実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第48回】美少女アイドル史上最大の激突の巻(Act.30)


 2006年11月15日(水)深夜2時40分、Act.30再放送。今週はサッカーの試合とバレーボールの試合とダブル中継で、また放送時間が遅くなってしまった。最近はCMの話題も飽きてきたのでしていないが、最近「アートネイチャーのもしもしヘアチェック」がローテーションの中心となりつつある。前にも書いたが、原幹恵と小阪由佳の二人がラメのビキニ姿で「私たちにかけて」って言うのですごく驚く。



でも「かけて」というのは髪の悩み電話相談のことである。私は何を言っているんだ。あ、この人も「国民的美少女」出身かよ。多方面で活躍しているなあ。まあいいや、本題だ。

1. 「戦う中学生日記」(どこかで聞いたフレーズ)


 アヴァン・タイトルは、前回のラストシーンからダイレクトに始まる。朝、いつものように元気良く登校してきたうさぎ。「おはよう!」しかし雰囲気が変だ。みんなが、山本ひこえもん君までもが、うさぎをにらみつけている。そしてみんなに囲まれて、手に包帯を巻いたミオがいる。


桃 子「ミオちゃんに怪我させたの、うさぎなんでしょう」
うさぎ「ええっ!ねえ、私がミオちゃんに怪我させるわけ、ないじゃん」
な る「そうだよ。うさぎはそんなことしないって」
香奈美「でもミオちゃんの話だとそうなるんだけど」
ミ オ「私、うさぎちゃんがそんなつもりないって分かってたし、みんなにも違うって言ったんだけど」
桃 子「ミオちゃんはうさぎのことかばってくれたよ。でもさ、怪物が暴れてるときに、怪我したひと放っておいて、自分だけ逃げた、って聞いたけどさ」
うさぎ「あれは、その…(戦ってたなんて、言えない)」
桃 子「ホントだったんだ。がっかり」
香奈美「私も最初は信じたくなかったんだけど」


 うまいもんだね。ミオも脚本も演出も。ミオは嘘をついていない。前回の最後の方を観ればわかるが、実際、うさぎは妖魔に襲われそうになったミオを、かなり強く突き飛ばしているのだ。それで手を負傷したミオを介抱し、安全な場所にかくまってから、急いで戦いの場に向かっている。うさぎとしては誠意を尽くした行為だが、彼女がセーラームーンであるという前提に立たずに見れば、確かにその行動はかなりおかしい。ミオの曲解は十分に成り立つのだ。そのへんを踏まえ、ミオはやや誇張して、うさぎが薄情であることを印象づけるような仕方で、ことの成り行きを伝えた。そして案の定、モモコもカナミも、そしてひこえもんも、クラスのみんなが疑惑の目でうさぎを見つめる。
 Act.22のときも、うさぎは同じようなシチュエーションに置かれた。ダーク化した亜美がクラス中を味方につけて、ひとりぼっちになったうさぎは屋上でお弁当を食べるしかなかった。でもあの時の亜美は、特殊な術を使ってクラスメートたちの心を操っていたのである。今回は違う。カナミもモモコも、ミオにマインド・コントロールをかけられているわけではない。
 ここがけっこう重要なポイントだと思う。特殊な術を使っていないので、ミオがダーク・キングダムからの刺客であるという事実は今回、さほど重要ではない。そしてそう考えれば、この程度のこと、つまり誰かが故意に、あるいは偶然に誤解を招くようなウワサを流して、それがきっかけで、それまで仲良しだった友だちとの関係にある日とつぜん亀裂が入る、なんてことは、中学生あたりの多感な思春期には、日常的に起こりうる話なのである。
 つまりこの回は「クラスの人間関係が、ささいな誤解や行き違いなど、何らかのきっかけで壊れてしまったら、あなたはどうする?」というテーマの「中学生日記」とも受け取れる。登校中の通学路や下駄箱のところで、クラスメートに「お早う」と声をかけてもシカトされるうさぎのシーンなんて、もろに学園ものだ。シリーズ後半にもちゃんとこういう回があるのだ。そしてそう考えると、地場衛ならずとも「馬鹿か!」と言いたくなるような最後のうさぎの態度も納得がいく。
 みなさんご存知かと思うが、今回のお話をざっとおさらいしておくと、こうやってうさぎを孤立に追い込んだミオが、次に「私が美奈子ちゃんにかけあって特別にプライベートライブをやってもらうから、みんなを呼んで、ぜんぶうさぎちゃんのアイデアということにして、名誉挽回しよう」という提案をする。でももちろんミオは美奈子に連絡なんかしない。さらにうさぎを窮地に立たせて愉しもうという計略だ。けれどもそのことに気づいた美奈子が駆けつけて、ライブは盛況に終わり、うさぎも面目をはたせる。で、美奈子はミオを問いつめて、うさぎのいる前で真相を白状させるが、うさぎはミオを許して終わる。
 この、あっさり「ミオを許す」というのが、いくら人の良いうさぎでも、それじゃただの馬鹿だろう、とも思えてしまうのである。であるがしかし、これまでクラスの人気者で、誰とでも友だちになれたうさぎは、今回はじめて、友だちとの関係がいかにもろく壊れやすいものであるかを思い知る。そしてそんなときに自分を信じてくれたなるちゃんや亜美ちゃんの友情が、どれほど自分の支えとなったかも。ひょっとすると、これまで亜美との間にあった色々なことを思い出して「友だちになること」「友だちでいつづけること」って、本当はとてもむずかしいんだ、なんて考えたかも知れない。で、今回の体験を通してうさぎは、「信じてもらえない」ことは何よりもつらい、だからいざというときに自分が相手を無条件で「信じてやる」ことが何よりも大切だ、という教訓を得る。やはり性善説の人ですようさぎちゃんは。そこで、ミオのことも信じてやろうとするのである。
 よ〜く考えたうえでの結論であり、決して馬鹿だからすべてを忘れてミオを許しちゃったわけでもない。本当はいろいろ思うところはあるのだが、それでも「信じる力」に賭けよう、といううさぎの決断でもある。今回はだいたい、そういうテーマの話だと思う。

2. 「大阪なるの暁光」(こ、これもどこかで聞いたような)


 さてクラウンでは元基が映画「ファインディング・カメ」の「超スーパーリザーブシート」チケット2枚を用意して、まこちゃんを誘おうと、今か今かと待ち受けている。先週の「元基君、ごめんね」の笑顔が効いたのか、かなり積極的ではあるが、まことは心ここにあらずというった様子で今回は元基をほぼ完全無視。玉砕した元基は「スーパーリザーブシート……せきとりまーす」とアドリブをかまして今回は退場。ま、次回デートできますから。
 まことが、元基の誘いにぜんぜん気がなかったのは、今日うさぎの身におこった話について、亜美から連絡を受けていたせいだった。部屋に入るなり「うさぎ、元気出しなよ。みんなが信じなくたって、私たちがいるんだし」と励ますまこと。レイと亜美はもう来ている。うさぎもここでは「うん。なるちゃんも信じてくれているし、平気」とけっこう笑顔だ。そしてルナが「そうそう。元気出して、特訓でもやりましょう」と、ムリヤリ話題を変えて、みんなは再び前回と同様、箸で紙吹雪をつまむ特訓を始める。
 レイとまことのケンカとかうさぎの恋とか亜美のダーク化とか色々あって、そして亜美が戻って来て、このクラウンの作戦室はようやく、みんなが「還ってくる場所」になった。今回、いつものカラオケ仲間のカナミやモモコがあっさりミオちゃん側についてしまったのは、実はここ、戦士のための秘密のカラオケルームこそが、変わらない「うさぎの還る場所」となったことをはっきり示すためだったのではないかな、なんて思えてくる。
 というわけで、うさぎにはどんなときでもちゃんと信じてくれる仲間の戦士たちがいるし、いつだって暖かく迎えてくれるクラウンという「おうち」があるけど、でもどんなときも信じ合える友だちはもう一人いる。それを忘れちゃいけないね。
 なるは偉いよ。亜美がバレーの試合でうさぎを蹴りつけるミオを目撃したり、ヴィーナスの「黒木ミオに不吉なものを感じるから要注意」というメッセージを受け取ったりしていたのに対し、なるは前回、そんな情報も一切なく、むしろ黒木ミオがクラスに転校してきた事実に舞い上がって、サインはもらうわ、一緒に写真はとるわというミーハーぶりであった。バレーの試合でもミオのプレイの方に喝采しているくらいだった。それがいざこういう時には、きっぱりうさぎを信じて、うさぎの側に回っている。ここまでの友人って、そんなにいないと思う。
 そう考えるとなるちゃんは本当に可哀相だ。うさぎとのつき合いは亜美より長いし、うさぎと衛の恋に気づき、二人をバックアップしてやったのもまことより先だ。でもセーラー戦士じゃないので、二人と立場がかぶる場合は、番組的には身を退かなくちゃならない。そして物語の都合で妖魔に襲われたり、亜美の敵役に回されたりと、とにかくいろいろ使い回される「都合のいい女」である。元セーラーマーキュリーなのに。
 今回もそうだ。亜美と二人でうさぎの側に立ち「うさぎはそんなことしないって」と擁護して親友の絆の強さを見せつけた。しかも、何もしないでうさぎに寄り添うだけの亜美とは違って、昼休みには黒木ミオのところへ行って話をつけようというのだから偉い。亜美の気づかいとレイの洞察とまことの行動力をぜんぶそなえている。ここまではもうなるちゃんの独壇場で、私は「もうこのまま、なるちゃんがうさぎを救う話として最後まで行っちゃっていいのに」とさえ思った。だがしかし、皆さんもご存知のとおり、なるが活躍するのはここまでだ。


な る「うさぎが黒木さんのこと置き去りにした話、本当だと思えないの」
ミ オ「あたしだってそうだよ。でも、うさぎちゃんに悪気はないと思うし」
な る「いや、そういうんじゃなくて、何か他に事情があったんでしょ」
ミ オ「うさぎちゃんのこと、そんなに信用してるんだ」
な る「してる。だから本当のこと言って」
ミ オ「うさぎちゃんのそばにずっといるもんね……」


 最後のセリフのところでミオにキッとにらみつけられたなるは、急におなかが痛くなってうずくまる。それから保健室に行ったのか、あるいは早退したのかは語られない。そのへんを細かく描くと、うさぎや亜美が付き添わずにいることが不自然になるし、付き添わせると話が先に進まないからね。まあともかくそういうことで、なるちゃんはここで退場。残念である。
 でも今回はよく頑張ったよ。その勲章として、あなたはやがて、うさぎの変身する姿を目の当たりにして、うさぎからことのいきさつを聞かされることだろう。でもそれはもうちょっと先の話だ。

3. 美少女にらみあいトーナメント


 さて、前回Act.29ではかなり調子の悪かった佐藤健光監督だが、今回は盛り返した。考えてみると、この監督の印象に残っているシーンって、レイと美奈子の教会(体育館)でのにらみ合い(Act.18)とか、同じく病院での二人のにらみ合い(Act.23)とか、巡り合わせか相性の良さかは知らないが、美少女のにらみあい対決である。佐藤監督が演出した回の画面って、色合いとかそういう面で全体的にくっきりしたメリハリに欠けるきらいがあるから、そのぶん人物関係がバチっと対立すると、シャープさが生まれてバランス的に良いのかもしれない。
 まあよく分からないが、ともかく前回、黒木ミオという格好の敵役が登場したものの、佐藤監督の得意とする対立関係は生まれなかった。何しろうさぎちゃんは、ミオがにらみつけようが蹴りつけようが、相手の敵意も憎悪も、とびきりの笑顔で吸収してしまう善意の人である。それでケンコー監督は、調子を崩しちゃったのではないだろうか。
 で、今回Act.30もそんな善意のうさぎちゃんがテーマなのだが、しかしさっき書いたように、うさぎをかばって大阪なるがミオに立ちむかう。Act.15、Act.16のにらみ合い対決では、かなりコワイ目線で亜美を秒殺したなるちゃんが参戦だ。それからプリンセスを放ってはおけないと美奈子も加わる。だからけっこうあちこちでバシバシ、ガンの飛ばし合いがある。しかもミオのにらみつけ光線でなるちゃんが腹痛、とか、美奈子の冷たい視線にミオが場外乱闘的な泣きで応える、とか、技の応酬もなかなかバラエティ豊かである。そのへんが、佐藤監督の復調と関係があるような気がしますね。
 そんなわけで今回は美少女にらみ合いトーナメント、Aブロック予選第2戦およびチャンピオン戦だ。なんていきなり書いてもみなさん困惑されるかも知れません。そこで次のような図を用意した。たかがこれだけのものだが、不慣れなもので作図に1時間弱もかかってしまったぞ。



 まず【Aブロック】は、Act.15、Act.16で亜美を秒殺して勝ち進んだ大阪なると黒木ミオの対決であるが、これはにらみつけ光線でなるちゃんを腹痛にしてしまったミオの快勝。Aブロックの代表は黒木ミオだ。一方【Bブロック】の予選第1回戦はAct.7、Act.8のレイ対まこと。甲乙つけがたいが、やはりレイの眼力に一日の長あり、ということでレイの勝ちとしておく。そして予選決勝はレイ対美奈子。Act.18の教会体育館では、「なっかりだわ」攻撃によく耐えて互角に戦ったレイだが、第2ラウンドのAct.23、病院前での決闘では「リーダーとして、なにか欠けてるんじゃない?」攻撃に激しく動揺、「マーズれい子」ライブを受け入れてTKO。どちらもにらみつけるだけではない凶器攻撃をうまく利用したり、仕合運びに長けた美奈子の圧勝である。
 そして今回の決勝戦、愛野美奈子VS黒木ミオ戦。まず第1ラウンドの舞台は、新曲「Change of Pace」録音中のミオのスタジオである(この曲、すでに先週テレビの新CMのバックに流れていたので、それをいまさら録音しているというのはちょっと何だが、まあ眼をつぶっておく)。
 「愛野美奈子さんに来ていただけるなんて、感激です」と「猫かぶり」で迫るミオに、美奈子は油断することなく「怪我、大したことなかったみたいね」「どうして十番中学に?仕事に不便じゃない」「その前はどこの中学?」のつるべ打ちでびしびしガンを飛ばす。やや不利とみたミオはすかさず「ウソ泣き」でリングアウト。ここでゴングだ。



 なんて馬鹿をやっていたらいつまで経っても終わんないや。このトーナメント表で注目すべきは、まこととレイ、亜美となる、美奈子とミオ、ほとんどすべての対立のきっかけを作っているのがうさぎだという事実である。うさぎが絡んでいない、本人同士の意地の張り合いと言えるのは美奈子VSレイ戦のみ(笑)。

4. 「みんな、遅れてごめんね!」



 さて、まんまとミオの口車に乗せられ、Act.7と同じ所沢の空港記念公園のステージで美奈子のプライベートライブの準備をするうさぎ、そしていよいよライブの時間が来るが、いつまで待っても美奈子は来ない、というあたりの展開については、まあいいだろう。トップアイドルのシークレットギグにしてはまた異様に少ない人数しか集まらない、とかそういう揚げ足取りもいいや。美奈子の周りにできる人だかりって、だいたいいつもこの程度だもんな。
 今回の物語のパターンは、今までで言うとAct.15にいちばん近いような気がしますね。あの話も、衛とうさぎが変身せずに宝石泥棒から美奈子のアクセサリーを取り戻す、というところに話の一番のカタルシスがあって、その後のセーラームーンと妖魔の戦いは、ただの付け足しだった。今回も、黒木ミオの計略の裏をかいて美奈子が「みんな、遅れてごめんね!」と颯爽登場、うさぎをはめたつもりで嘲笑していたミオの顔がこわばる、というところが最高に痛快で、美奈子ライブという見せ場もあるから、そのままうさぎが変身しないで話が終わったとしても十分面白い。
 というか、最後の妖魔の登場とセーラームーンのバトルは余計だった。だってそのせいで、美奈子はセーラームーンが戦っている最中も歌い続けなければならず、結局また護衛戦士としての役割をはたせないことになってしまったからである。ただもちろん『美少女戦士セーラームーン』である以上、変身もバトルもぜんぜんないというのは困るもんなあ、というスタッフの苦慮も分からなくはない。
 だから今回は美奈子に「プリンセスが妖魔と戦ってピンチになったりもしているのに、呑気にライブなんかやってていいのかよ」という突っ込みはしない。この日記は最近、何だか美奈子のあら探しばかりしていているようなところがあって、小松組のみなさんには申し訳ないことしきりであった。しかしここではむしろそこのところで、おおいに美奈子を誉めたい。
 美奈子は、たぶんまたアルテミスをパシリに使って、黒木ミオが十番中学でやっていることの情報を収集して、自分のプライベートライブが勝手に企画されていることを知った。でも以前の美奈子だったら、そこでまずプリンセスの身の安全を第一に考えたはずだ。つまり自分が乗り出すにせよ、クラウンに指令を飛ばすにせよ、妖魔が襲って来た場合にそなえて、とにかくミオからうさぎを引き離しておくことを優先させたはずなのだ。ところが彼女はそうしなかった。なぜか。もしそうすれば、プリンセスの安全は確保できるだろうが、ライブの告知をしながら逃げちゃったことになるから、学校でのうさぎの評判はますますがた落ちになるだろう。だから美奈子はライブを実現させ、うさぎの信頼を回復させることの方を選んだのである。
 初めはうさぎに対して「あんな子が、セーラームーン」という失望を禁じえなかった美奈子だが、観覧車の中の会話で、うさぎの無垢な笑顔の魅力を知った。そしてダーキュリー化した亜美を、うさぎが「戦わない」「亜美ちゃんを信じる」ことで取り戻したとき、「セーラームーン、戦いなさい」と命じた自分の過ちを知った。気が強いから謝ってないけどね。ともかく、このようにして次第に美奈子はプリンセス、いや前世の運命に縛られない「月野うさぎ」の不思議な癒しの力に、畏怖の念と、未知の可能性を見いだすようになっていったのだ。だからこそ今回は、ヴィーナスとしてプリンセスの身を護衛することよりも、うさぎの無垢な、人を信じる力の強さをミオに思い知らせるために、愛野美奈子としてライブを実現する方を選んだ。美奈子も少しずつ、変わってきているのだ。ライブの最中に妖魔が現れても、その気配を察知しているはずの美奈子は平然と歌い続ける。それはうさぎへの無言のメッセージだ。プリンセス、私はこのライブを成功させる。そしてあなたの「信じる気持ち」に応えてあげる。だから妖魔は、あなたひとりで倒して。あなたにはもう、それだけの戦士の力があるのだから。

5. 信じるチカラ


 もっとも、だからと言って美奈子はまだうさぎの「信じる力」を全面的に肯定しているわけではない。あまりにも無垢すぎるので、これでいいのか、とかなり不安を感じている。ライブが無事終了した後、ミオは思わず、美奈子に問いかける。


ミ オ「どうして?」
美奈子「どうして? あなたが出てくれって言ったのよ」
ミ オ「(思わず強い調子で)そんなこと言ってない!」
美奈子「そう。言ってないのに私のライブを企画したわけ」


(二人の会話にハッとするうさぎ。唇を噛んでうつむくミオ)


美奈子「はじめから私を呼ぶ気なんてなかったんでしょう」
うさぎ「ミオちゃん、本当?」
美奈子「(うさぎに向かって)今回は私が気づいたから良かったけど、気をつけて。あなたの友だちが来なかったのも、きっと騙されたのよ」


 ミオは美奈子の冷静な誘導尋問に釣られて、ついうっかりと、自分が美奈子にライブの依頼などしていなかったことを白状する。そしてその場にいたうさぎはそれをはっきり聞いている。この時点で、うさぎは、ミオの自分に対する悪意を知ったはずである。
 それから美奈子が「あなたの友だちが来なかったのも、きっと騙されたのよ」と言うと、次に、どこか場所は分からないが、待ちぼうけを食らっているまこととレイと亜美が「うさぎ遅いな」などととぼやくカットが挿入される。ミオは仲間の戦士がこの場にやって来ないよう、うさぎの名を騙って、どこかで待ち合わせをしようというニセの呼び出しをかけておいたのだ。まあ亜美に伝言しても怪しまれるから、クラウンの元基あたりにしたのかな。それで仲間はそっちの方に行って、ライブには来なかった。ライブの準備中、ミオはうさぎに「そういえば水野さんと、6組の木野さんだっけ、来ないって。なんかね、うさぎちゃんがそんなライブ開けるはずないって思ってるみたい。ちょっと冷たいね」と言っていたが、それが全部ウソであることも、ここで明るみに出された。
 で、追い詰められたミオは迫真の嘘泣きだ。


ミ オ「ごめんなさい!あたし、うさぎちゃんをひとりだけのものにしたくて。うさぎちゃんが好きなの。きらいにならないで。うさぎちゃんが好きなの」(嘘泣き)
美奈子「ほんとにそう思ってるの?あなたの狙いは?」
うさぎ「ミオちゃん。馬鹿だなあ。そんなことしなくたって私たちクラスメートじゃん。友だちだよ」
ミ オ「うさぎちゃん」
美奈子「ちょっと待って。そんなに簡単に信じるの?」
うさぎ「信じちゃうな。信じてもらえないのってつらいもんね」
ミ オ「うさぎちゃん…」


 美奈子はウソ八百のミオの涙にも騙されず、追求の手をゆるめようとしないが、うさぎはそんな美奈子をさえぎって「そんなことしなくたって私たちクラスメートじゃん。友だちだよ」とミオに救済の手を差し伸べる。前回は、ちょっといやいやながらミオと「友だちになる」宣言をして、内心「美奈子ちゃんごめん」と謝っていたうさぎが、ここではその美奈子が現にいる前で、しかもミオの悪だくみが暴露されたその直後に、ミオに向かって「友だちだよ」と言うのだ。私が初回放送を観たとき「うさぎって馬鹿じゃないか」と思ったのは、ここのところを理解できなかったからだ。つまりミオの涙にころりと騙されて、信じ込んでしまったと思ってしまったのである。でも馬鹿は私だ。うさぎは、だまされていたことは承知の上で、それでも信じてあげようとしているのだ。その決意は強い。あこがれの美奈子が「ちょっと待って。そんなに簡単に信じるの?」と問い返しても、あっさり「信じちゃうな」である。なぜなら「信じてもらえないのってつらいもん」なのだ。
 自分がクラスで孤立したこと、あるいはAct.28での亜美との対話なんかが、おそらくうさぎの脳裏にはある。信じてもらえないのはつらい。だから私は信じよう。ミオちゃんが今日、こんな仕打ちを私にしたのは、私が「美奈子のライバルだから」とミオちゃんに対抗心をもったからかもしれない。それがミオちゃんを追い詰めてしまったのなら、私、今日のことはなかったことにして、ミオちゃんを信じるよ。だから美奈子ちゃんも、ミオちゃんと仲良くしてあげて。うさぎは「信じる力」に賭けているのだ。
 でも美奈子は当惑している。ここまで騙されて相手を信じようなんて、このプリンセス、相当な馬鹿かかなりの大物だ。確かにこの人のこういうピュアなところが、ダーク化したマーキュリーを取り戻せた一因でもあるのだろう。でもこれでは無垢すぎる。護衛の戦士としては、実に厄介だなあ、という感じだ。
 そこへ、うさぎのテレティアにコールがかかる。

うさぎ「もしもし。あ、まこちゃん、ごめんね。あのね。え、レイちゃん怒ってるんだ。もうホントごめん(レイのガンとばしのカットが入る。こわい)すぐ行く」
(ミオに)「ごめんね。私、急がなきゃ。ミオちゃんまたね」(美奈子に)「美奈子ちゃん。今日はありがとうございました。これからも頑張ってください」
(笑顔の美奈子)

 「レイちゃん怒ってる」ったって、本当はうさぎが呼び出したわけではなくて、ミオの仕業なんだが、うさぎはミオを「信じてあげる気持ち」をこんな風に表現する。まるで自分が呼び出したかのように仲間に謝り、それから「ミオちゃんまたね」「美奈子ちゃん、今日はありがとうございました」と言う。これはまあ、美奈子へのメッセージだと思う「美奈子ちゃん、ほんとうに来てくれたし、これで私が亜美ちゃんたちを呼び出していたっていうことにしたから、今日ミオちゃんのやったことは、ぜんぶ終わりにしましょうよ。美奈子ちゃんのファンだった私が、ミオちゃんに冷たくしたからこんなことになっちゃって、私にも責任があります。自分の名前を利用されて怒る気持ちもわかるけど、美奈子ちゃん、ここは私に免じて、ミオちゃんと仲なおりしてくださいね」というわけだ。この底抜けに性善説のプリンセスを前に、さすがの美奈子も、内心では危険を感じつつ、笑顔で見送るしかない。


ミ オ「うさぎちゃん、いい人ですよね」



美奈子「そうね。でも私はそうじゃない。二度とあの子に変なことしないで」
ミ オ「反省してます。今日はお疲れ様でした」


 「二度とあの子に近づくな」と地場衛を殴ったまことに次いで、今度は美奈子が「二度とあの子に変なことしないで」だ。うさぎには実に多くの保護者がいる。
 まあともかく、今回の美奈子はよくやった。プリンセスの意向も十分に汲みながら、見事にピンチを救って、護衛の役を果たしたと思う。あえて妖魔と戦わない道を選んだところが偉いのだ。だから、本当はミオとのにらみ合い対決は、ミオが卑怯な技を使うのでどっちの勝ちとも言い難い面もあるのだが、チャンピオンに認定することにした。ぱちぱちぱちぱち。

6. 美奈子ライブのセラミュ関係者を見逃すな!


 あとアクションシーンも、物語的には必然性がないと書いたが、なかなか良いです。佐藤監督は入り組んだ狭い空間を行ったり来たりの演出が得意なのかも知れないね。今回はダーク・キングダムのシーンでも、クンツァイトとジェダイトが階段を上りながら会話していたけど、最後のセーラームーンVS妖魔は、廊下とか階段とか、次々に場所を移して、まるでジャッキー・チェンみたい、とは言い過ぎだが、あれこれ工夫をこらしている。
 セーラームーンも頑張っている。この初代タイガーマスクのソバットみたいな後ろ蹴りの技はなんて言うのかな。えーとたまらさん、お読みのうえ、なにかコメントありましたら、アクション解説よろしくお願いします(他人だのみ)。そして「ライブの邪魔は絶対させないんだから」というセーラームーンの強い意志が銀水晶を光らせ、敵を撃破する、という結末で、以降の物語への伏線も敷いている。
 あとはライブのスペックだ。トレーラーは東映公式によればメルセデス・ベンツ/アクトロス 2654というらしい。と書いてはみたが、有名な車なんでしょうか。すいません私はそっち方面はあまり詳しくない。関西支部ぽんたさんはこういうでかい車にもお詳しいのかな。だれかご存知の方、もしなにかありましたら解説お願いします(とことん他人だのみ)。
 私は後はあれやって終わりにする。今回「Romance」でクライマックスを盛り上げてくれた、美奈子バンドのメンバー紹介だ!美奈子がしてくれないから私がやるのである。
 まずギターの高取ヒデアキさんはアニソン系シンガーソングライター。『忍風戦隊ハリケンジャー』のオープニングテーマを歌っておられるほか、戦隊物やプリキュアに作詞作曲でクレジットされており、現在の『轟轟戦隊ボウケンジャー』にも曲を提供されています。
 続いてベースの熊田和生さんとドラムの八木仁さんは、いずれもコロムビアミュージックエンタテインメントでアニメ・特撮系を専門とされる音楽ディレクター。熊田さんのお名前は最近、劇場映画『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』でお見かけしました。ヒットおめでとうございます。一方、八木さんは、『ハリケンジャー』から戦隊物に参加され、もちろん現在は『ボウケンジャー』の音楽制作を努めていらっしゃいます。この美奈子ライブ以降は、約一年後の『魔法戦隊マジレンジャー』第11話で、悪役のナイ&メアがバンドを組んでオリジナル曲『ブラッディーフライデーナイトメア』を歌うシーンがあるのですが、そのバックでもドラムを叩いています。ただしそこでは覆面をしておりますが。
 そして最後は紅一点、松本美千穂onキーボード。本職は女優さんですが、この人について特筆すべきは2002年夏のセーラームーンミュージカル『無限学園〜ミストレス・ラビリンス〜』に、ウィッチーズ5のひとりシプリンとして出演していることである。私は愛知厚生年金会館で観た。セラミュと実写版の両方に出ているのは河辺千恵子さんだけではない、という事実を、みなさんしっかり憶えておくように。
 そしてボーカル、初代にらみあいチャンピオンの愛野美奈子だ!以上、美奈子バンドでした。ということで、また。


(放送データ「Act.30」2004年5月8日初放送 脚本:小林靖子/監督:佐藤健光/撮影:松村文雄)
*今週は猫のCGも「待ちなさい」もなし