実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第44回】「見詰めるヴィーナス、アルテミス。セーラームーン達はいつまでも一つになっている。」の巻(Act.28)


 えっとご存じの方も多いでしょうが、本日のタイトルは、東映公式にも出ているAct.28ラストシーンの台本からです。


 まず訂正。前回のリストで、オープニングでさっと左右に開く赤い幕のことを「緞帳」(どんちょう)と呼んだが、緞帳とは「芝居・劇場などで使う、上に竿があって巻きあげ巻きおろす幕」(『広辞苑』第四版)なんだそうだ。つまり下から上がっていくタイプのものを言うらしい。「サンシャイン劇場の緞帳が上がると、麻布十番公園に黒木マリナが飛び出してきた」とかね。だからあれは間違い。何と呼ぶのかな。ま「カーテン」くらいでいいか。
 それから補足。『40歳からのヲタク道』Act.27レビューを読んでいたら、コメント欄にこっちよ!さんが「エンディングの次回予告に流れていたテーマ曲は、いつもと違ってピアノバージョンだった」ということを書き込んでおられた。こっちよ!さんはDVDのことを言ってらっしゃるはずである。で、前々回の日記に書いたとおり、私は先週のAct.27を居眠りして見過ごしてしまって、半泣きで初回放送時のビデオを観たのだが、次回予告にBGMはなかった。何も音楽が流れず、しんとしたなかを、亜美の独白だけが淋しく流れていたのである。
 この回に限らず、実写版の「次回予告」にはバージョン違いのある場合が多い。これについては、最初の例であるAct.8を第14回および第15回でくわしく検討してみた。要するに初回放送では、ときどき番組の最後にプレゼント応募なんかのお知らせがあって、そういうときは予告編はいつもより短かかった。それが市販DVDでは、最後の「プレゼントのお知らせ」がカットされて、通常どおりの長さの予告編ロングバージョンに差し替えられているのである。
 で、先週のAct.27も、初回放送時には、最後に愛野美奈子から「セーラームーンキャンペーン」の告知があって、だから予告編は短かったのですね。ただBGMまで違うというのは珍しいのではないか。というより予告で流れる音楽が変則的なのは、そもそもこの回だけだね。だからちょっと紹介しておく。

【Act.27エンディング:初回放送バージョン】
(BGMなしの次回予告。扉を開けるまこととレイ、戦うマーズとマーキュリー、うさぎの髪を撫でて涙する亜美、以上、音なしのセピア映像にかぶせて、亜美のモノローグ。)
「私…帰れない…みんなにひどいことして…私が…やったんだ…私がうさぎちゃんを」
(画面ワイプ。一転していつもの軽快な予告編のBGM。クラウンに制服姿の美奈子)
「ここで、みなさんにすてきなお知らせです。いま、オリジナルプレゼントが当たるセーラームーンキャンペーンを実施中です。詳しくはこちらまで。みんな、ぜひチェックしてくださいね!」
(美奈子、両手を振ってバイバイ)

 私はどっちかというとDVDよりこの初回放送の方が好きだな。ぜんぜん音がない分、亜美のセリフがいっそう涙を誘う。舞原監督は基本的に劇伴についてはストイックなタイプだから(その正反対が高丸監督)この「無音・亜美のモノローグのみ」の次回予告が本来の構想なのではないかと思う。しかもその後には、セーラー服(制服)姿の美奈子の、番組中では滅多にみられない屈託のない笑顔、というレアなおまけ映像つきなのであります。
 それはともかく、これまでの例からいって、先週の再放送では、そのDVDと同じ予告編ロングバージョン、つまりBGMにはピアノテーマ(メモリアルボックスDisc.1の11曲目)が流れていたはずである。えーっ。ということは私、Act.27の次回予告ロングバージョンの地上波初放送をみすみす見逃してしまったってことかい。あらためてくやしいぞ。
 以上、長くなりましたが補足説明。さあAct.28だ。

1. 滝の流れるほとりで


 2006年11月1日(水)、番組表では深夜2時25分が放送開始時間だったが、10分ほど遅れた。TBSの世界女子バレーボール日本対コスタリカ戦がほんの少し時間延長になったせいである。それでも、この間まで3時台に放送されていたことを思えば、はるかにマシだ。CMなどの話題は、もういいや、特になし。Act.28の再放送である。
 前回の日記に書いたように、この回を境に、アヴァン・タイトルの主な語り手はうさぎから人ルナにシフトする。もっとも今回は、半分は自己紹介みたいなもので、クシャミをすると猫の姿に戻るという特徴を実演してみせています。
 さて物語は前回の対決の場、横浜金沢ハイテクセンターから始まる。ムーンスティックを破壊され、倒れて動かなくなったセーラームーンと、その「うさぎちゃん」の姿を前に凍り付くような悲鳴を上げ、あとはもう放心状態のダークマーキュリー=亜美。しかしクンツァイトはそんなダーキュリーを「獲物」のセーラームーンもろとも無理やりダーク・キングダムに連れ戻そうとする。「マーキュリー、行くぞ!」
 「うさぎちゃん!」猫ルナが駆けつけるが、クンツァイトのマントが翻ったあとにはもう誰もいない。このシーンの猫ルナ、CGです。なんと前回に続いて2回連続です。ここでテーマ曲が入り、今回一回限りのスペシャルオープニングタイトルが流れる。何度見てもいいですね。五人が海を見るシーンは、港区の竹芝埠頭だそうだ。
 短めにテーマが終わり、場面はダーク・キングダムに移る。帰還したクンツァイトはあたりを見回し「マーキュリー」と声をかけるが、マーキュリーも、そしてセーラームーンの姿もそこにはない。「どこだ?」
 そもそもこの、瞬時に空間を移動できる力って何なのか。ジェダイトは初めのころはそんな力をもっていなかった。Act.7では、カメのぬいぐるみにため込んだエナジーを奪われた後、普通に遊園地から逃げている。だからAct.8では、ゾイサイトに力を借りて、ナコナココンテストの会場まで「飛ばして」もらったのである。そして文字通り飛ばしすぎて石になっちゃったのだ。ネフライトもそうだ。Act.9で、成田物産社長の邸宅から、普通に逃げ去っている。
 けれどもクンツァイトは最初から自力でこの技ができた。Act.13でセーラームーンに初お目見えして、髪の毛を飛ばした後、マントをひらめかせてすっと姿を消しているし、Act.14のラスト、洞窟でもそうだった。
 いや問題はそっちではなくて、そういう力でクンツァイトに連れ去られる途中、亜美がどのように脱出したかということだ。それは注意深くドラマを見ればだいたい分かる。さすがは舞原監督だ。そういう、いざという状況に置かれたとき、それぞれの戦士が自分の属性をどのように活かしてピンチを切り抜けるかということを、いちばん考えてくれているのはこの人である。Act.5のマーキュリーが、水の流れに耳を澄ませて妖魔を攻撃したシーン。あるいはAct.21のまことが、風にそよぐ木々のざわめく声に導かれて、連れ去られた亜美の居場所をつきとめるシーン。
 ここではおそらく、Act.5と同様「水の音」が亜美の導き手になったのだろう。クンツァイトが二人を連れ、瞬間移動でダーク・キングダムに戻ろうとしたとき、亜美はとっさに我に返り「うさぎちゃんを連れて逃げなくちゃ」と思う。そのとき亜美の耳に、Act.5と同じように、遠くに水の流れる音が聴こえたのだ。とにかくどこでもいい、このままダーク・キングダムに戻ってはいけない、と、亜美はその音のする方向に向かってとっさに意識を集中し、ジャンプした。
 だから二人がたどり着いた先は、滝の流れ落ちる下だったのだ。深い森の奥の滝、落ちかかる水の飛沫が届きそうなくらい滝壺に近い岩場で、ぐったりと動かなくなったうさぎを抱きとめる亜美。
 このシークエンスの演出は素晴らしい。初めは、滝が流れているというのに、あたりは静まりかえっている。聞こえるのは風の音だけだ。そこへ、亜美の瞳からこぼれ落ちる涙の音が響く。
 Act.25で、クンツァイトの刃に倒れたタキシード仮面をうさぎが抱きかかえ、涙を流したときには、こんな音はしなかった。あのときはうさぎの涙が「幻の銀水晶」のかけらに変わった瞬間、金属質の音がして、すべてが輝きだしたのである。けれどもいまは、亜美の瞳からこぼれた涙がうさぎの頬を叩くとき、静けさのなかに水滴の音だけが大きく響くのだ。Act.5でポヨンを倒したときの、葉っぱから落ちる雫の音と同じだ。その音に誘われ、眠りからさめたようにうさぎはめざめる。「あれ、亜美ちゃん、元に戻ったんだ。よかった」。うさぎにしがみついて泣き出す亜美。
 同じ舞原監督のAct.22では、噴水の水の流れが瞬時に凍りついて氷柱(つらら)となり、それが剣となって、氷の戦士ダークマーキュリーが誕生したのだった。そしていま、うさぎを抱きしめて泣きじゃくる亜美の背景では、まるで頭上から降り注ぐような構図で滝が流れ落ちている。その豊かな水の奔流が亜美を浄化し、氷の戦士を溶かしたのだ。そして溶かされた亜美の瞳からこぼれ落ちた涙が、うさぎを蘇生させたのである。
 すると、それまでずっと静かだった画面に「ざあーっ」と、流れる滝の効果音が初めてボリュームアップしてかぶさる。BGMはない。静寂を打ち破る奔流の音、それが「水の戦士」の帰還を告げる歓喜の歌だ!

2. 入り口が出口


 とはいえ、そこは亜美もうさぎもこれまで見たことがない深い森だ。まだ無事に現実世界に帰ってきたわけではない。そしてこの森を脱出するためには、二人にはもうひとつ、乗り越えなければならない試練が待っている。
 それは妖魔との戦いではない。もちろん妖魔は今回も、この森のあちこちに姿をあらわして二人を追い回す。だが亜美は、自分が敵の手中に堕ち、悪の手先としてはたらいていたばかりか、うさぎをその手で危うく殺しかけたという事実を知り、ただ呆然としたまま、戦うどころか動くことすらできない。そしてうさぎは一時的に変身能力を失い、亜美の手を引いて逃げるのが精一杯だ。二人が乗り越えなければならないもの、それは目の前に立ちはだかる妖魔ではなく、彼女たちの心のうちにある。互いの心のうちにあるのだ。
 そのことを考えるにあたって、みなさんもお気づきでしょうが、今回の二人の衣装の色に注目しておきたい。前回うさぎは「今日はぜったい亜美ちゃんを連れて帰る。おしり叩いてだって連れて帰るつもりだから」という決意を示すかのように、亜美の色であるブルーのブルゾンを着ていた。それは今回もそのままだ。一方、前回は変身前から黒ずくめの女だった亜美は、今回はうさぎの基本カラーであるピンクのジャケットを着ている。そして、このお互いのイメージ・カラーの入れ替えを象徴する出来事が、今回のエピソードのクライマックスで起こる。
 「私、帰れない。みんなにひどいことして……もう、仲間にはなれないよ」と、亜美はこの森を脱出することさえ拒む。そんな亜美を、うさぎは前回の予告どおり「おしり叩いて」連れて行こうとする「私たちのこと仲間だと思ってないの亜美ちゃんじゃん!何があったって亜美ちゃんのこと嫌いになるわけないのに、私たちのこと信用してないんだよ」でもそんなうさぎを、亜美はグーでぶつのである。
 「いた〜い」と振り返って、涙を浮かべた亜美の表情にはっとするうさぎ。「信用できないよ。うさぎちゃんたち、ばらばらだったじゃない。ちっともクラウンに集まらなくて、戦うときもばらばらで、ぜんぜん仲間みたいじゃなかった。私、いつかはもとどおりになるって信じてたけど、でも、心のどこかで……どこかでもうダメかもって」亜美はそう語る。自分の言葉で、いままで胸に秘めていた想いを、うさぎに語って聞かせるのである。
 それでも逃げる二人。険しい崖を登ったうさぎは、後をついてくる亜美に手を伸ばす。そのとき、うさぎは心のなかでつぶやいている(亜美ちゃん、私たち、ちょっとずつ変わってるんだと思う。もしかすると、亜美ちゃんの期待する仲間にはなってないかも知れないけど、亜美ちゃんを待ってた気持ちは、ほんとだから)
 うさぎがしゃべって、亜美が無言でうさぎの言葉を受け止める。それが二人の関係だった。でも今回は、ピンクのジャケットを着た亜美がしゃべって、ブルーの上着を着たうさぎが、それに無言で応えようとしている。この森で起こったいちばん重要な出来事はそれだ。
 亜美は口数が少なくて、今度だって、内心かかえていた不安や迷いを、うさぎにも誰にも、素直に伝えることができなかった。ただ心をこめて手袋を編んだだけだった。誤解をおそれて、思いを言葉にできない、それが亜美の弱さであり、そういうネガティブな気持ちをひとり胸の内にためこんでいたために、亜美はダーク化してしまったのである。
 うさぎは今まで、その時その時の自分の思いを、包み隠さず打ち明けてきた。でも自分の言葉が亜美のように寡黙な相手の胸にどんな波紋を引き起こすか、注意深く考えてはいなかった。言葉にするよりも、無言のうちに相手の気持ちを思い、それに無言で応えてあげることの方が重要なときもある。それができなかったから、亜美を敵に奪われてしまった。
 そういう意味では、二人の関係はまだAct.5のころからボタンの掛け違いが続いたままだったのだ。いつの間にか、うさぎは亜美の寡黙さを非難し、亜美はうさぎが自分の無言の努力をすくいとってくれないことに不満を憶えるようになってしまっていた。でも、もともとは、うさぎは亜美の物静かな思慮深さに、そして亜美はうさぎの、どんなときも屈託なく話しかけてくれる明るさに惹かれて、そこから二人の友情は始まったのだ。だからそこまで戻ってやり直すしかない。というよりも、そこに戻るところから、新しい二人の関係が始まる。入り口が出口。二人の気持ちがすれ違い、堂々めぐりを続けていた迷宮の森の出口は、入り口に戻ることでしか見つからない。
 そのことに気づいたとき、二人にようやく笑顔が蘇る。そして力を合わせて入り口に向かって戻り始める。ここまで来れば、あとはあの出発点となった滝をもう一度くぐり抜けて、流れ落ちる水の流れに最後の浄化の儀式を受ければいいだけの話だ。そのとき、水の戦士は今度こそ本当に、仲間の待つ世界に帰って来て「ただいま」と言えるだろう。今回はそういうお話だ。

3. 大ボケの森


 さて一方でクンツァイトだ。彼によればこの森は「ダーク・キングダムの庭も同然」なんだそうである。たぶんクンツァイトは、ここでしょっちゅう、ひとりで剣の練習でもしているのではないかな。
 そんなわけでクンツァイトは、まるで樹海のようなこの森全体をチェス盤に見立てて、二人の戦士を狩りたてるゲームを楽しもうとする「マーキュリー、つかの間とはいえ共に戦った仲だ。生きて脱出できれば今回は見逃そう。できればな」まあチェスって言っても、普通のコマじゃないが。
 ところで、前にも書いたが、原作の亜美は水泳とチェスが得意だ。「水と知性の戦士」の「水」が水泳「知性」がチェスにあたるという対応関係だ。そしてアニメには水泳は出てこなかったけれど、チェスは出てくるのでけっこう知っている方も多いのではないかなあ。ワールド・チェス・トーナメントで「あやかしの四姉妹」のベルチェと対戦する『R』第71話「友情のため!亜美とベルチェ激突」なんて、懐かしいですね。マーキュリーとベルチェかあ。河辺千恵子と若山愛美。♪揺れ動くこの気持ちペンジュラム〜♪
 すみません話を実写版に戻します。このAct.28を初めて観たとき、私は「クンツァイトばーか。亜美ちゃんはチェスの名手なんだよ。そうかつまり今回は、森の中を逃げながら、途中で亜美が(これはチェスのルールだわ、クンツァイトはゲームを仕掛けているのよ)と気づく。そしてラストは、駆けつけたセーラー戦士たちと妖魔が、チェスのコマのごとくに対陣する。あっちでクンツァイトがコマを進めれば、こっちは亜美が仲間にフォーメーションの指示を出す。息詰まる対局、という展開か。いいぞいいぞ。こういうところで、亜美はチェスが得意という設定を活かすとはさすがだなあ」と大いに感心して、あげくの果てに、CMが入ったところで一緒に観ていた娘に向かって「今日は最後にマーキュリーの新しい決めゼリフがでるぞ。きっと、チェックメイトよ!だよ」と得意げに予想してみせた。
 で結局はもちろん「お父さんぜんぜん違うじゃん」だったわけだ。「ばーか」はクンツァイトではなく勝手な妄想をしていた私であった。なんかホント、初回放送時はそんなことばっかりしていたよ。考えてみれば、伏線もなくこんなところで初めて「亜美はチェスが得意」って言われても、原作もアニメも知らないお友達には意味不明だろうしね。それにチェスのフォーメーションを活かしたバトルシーンなんて、どういうふうに演出したらいいのか私にもよく分からない。
 しかし亜美を追いつめるのにチェスという小道具を出してきたところには、かすかに原作と響き会うものがある。だからいいか、と娘の白い目をよそに自分をなぐさめたものである。そんなわけで、私は今でもこの回を見返すとつい「逃げてもムダよ」のポーズで「チェックメイトよ!」とキメるマーキュリーを想像してしまうのである。まあ想像は個人の自由だ。

4. 固ゆで卵のカラはもう壊れている


一方クラウン。前回、うさぎは亜美からテレティアで「レイとまことは木馬遊園地(という名前だそうだ、あそこは)に行かせておいて、ひとりで会いに来るように」という指示を受け、その通りにした。結局、空振りで戻ってきた二人はクラウンでうさぎの置き手紙を見つける。


   まこちゃんレイちゃん
   ウソついてごめん。
   亜美ちゃん ゼッタイ
   取り戻してくるから。
          うさぎ


 Act.16の最後で、家庭科の時間に手作りクッキーを作った後、うさぎが書いていた「地場 衛さま」というカードにはウサギの絵がそえられていた。うさぎは、親しい人に手紙を書いたりするときには、今までは署名の代わりにウサギマークを描いていたのだろう。でも今回はちゃんと、あいうえおの「う」にさしすせその「さ」に……の「うさぎ」である。成長したのだ。ただ書き出しでは、こわいレイちゃんよりも、先にまこちゃんの名前が出てきてしまっているあたりは、ちょっとうさぎだな。
 いやそれはともかく、二人はそれからずっと、心配だけれどもなす術もなくクラウンにいたのである。そこへルナ人間体がやって来て、ようやくレイに正体を見破られて、後は用件だけ伝えて寝る。しょうがないなあ。
 でも前回の日記のコメント欄でこっちよ!さんが書かれてもいたように、ここでルナが作戦参謀のままだと、次にレイが美奈子とアルテミスに助けを求める、という展開にもって行けなくなるので、やっぱり寝なきゃならない。それを見たレイは「猫っぽいところはそのまんまなのね」と言うが、今までルナが「猫っぽかった」のは外見だけだぞ。思い出せるのはAct.20で、亜美が編み物をしていた毛糸玉にじゃれていたシーンくらいだが、あの時あなたはいなかった。まあいいや。画面に映っていないところでは、これまでもいろいろと猫っぽかったのだろう。
 「仕方ないわ」というわけで、レイはまことを連れて、美奈子がFM番組の公開生放送のゲストとして出演するトーキョ・ベイ・スタジオをたずねる。ファンの見守るブースに登場する美奈子。バックにかかっている曲は、小松彩夏いちばんのお気に入りという「Romance」。本格的には次の次、Act.30の、うさぎちゃん企画(黒木ミオの悪だくみ)シークレットライブで初披露され、Act.35「立ちくらみライブ」でもオープニングナンバーとして使用されるシリーズ後半の代表曲が、ここでさりげなくお披露目である。
 「Romance」は北川景子の「星降る夜明け」と完全に同時進行で制作されたという。「星降る夜明け」は歌入れまでにキー合わせをする時間がなくて、結局「桜・吹雪」のキーに併せてバックの音を先に録音していたところが、人間の音程というのはそう簡単なもんじゃないらしくて、北川さんは歌えない。結局その場でキーを下げて歌だけ録音してから、スケジュールの都合でその日のうちに伴奏とコーラスの撮り直しとトラックダウンを同時にやって完成したという話だから普通じゃないですね。そういう普通じゃないところ、実際に北川さんのなんだか頼りなげな歌声を聴いていると分かる感じもするので、みなさんもお試しください。ってこれ「Romance」じゃなくて「星降る夜明け」の話になってしまっているが、とにかくそういうもの凄い状況のもと、プロデューサーが2つのスタジオを行ったり来たりしながら録音された曲だそうです。ベイベベイベの「Romance」は。
 ともかく、おそらくその新曲キャンペーンをやっているところに、レイとまことはやって来るのである。

まこと「愛野美奈子がセーラーヴィーナス!ホントに?」
レ イ「私ひとりが知っていればいいことだと思ったから」
  (レイをにらみつけるまこと)
レ イ「分かってるわよ。黙ってたことは謝るわ」
  (スタジオに向かって歩き出すレイ、その後ろ姿を見ながら)
まこと「変わったのはルナだけじゃないか」

 このへんにくると、もう「ハードボイルド」なんて形容詞をつけたことを後悔したくなるほど、まこちゃんを演ずる安座間さんは表情が豊かで、笑顔はとっても素敵です。ですがまこちゃん、もし本気で「変わったのはルナだけじゃないか」と言っているのだとしたら、それはちょっと……。ルナが「変わった」のとレイが「変わった」のは意味がちがうんじゃないかと、おじさん思いますが。
 ただ、ここでのまことのとびっきりの笑顔には、ファンだった愛野美奈子が実はセーラー戦士でもあった、という思いがけない喜びのほかに、もうひとつの意味がある。つまりまことは、うさぎが衛に恋をしていたことを、まだレイには話せていないんですよね。
 やっぱ隠しごとはいけないよな。レイも戦士の仲間なんだから、こういうこともちゃんと言っておかなきゃ、という後ろめたい想いと、でもレイはああいう性格だから、ここでまたそんな話をすると「男のことなんかで」と言われて、せっかくまとまりかけた私たちの関係がまたがぎくしゃくしかねない、という懸念があって、それで言えなかった。でもこの一件でまこと的には「なんだレイも隠し事をしていたんだ、これでイーブンだ」ということになったし、それから「結局、こんな事態になるまで自分の考えはガンコに通したけど、でもちゃんと、それで相手に悪いことをしたと思ったら、すぐ素直に謝れるようになったんだ。そんなふうにこっちの気持ちも汲んでくれるいまのレイなら、うさぎが地場衛に真剣だった気持ちも、話せば理解してくれるかも」とも感じて、レイに対するわだかまりが、ぜんぶぱーっと晴れた。そういう笑顔でもあると思います。
 しかしそんなリクツはともかく、繰り返しますがいいですねまこちゃんの笑顔。ハードボイルド・エッグの殻はすでに壊れて、輝くばかりの可愛らしさである。

5. あなたはルナ派?それともアルテミス派?


 ブースの中でDJと話していた美奈子は、外に群がるファンのなかにレイとまことがいることに気づく。しかしお仕事中でもあるので、デスクの下、足もとにおいたバッグをこっそりつま先で突く。するとバッグのなかからアルテミスが顔を出す。これはもう、バレバレなパペットだ。机の下に操演のスタッフ(助監督のひとり大峰靖弘さんだそうです)が潜り込んでいて、バッグから手を伸ばしてパペットのアルテミスを動かしているのだろう、大変だな。
 そういえば、相棒のルナなんか前回も今回もCGで飛び回ってる(というほどではない)のに、アルテミスがCGの回ってホントに少ないような気がする。ルナはひとりでひょこひょこ歩いたり走ったりするシーンがあるので、多少はCGを使いやすい面もあるが、アルテミスは美奈子の肩に乗っていたり、カバンから顔を出したり、フライパンで卵を割ったり、びっくり箱でぶっ飛んだり、どうも技術的にむずかしい場面が多いように思う。だからなかなかCGにしてもらえないんじゃないかな。
 それでちょっと可哀相とスタッフが思ったのかどうか、今回はアルテミス、この後レイとまことの二人と行動を共にする途中で、まことのジージャンの胸元に突っ込まれるという役得にありつく。とてもうらやましい。
 ところで、前々回の日記のコメント欄にM14氏が「アルテミスになって小松彩夏にだっこされたり安座間美優の胸元に入れられたい」というようなロクでもないことを書いてくださっているが、それを読んでいて私は「なるほど、ルナとアルテミスのどちらになりたいかというのはなかなか興味深い選択だな」と思ったりした。あなただったらルナ(猫)とアルテミスのどちらになりたいですか?
 ルナなら毎晩うさぎちゃんの寝室でいっしょのベッドに寝ることができるし、亜美ちゃんが編み物をしている毛糸玉にじゃれたりできるし、まこととデュエットで「肩越しに金星」のカラオケを歌うこともできる。アルテミスだったら、アイドル愛野美奈子のプライベートをほとんど独り占めできるし、まことの胸元に入れてもらうこともできる。
 この選択肢の良さは、どちらを選んでもまことにアプローチできるという点にある。一方、レイはどちらを選んでも高嶺の花だが、しかしルナなら、まあ日常会話は交わせる。アルテミスを選んだ場合は、接触こそ多くはないが、美奈子の病気の相談相手になってもらうとか、そしてそのことを聞いて一人で苦しみ悶えるレイをこっそり盗み見するとか(?)二人だけの秘密を共有できる。さあどっちがいいかな。しかしこれ沢井派と小松派は最初からどちらを選ぶか決まっちゃっているところが問題ですね。

6. ダーキュリーの頭痛の理由


 馬鹿な話ついでにもうひとつ。今回は亜美がダークマーキュリーだった間、いったいどんな精神状態だったのかが本人の口から語られている。

亜 美「私が、やったんだ。私がうさぎちゃんを…」
うさぎ「おぼえてるの?」
  (首を横に振る亜美)
亜 美「でも、うさぎちゃんのことは分かる。私、どれくらいあんな風だった?なにしてたの?」
うさぎ「なにって……ずっと、敵と一緒にいて……亜美ちゃんは操られてただけだよ!ぜんぜん悪くないんだから、気にすることないよ。早く帰れる道さがそう」
  (亜美の手を握って歩き出すうさぎ)
亜 美(うさぎちゃんにあんなことしたぐらいなんだから、きっとみんなにひどいことしてる)

ダーキュリー化した亜美は、仲間の戦士たちのことも憶えていたし、学校にも来ていた。だからダーキュリーになった後も、意識は亜美とつながっていたはずだ。ところがいま、もとに戻った亜美は、うさぎを倒したという強烈な出来事は断片的に憶えているが、それ以外のことは曖昧なのだ。ただ、おぼろげに、自分がひどいことをした、したに違いないという自覚はある。
 つまりダーキュリーとなっていた間は、ダーキュリーの自我が亜美の人格を支配して、以前からの亜美の記憶も共有していた。しかし亜美の人格は、ダーキュリーに支配される側だったから、その間の自分の言動は曖昧で、ほとんど憶えていない。そういうことになるが、しかしそんな理屈を言うまでもなく、この状態、私は学生時代にイヤというほど体験しているぞ。これはべろんべろんになるまで飲んだ翌朝の状態だ。
 お酒を飲まれない方、というかそんな無茶な経験がない方にはちょっとご理解いただけないかと思う。調子に乗って記憶がなくなるほど飲んだ翌朝、ずきずきする頭を抱えて目ざめ、しばらくは何が何だか分からない。次第に記憶が戻ってくるが、親しい友人と激しく議論していた、というかしつこくカラんでいた、その一場面だけは思い出す。細かいことは憶えていない。でも(あんなことしたぐらいなんだから、きっとみんなにひどいことしてる)もう穴があったら入りたい気分だ。そんなとき当の友人から電話がかかってきたりもする。「おい、おまえ昨夜はちゃんと帰れたか?」私は恥をしのんでおずおずと尋ねるのだ「私、どれくらいあんな風だった?なにしてたの?」
 いや本当にバカな話をしてすみません。でも今回の亜美の気持ちって、案外そんなもんではないかと思っているのだ。つまり、ということはあれだ。前回あたりでダークマーキュリーが何度も頭をおさえていたのは、要するにしこたま飲んだ翌朝の、記憶が戻る前のあの頭が割れるような痛み、あれに違いない。そう考えると、その痛さつらさが、よーく分かります。
 新婚当初ぐらいまでは、よく外で飲んで帰ってきたものだ。でも翌日、頭が痛くて苦しんでいても、妻はセーラームーンのように「あなた、あなたが一番つらいのね」なんて言ってくれなかった。当たり前だが。そしてそのうち子供もできて、記憶がなくなるまで飲むなんてことは、すっかりなくなってしまった。いまではほとんど居酒屋やバーに行くこともなく、せっせと帰宅して、ビデオを見たり本を読んだりしながらウイスキーを静かに啜るくらいの大人しい生活です。ここ2週間なんか、腱鞘炎に悪いからアルコールは一滴も飲んでいません。

7. ゲームの規則


 下らない話を続けていますがそろそろ終わりだ。さて、後半の展開と感動のラストシーンについては、特に言うことはない。これはもう、説明なんて要らない。私の手も限界を越えている。でも今回はAct.28なので、いろいろ書いてしまった。できればみなさんも、ビデオで鑑賞して下さい。ラストの、四人が揃って変身してポーズを決めるシーンも、Act.12Act.18(佐藤健光監督)の五人戦士そろい踏みほどのしつこいリピートがなくて、短く3カット。やっぱりこのくらいがいいよ。
 というわけで後は、こっちよ!さんが以前この日記のコメント欄で指摘されていた問題について少し考えて、それで終わりにします。
 こっちよ!さんが指摘した問題とは何か。すでに書いたとおり、クンツァイトは、迷宮の森を逃げまどう二人を、ゲーム盤のうえで狩りたてながら「マーキュリー、つかの間とはいえ共に戦った仲だ。生きて脱出できれば今回は見逃そう」とつぶやく。それなのにラストでは、そんな前言を忘れたかのように、脱出した亜美に襲いかかる。これはどういうことか。そういう疑問だった。
 いや私も「これだ」という答えをもっているわけではないんですけどね、ただここでクンツァイトが仕掛けているのは、一種のバトルロワイヤルではないか、と思う。
 クンツァイトは、亜美にしか語りかけていない。生きて脱出できれば「今回はお前に免じて二人とも見逃そう」とは言っていないし、なんかうさぎの存在をほとんど無視している。実際のところ、このゲームにおける挑戦者チームの主戦力は、ほとんど使い物にならない亜美を叱責し、手を引いて、必死で頑張っているうさぎのはずなのに。
 にもかかわらずクンツァイトの様子を見ていると、うさぎは度外視されていて、まるでこのゲームは、最初から亜美が脱出できるか、そうでないかのどちらかの結末しかないような感じがしてくる。おそらくクンツァイトはそう考えているのではないか。つまり、セーラームーンに変身できない今のうさぎには、どのみちこのゲームを最後まで乗り切る力はない、だから二人がこの森を脱出できるか否かのカギは、虚脱状態になっている亜美が、生き延びようという意志を取り戻し、ダークマーキュリーだったころにみせた闘争本能を甦らせることができるかどうか、にかかっている。マーキュリーは力を失ったわけではない。現在の状態は一時的な心理的ショックによるものだ。クンツァイトの見方からすれば、そうなるはずだ。
 加えて、クンツァイトは仲間を信じない。友情という言葉も信じない。信頼するマスターから前世に手ひどい裏切りを受けたことが、彼を人間不信にさせている。だから仲間と協力し合えば、二人の力が二倍にも四倍にもなるということなんか、ぜんぜん信じられない。仲間など足手まといにすぎない。
 まして今のプリンセスはセーラームーンに変身することができないのである。マーキュリー、たとえお前がダーキュリーだった頃の力を取り戻せても、そんなプリンセスにかかずらっていたら、その甘さが命取りとなって、森から生きて逃れることはできないだろう。お前が「生きたい」という本能のままに再び本来の力にめざめ、かつ甘ったるい友情とともに、無力な仲間を切り捨てることができたとき、その二つの条件を満たした場合に限って、お前はその森を脱出できるだろう。そしてその時は、プリンセスを見捨てたその非情さに免じて、お前のことを「今回だけは見逃そう」。クンツァイトはそういう意味で言っていたんだと思うんですね。
 うさぎと亜美が励まし合って、ふたりで脱出の道に向かうという結末は、クンツァイトのまったく想定しないものだった。だからクンツァイトは激しく苛立ったのである。Act.14でクンツァイトの術にかけられたうさぎは、マーキュリーの声が届いて、妖魔化せずに目ざめた。そのときのクンツァイトの様子は、ふだんは超然としたポーズを崩さない彼には珍しい狼狽ぶりで、そのあと変身したセーラームーンの攻撃を受けてもあっさり撤退している。そんなふうに、孤高の戦士クンツァイトは、人と人とが信頼し合うことから生まれる力に弱く、その無限の可能性を何よりも怖れている。
 プリンセスと手に手をとって出口に向かうマーキュリーを見て、クンツァイトは、自ら彼女を殺すことを決意する。こうなるとは想像していなかった。あいつは信頼し合うことの強さに目ざめた。このままでは私もかなわない強力な戦士になる。そうならないうちに、私の刃で葬らねばならない。
 しかし、そのもくろみはあと一歩というところでついえる。なぜか。ネフライトが裏切ったからだ。仲間というものを信じなかった戦士クンツァイトは、それゆえに、最も嘲笑していた「仲間」から手痛いしっぺ返しをくらい、セーラー戦士たちの強い信頼と絆の前に、立ち去ることを余儀なくされるのである。
 まあ、だいたいそんなところだと私には思えました。「今回は見逃そう」と約束したクンツァイトが最後にそれを破ったのは、この森の「ゲームの規則」が、彼の想定していたものと違っていたからなのではないか、ってことですね。


 今回はAct.28ということでけっこう長かったですが、次回Act.29レビューはうんと短くなる予定です。「亜美ちゃんお帰りパーティー」で始まるAct.29の再放送は11月8日(水)の深夜2時25分で、その2日後の11月10日(金)には必ず更新しますから。この日は特別な一女子高生の18歳の誕生日なので、無理にでも更新します。では。


(放送データ「Act.28」2004年4月24日初放送 脚本:小林靖子/監督:舞原賢三/撮影:松村文雄)
(猫CGデータ)アヴァン・タイトル。倒れたうさぎに駆けつけるルナ