実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第32回】プルート・ソリテュードの巻


 9月1日は「防災の日」だった。いざというとき何がおこってもパニックに陥らないよう、心を引き締めなければならない日だというのに、私ときたらしょうがないなあ。前日に安座間美優さんのHPを見て大パニックで、自分の日記のコメント欄に繰り返しコピぺしたりして、こういうときいちばん最初にしなければならない肝心なことを忘れていた。
 ひさしぶりに浜千咲(セーラーりか様)が、われわれの目の触れるところに降臨した。こういうとき、セーラームーンリングに参加する者として一番最初にしなければならないこととはなにか。もちろん総本山を参拝することである。総本山は狩水衣という。すっかり忘れていた。まる一日遅れで行ってきました。すでに参拝者の方々が色々な記帳をしておられたのを見て、いまさら恥ずかしいので記帳は控えて帰ってまいりました。

 

 というわけで、全然関係ないが、ここのところ冥王星がどうのこうのと騒がしい。そこで名古屋支部としても、このへんで冥王星問題に対する公式コメントを出しておきたい。しかしそのためには、セーラープルートとは何者か、ということをきちんと書かなければなるまい。いや「なるまい」って、そんなこと、わざわざ改めて書かなくてもみんな知っているんだろうな。
 でも、この日記を始めて、みなさんからいただくコメントを読んでみると、武内直子の原作コミックが、意外と知られていなかったり忘れられていたりすることに気づかされる。それにプルートは、この日記のメインである実写版にはぜんぜん出てこない。そこで今回は、もうひたすら原作のストーリーだけを追いながら、セーラープルートのキャラクターをきちんとプロファイリングしてみたい。そうすれば、セーラームーンのファンは、現実世界で冥王星がどうなろうが騒ぐ必要はない、落ち着いて構えるべし、という当方の主張も、おのずと理解していただけるのではないかと思うのだ。

1. 時の深淵を守る者

セーラープルート! その存在すら知ることもゆるされない だれもその姿を見たことのない 孤独な時間の番人!(KCなかよしコミックス『美少女戦士セーラームーン』第5巻)

 セーラープルートは時の流れを超越した戦士だ。彼女の物語は、我々のこの時代より遙か1000年も先の未来から始まる。
 時は三十世紀。地球で一番美しい都クリスタル・トーキョーは、キング・エンディミオンとネオ・クイーン・セレニティとのもと、平和に統治されていた。キングとクイーン、もちろんそれは未来の衛とうさぎの姿である。そして二人が結ばれて生まれたシルバー・ミレニアムの第一王女こそ、うさぎをそのまま小学生にしたような「うさぎ・SL(スモールレディ)・セレニティ」通称スモール・レディだ。
 いくらなんでも三十世紀って、それ未来すぎやしないかと思う人がいるかも知れないけど、セーラームーンの世界では、二十一世紀に入ってからは地球人も、かつて月の人々がそうであったように、銀水晶の力でみんな長生きなんである。成人になるまでは今と変わらないペースで成長し、それから老化が止まり、寿命は1,000年続くという、なかなか都合の良い設定だ。
 ところがスモール・レディだけは「シルバーミレニアムの血を引く地球人」という特殊な生まれが災いしてか、少女の時点で成長が止まったまま、もう900歳にもなるのに、プリンセスとして覚醒しない。銀水晶のパワーを操る力ももたず、もちろん戦士にも変身できない。原作を読んでいない方はびっくりされるだろうが、ちびうさって実は900歳なんですよ。
 ともかくスモール・レディはぜんぜん成長しない。だから人々は彼女のことを「シルバー・ミレニアムの額(ひたい)のしるしもないのよ。いつまでたってもチビで、女王とは似ても似つかないわ」と陰口するし、学校の友達は面と向かって「知ってるか、おまえは、女王のホントの子じゃないんだって、みんないってるぜ」といじめたりもする。
 そんな周囲の声にいたたまれず、王宮に引きこもりがちなスモール・レディは、ある日、王宮のずっと奥、出入りを禁じられている回廊の向こうにある開かずの間に、いつしかさまよいこむ。封印された扉の前には、漆黒の髪と褐色の肌、そして手には長いロッドを手にした、すらりと長身のセーラー戦士が立っていた。彼女はスモール・レディの前にひざまずく。

プルート「はじめまして。スモール・レディ」
ちびうさ「あたしを知っているの?」
プルート「こんなところまでこれるのは、シルバー・ミレニアムの一族の者だけです。わたしの名はセーラープルート。この扉の番人です。あなたは女王にうりふたつですよ。きっと美しいレディになるわ」
ちびうさ「プルート、それは?」
プルート「これはわたしのガーネット・ロッドですよ」
ちびうさ「ママももってるわ。すてきなロッドを。そのムーン・ロッドで幻の銀水晶をあやつり、奇蹟をおこすの」
プルート「それはやがて、あなたの役目となるのですよ。あなたはクイーンの娘なのだから」

 パパとママ以外、そんなふうに優しく励ましの声をかけてくれた人は、はじめてだった。というわけでスモール・レディは、誰も知らない王宮の奥に、たったひとりの、でも本当に心を許せる友人を得た。そしてそれからちょくちょく彼女を訪れるようになる「あたしね、プルートさえいればいいの。約束したよね。あたしたち友だちだって」。プルートも、訪れる者もいないこの場所で孤独な任務を努めていたところに、いきなりとびこんできた少女を、妹か何かのように心から可愛がるのである「ええ。わたしはすなおなあなたが大好きですよ。わたしにこんなに会いにきてくれるのは、あなたがはじめてです」。
 プルートが侵入者から守っているその扉は、過去から未来、時の流れを自由に往き来することのできる「時空の扉」だ。彼女は、時をつかさどる神クロノスの血を引く、冥界の番人なのである。
 もっとも、実際のところ、ギリシア・ローマ神話で冥界をつかさどる神プルートもしくはハデスは、農耕の神クロノス(CronusまたはKronos)の子供であって、時間の神クロノス(Chronos)とは直接のつながりはない。しかしまあ、当のギリシア・ローマ人もこの両者の「クロノス」を混同することがあったらしいので、細かいことは問わないでおこう。そういうことを言いだすと、セーラーサターン=土萌ほたるの設定の方がもっと問題なのだ。サターンこそ農耕神サトゥルヌスが語源で、これがクロノスの別名だったりするからね。ま、そういうややこしいことは、また別の機会に考えてみましょう。

2. ブラック・ムーン来襲!


 さて、未来の地球ではそんなふうに、人々は悩みなく、みんな長寿で平和に暮らしていたのである。ところがそこに、ある日「ブラック・ムーン」と名乗る一味が来襲する。ブラック・ムーンは、かつてクリスタル・トーキョーで謀反を起こした反逆者たちの子孫である。
 地球を犯罪と殺戮に染めようとくわだて、ネオ・クイーン・セレニティ=セーラームーンの怒りに触れて、太陽系の彼方に永久追放された流刑者たち、その末裔が、クイーンと地球への恨みをはらすべく、長い歳月を経て舞い戻ってきたのだ。かれらは太陽系第十番惑星「ネメシス」を拠点としている。そこには、幻の銀水晶に匹敵する暗黒の力をもつ「邪黒水晶」があるのだ。
 ブラック・ムーン一族のプリンス・デマンドは、いきなり地球に邪黒水晶を打ち込み、攻撃をしかける。クイーンは幻の銀水晶の力でそれに立ち向かおうとした。だが銀水晶がない!
 銀水晶を持ち出したのはスモール・レディだった。同級生たちからニセ物プリンセスとからかわれ「プリンセスなら幻の銀水晶を使えるはずだぜ。おまえ幻の銀水晶を見たこともないんだろ。見せてももらえないなんて、やっぱりウソの子なんだな」と中傷されたスモール・レディは、「ちがうもんっ、あたしはパパのとママの子だもんっ」と、ママの部屋にこっそり忍び込んで幻の銀水晶を持ち出し、自分が正統なプリンセスであることを周りに認めさせようとしたのである。ところが、非常にタイミング悪く、ちょうどそのときブラック・ムーンが邪黒水晶で攻撃をかけてきたのだ。
 銀水晶がなかったために、ネオ・クイーン・セレニティは凍りつき、あたりは瞬時に氷河となる。地球は一瞬にして壊滅の危機に瀕してしまう。
 自分のせいで地球に滅亡の危機をもたらしてしまった、という深い自責の念にかられるスモール・レディ。銀水晶は手もとにあるが、自分にはそれを操る力がない。プリンセスなのに。どうしたらいいのだろう。そんなスモール・レディの記憶をよぎったのは、大好きなパパ、キング・エンディミオンから何回も聞かされたあの話だ。

「セーラームーンはどんな敵にも負けたことがない」
「どうして?」
「つよい心と、すばらしい仲間と、無敵の力をもつからだよ」

 セーラームーンがいれば、そしてセーラームーンの銀水晶とわたしの銀水晶、二つの銀水晶があれば、ブラック・ムーンを倒して、地球を元に戻せるかも知れない。そう思ったスモール・レディは、セーラープルートのもつ「時空のカギ」をこっそり使って、二十世紀へとワープする。そして「ちびうさ」として、衛とうさぎ、未来のパパとママのもとに空から降ってくる。このシーンは有名ですね。
 一方、ブラック・ムーン一族もまた、時空の流れを逆行して、この二十世紀にやって来るのである。その目的はなかなか壮大だ。

「月の王国に支配され、腐りきった三十世紀の地球に用はない。われらは新しい地球を手に入れるのだ。過去へ、月の王国の者たちに支配されるまえの過去へいき、歴史をぬりかえる。そして兵をおくりこみ、あらたにブラック・ムーンの歴史を築く。歴史の再生だ!」

 しかしスケールの大きなことを言うわりに、攻撃するのは麻布十番周辺ばかりだ。まあいい。たぶん三十世紀のクリスタル・トーキョーが、この辺を中心に繁栄していたからなんだろうな。ともかく、こうしてうさぎたちの周囲では、ミステリーサークル、UFO、謎の失踪事件などの超常現象が急増し、やがて怪しげな敵たちが徐々に姿を現す。


 物語の順序としては、原作の第二部「ブラック・ムーン篇」は、このへんから始まる。ダーク・キングダムを倒してようやく平和が訪れたのもつかの間、レイは、頻発するUFO目撃などの怪奇現象にただならぬ気配を感じて、独自に調査に動き出す。うさぎのところへは、謎の少女ちびうさがやって来る。そして正体不明の敵が現れ、戦士たちは再び変身して戦う。その姿を見ながら、ちびうさは、ほんとうにセーラームーンが伝説どおり無敵の戦士なのかを見きわめようとする。その一方で、セーラームーンの幻の銀水晶を奪って、自分のもっているのと二つあわせて、未来のクリスタル・トーキョーを救うことはできないかとも画策する。けっこう話は面倒である。「タイム・パラドックスはどうなってんだ」とか、そういう整合性は、あまり深く考えない方が良いと思う。
 やがて敵との戦いは熾烈さを増し、マーズ、マーキュリー、ジュピター、三人の戦士が敵の陣営に拉致され、安否不明の状態になる。そうなったころ、ようやくうさぎ=セーラームーンを信用する気になったちびうさは、「三十世紀の地球を助けて!」と真相を告白する。
 ちびうさのもつ「時空のカギ」で三十世紀にタイムワープする残された四人、ヴィーナス、セーラームーン、ちびうさ、そしてタキシード仮面は、荒涼としたクリスタル・トーキョーで、キング・エンディミオンからすべての真相を聞かされる。タキシード仮面にとっては未来の自分とのご対面である。「タイム・パラドックスはどうなってんだ」とか、そういうことは深く考えないでね。

3. プルート その報われぬ愛


 えーと、今回はたんに延々と原作のあらすじを紹介しているだけに見えますが、けっこうコミックの方は、プロットが込み入っていて、話が行ったり来たりでなかなか分かりにくいのです。それを一応、それなりに話の流れが理解しやすいよう整理しているつもりではいるんですけど、それでも「筋がごちゃごちゃしていて、なんだか分かんないぞ」という方、すみません。これが私の限度です。
 で今日の本題はセーラープルート様なんだが、さっきも書いたように、いつまで経ってもプリンセスらしく成長しないちびうさ=スモール・レディの、たったひとりの心の友がプルートなのだ。
 ちびうさがうさぎ=セーラームーンになかなか打ち解けないのは、一見ドジに見えるうさぎの面影が、実はネオ・クイーン・セレニティそのものであるからにほかならない。ていうか、1,000年の時を隔てているとはいえ同一人物なのだから当然だが、ともかく、いつもクイーンと比較されて、成長もしなければ変身も出来ないことを周囲からあれこれ言われて傷ついているちびうさにとっては、銀水晶のパワーを自在に操り、力強く戦うセーラームーンの姿は、かえって自分のコンプレックスを刺激するのである。
 それに最愛のパパ=キング・エンディミオン=地場衛が、そんなクイーン=うさぎと相思相愛で、自分がつけ込むスキがないもイヤだ。男の子でも女の子でも、長くは続きませんが、ごく幼い時代に「大きくなったらママをお嫁さんにする」「パパのお嫁さんになる」っていう時期がありますね。みなさんの家はどうですか?ちびうさはたぶん、そんな時期にいる。パパをめぐって、うさぎとは恋敵なのだ。
 だからいつもうさぎを出し抜いて「まもちゃん」と仲良くしようとする。三十世紀の未来で、父親に存分に甘えられなかった渇望を、この二十世紀で癒しているのである。で、事情を知らないうさぎが、また真剣に「まもちゃん」をちびうさと張り合うもんだから、この奇妙な三角関係は、母と娘の確執というか、ちょっと深刻でもある。
 話は横道にそれたが、ともかくそんなちびうさ=スモール・レディにとって、心から色々なことを打ち明けられる、唯一信頼できる「友だち」がプルートだったのだ。ところがそのプルートが、本当はパパ=キング・エンディミオン(未来の地場衛)をひそかに愛していた、というのだから、これはショックだ。
 時空を越えて三十世紀を訪れた戦士のリーダー、セーラーヴィーナスが「あたしたち、セーラープルートのこと、その存在すら知らなくて。同じセーラー戦士なのに、なぜ?」と尋ねる。するとキング・エンディミオンは語る「プルートは、きみたちプリンセス・セレニティの四守護神とはその使命も立場もまったくちがう。……時をつかさどる神クロノスの血を引く、時間と時間のはざまにある、冥土の扉の美しい孤独な番人。セーラープルートは、だれよりも長く生き、あらゆる時代を見聞きし、そしてだれよりも忍耐強く的確な判断をくだせる、たよれる戦士だ」
 そう言われたときの、はにかむように顔を赤らめるセーラープルートの顔。それを見てちびうさは「こんなうれしそうなプルート、はじめて見た」と気づく。
 そうだ。プルートはひそかに、許されない恋と知りつつ、エンディミオンにあこがれている。もちろんクイーン・セレニティへの忠誠心も人一倍強いから、そのことを決して表に出したりはしない。けれども、ちびうさにだけは、プルートの本心が分かる。ちびうさは愕然とする。あたしだけのプルートだと思っていた。けれどもプルートの心の中にいたのはあたしじゃなかった、大好きなあたしのパパだった。「あたしの知っているプルートは、いつもすこしさびしそうで、あたしにだけわらってくれた……もう、あたしの居場所はどこにもない」
 たったひとつの、孤独を癒してくれる場所さえ失ってしまったスモール・レディ。そこへつけこんだのが、惑星ネメシスの影の支配者ワイズマンだ。スモール・レディをたぶらかし、暗黒面に寝返らせて、幻の銀水晶を手に入れようという算段である。かれはテレパシーを通じてスモール・レディに語りかける「居場所をなくした迷える者よ、暗黒の心が見え隠れする。わたしこそがおまえの求めていたもの。おまえを真に必要とするもの。くるがよい。わたしとともに」
 こうしてブラック・ムーンの計略に堕ちたちびうさは、愛する人々への情を断ち切り、憎しみへと変えた。そしてその代償として、大人の姿を得ることができた。深くスリットの入った大胆な黒のドレスをまとい、艶然とほほえみながらうさぎたちの前に立ちはだかる、長身の美女。「あたし、成長することができたの。あたしは暗黒の女王ブラック・レディ、暗黒の支配者ワイズマンに選ばれ、暗黒の星ネメシスの女王として生まれ変わったのよ」

4. 実写版との接点(推定)


 私は、次回の再放送から本格的に始まる実写版ダーキュリー篇は、この原作のブラック・ムーン篇(ちびうさ篇)の小林靖子流アレンジなのだと思っている。ダーキュリーの原点は、ブラック・レディだ。
 ちびうさは、番組のメインターゲットとなる低年齢層が感情移入できるキャラクターとして、当初より「出すように」という(とくにスポンサーからの)要請が強かったキャラクターだと思う。実際、DVD付録の特典映像のどこかで沢井美優は「里奈は最初ちびうさ役と聞いてオーディションを受けた」ということを語っていたし、初期の台本には、アヴァン・タイトルの語り手としてちびうさが出てくるバージョンもあったようだ。ただ小林靖子は、おそらくちびうさを出すことには消極的だったと思う。まあこのあたりの推定には私なりの考えもあるのだけれど、今は話が長くなるので止めておく。
 いずれにせよ、春の玩具商戦に向けて、第3クールから「ちびうさ的な新キャラ」を出さざるをえなくなり、小林靖子はルナ人間体(セーラールナ)というかたちでそれを実現する。さらに、原作のちびうさ篇を改めて読んだ小林靖子は、ちびうさがダーク化して「ブラック・レディ」になる、という着想にも強く心惹かれる。小林靖子だもの、これに注目しないわけがないよ。この設定はぜひ使ってみたい。しかしもちろん、セーラールナの役回りではない。となると、やっぱり亜美しかいない。なんて見てきたように書いてはみたが、これは裏付けの資料も何もないただの推測である(おいおい)。でもそういうことなんじゃないかと私は勝手に思っております。

5. 暁に死す


 話を原作に戻す。うさぎは、ちびうさの孤独も理解せず、衛にくっつきっぱなしのちびうさに嫉妬して邪険に扱ったことなんかを悔やみ、戦うことなく、ブラック・レディを元のちびうさに戻してやろうと決意する。そして実際、幻の銀水晶の光は、ブラック・レディの心をぐらつかせたりもする。がしかし、そう簡単には戻らない。この辺のしつこい感じも、そのまま実写版のダーキュリー篇に活かされている。
 そしてついにブラック・レディは、邪黒水晶の力で星のすべてを滅ぼしはじめる。戦士たちは暗黒の力に次々に倒され、セーラームーンの必死の説得も空しく、ついに幻の銀水晶さえ奪われてしまう。
 ブラック・レディのもつ三十世紀の「幻の銀水晶」とセーラームーンのもつ二十世紀の「幻の銀水晶」ふたつの銀水晶が敵の手に落ちる。この二つを接触させれば、その瞬間、世界は消滅する。
 そのとき立ち上がったのが、セーラープルートである。セーラープルートは、その瞬間の時間を止める。だがそれは自らの命を賭けた行為だった。決してやってはいけないと、クイーンからも禁じられていたのである「あなたとあなたのもつガーネット・ロッドには、時空を動かすちからがそなわっています。でもけっして、どんなことがあっても、時間をとめてはいけない。もしもこのタブーをおかしたとき、プルート、そのときは、みずからほろびるでしょう」
 その予言どおり、がっくりとくずおれるプルート。時間が凍り付いてぴたりと止まった敵、ブラック・ムーンのプリンス・デマンドから幻の銀水晶を取り戻したセーラームーンはプルートに駆け寄る。

セーラームーン「プルート。幻の銀水晶をとりもどしたわ。見て。あなたのおかげよ」
セーラープルート「よかった。……わたし、ずっとあなたたちの役に立ちたかった。いっしょに戦えたらって、ずっと思ってたの。セーラームーン。未来のネオ・クイーン・セレニティ。あなたはずっとわたしのあこがれだった。セーラームーン、どうか、スモール・レディを救ってあげて」
エンディミオン「もうすこし、もうすこしでいいから、もちこたえるんだ、プルート!そうすれば」
セーラープルート(キング、あなたの顔がこんな近くにある。……そんな顔しないで……ラベンダーのマント、美しいうすむららきの、朝焼けの色だわ)

 こうして、エンディミオンへの想いを永遠に胸に秘めたまま、プルートは息絶える。そのとき、ブラック・レディと化したちびうさの胸に、かつてプルートと交わしたこんな会話がよみがえる。「ママはあたしのこと、好きじゃないのかな」「だきしめて、キスをするだけが愛している証拠じゃないわ、スモール・レディ。遠くからそっと思うだけの、見守る愛のかたちだってあるの」
 それはプルートからの最後のメッセージだ。ブラック・レディの目にみるみる涙があふれ「プルート!」と叫んだ瞬間、ようやくちびうさは元に戻る。いや戻ったのではない、新しい戦士、セーラーちびムーンの誕生である。


 私にとっては、原作ブラック・ムーン篇で、愛する人への想いを胸に、孤独に死んでいくこのプルートが、セーラープルートのイメージの原型だ。ブラック・ムーン篇はつまりアニメの『セーラームーンR』であり、2001年夏のセーラームーンミュージカル『誕生!暗黒のプリンセス ブラック・レディ』と翌年上演されたその「改訂版」でもある。どれも好きだ。特にミュージカルは、6代目プルートを演じた穂坂優子のベストを挙げろと言われれば、たぶんこの舞台になると思う。銀水晶を守るために時間を止める場面は、何度見ても涙ぐんでしまう。いい歳してほんとうにバカである。あと小野妃香里のプリンス・デマンドとか、それから河辺千恵子のマーキュリーとか、河辺千恵子のマーキュリーとか、ほかにも河辺千恵子のマーキュリーとか、見どころも沢山ある。VHSしかないのがつらい。早くDVDを出して欲しい。のではあるが、しかしエンディミオンへの想いはきちんとは描かれていない。そういう意味で、プルートのせつせつとした孤独が胸に迫るのは、やはり何と言っても原作漫画だ。
 もっとも原作も、次の第3部「無限学園篇」に入ると、確か半年も経たないうちに、プルートは、元基と同じKO大学の物理学専攻の学生「冥王せつな」として復活してしまう(おいおい)。セーラーサターンの覚醒を防ぐために、ネオ・クイーン・セレニティ(未来のうさぎ)が、ウラヌス・ネプチューン・プルートの外部太陽系三戦士を、二十世紀に転生させるのである。ちびうさは大喜びだが、でも私は、ブラック・レディ篇でプルートが死んだときの深い深い哀しみが、それで帳消しになったとは思わなかった。それは、実写版のFinal Actで美奈子の笑顔を見たときも、ほんの2週間前に美奈子がいってしまったときの切ない気持ちが決して消えなかったのと同じことだ。
 天文学者たちが冥王星を太陽系の惑星として認めようが認めまいが、もともとプルートはたったひとりの、孤独で淋しい星なのだ。ということで、今日は実写版とは直接関係のない話なので、さらりと流して終わるつもりが、やっぱり長くなってもう朝だ。すみません。