まる。ここは本物の王国ではない。一人の寂しい女の妄想の小宇宙に過ぎない。Act.2、そこにやってきて女王にかしずくのは、極東支部長なんて肩書きもないジェダイトただ一人である。そしていずれ訪れる最後の日に、最後までベリルのかたわらに留まるのは、やはりこのジェダイトただ一人なのだ。Act.3、「あたし」から「わらわ」へと自称を変え、いよいよ女王らしく傲岸に立ち振る舞うベリルに、最後に「女王様あそびは終わりだ」とつぶやく彼女の面影が重なる。Act.4、銀水晶を探し、奪うためにネフライトが召喚される。それはほぼ同時に亜美が自覚した「銀水晶を探し出して、守る」という使命と正確に対応する。事態はクラウンと、この悪の洞窟とで、併行して進んでいる。ダーク・キングダムとセーラー戦士たちは相対的な存在であり、いつでも入れ替え可能なのだ。実際、最後に星を滅ぼすのは、ベリルではなくセーラームーンなのである。
原作のダーク・キングダムは最後まで、巨大な悪の勢力としてセーラー戦士に対立する。それはメタリアが、とことん強力な「最後の敵」として戦士たちの前に立ちふさがるからだ。そのおかげで、というのも変だが、原作漫画(ダーク・キングダム篇)は、悪に立ち向かう正義の戦士、というヒーローもののパターンになんとか収まったまま終わる。ところが実写版はご存知のとおり、エンディミオンの死とともにメタリアも消えてしまい、ベリルは放心したまま立ちつくし、最後の破局をもたらすのはプリンセス・ムーンである。もはや正義と悪という対立の構図そのものが失われて、すべてが崩壊する。そもそもこの物語は、善も悪も、結ばれてはいけない恋人同士も、ただ運命に導かれるように目ざめ、出会い、闘争し、最後は一気に壮大な破滅になだれ込んでいくという話である。そういう神話的悲劇の刻印が、これら初期の描写のなかに、すでにくっきり刻み込まれているように思える。まあ何度も繰り返し観ていて、思い入れが深いのでそう感じられてしまうだけなのかも知れないですが。


というわけで来週は、クラウンのシーンから池袋ウエストゲートパーク、そしてハロウィン・パーティーの会場へ、なんて予告をするとまた違うことを書いてしまいそうだな。どうなるか分かりませんが、とにかくDVDレビューAct.4の続きです。