実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第744回】つたなく はかなげな こんな想いも 未来でうまれかわる の巻(小松彩夏「花火カフェ」)

 すごいもんを観ちゃった。俳優で脚本家でユーチューバーの宏洋(ひろし)が制作・脚本・監督・主演の四役をつとめる映画『グレー・ゾーン』である。やくざの親分の娘に拾われたチンピラが、親分暗殺後の騒動にかかわっていくアクション・コメディとのことで、現在クラウド・ファウンディングで出資者を募集中。騙されたと思って観て欲しい。結果、騙されたことになっても保証しませんけど。



 このクオリティで、目標金額500万円のうち、すでに175万円を得ているというのがすごい。この人、何者かと思ったら、大川隆法氏のご長男である。まだ大学生だった2008年に『仏陀再誕』の脚本を書き、その後、宗教法人「幸福の科学」関連の映画に関わり、2017年の映画『君のまなざし』では総合プロデューサー・脚本・出演の三役を務めて、「第3回国際ニューヨーク映画祭」(オフ・ブロードウェイの小劇場「プロデューサーズ・クラブ」が主宰する映画祭)で最優秀長編作品賞を受賞した。



 続く2018年の『さらば青春、されど青春』では、これが女優復帰作となった千限美子(清水富美加)をヒロインに迎えて主演を務めた。若いのにたいしたキャリアではないか。何でも、清水富美加、ではなかった千限美子との結婚を強制されそうになったので、父親と訣別して「幸福の科学」を脱出して、いまは独立されているそうである。



 その「宏洋がしがらみなく自由に初めてつくる映画」『グレー・ゾーン』は間もなく公開予定。対立する組の当主役で仁科克基も出るよ(笑)。リュウ隊長!



 さて本日のお題なんですが、このお正月休みにビデオで観た映画のなかから一篇、オムニバス映画『ぼくたちは上手にゆっくできない』(REALCOFFEE 2015年3月公開)の第2話をレビューしたい。この映画を制作したリアルコーヒーというのは、作家の舞城王太郎が中心になって立ち上げた映像制作ユニットの名前だそうだが、詳しいことはよく分からない。



 とにかくこの作品は、そのユニット名に因んで「コーヒー」をモチーフにした「3人の小説家によるオムニバスドリップ映画」(という宣伝文句)である。安達寛高、桜井亜美、舞城王太郎という三人の作家がそれぞれ脚本・監督を担当して、一人当たりの持ち時間は30分強、ぜんぶ合わせて100分強という、個人的にはわりと見やすい構成。第1話を担当した安達寛高(あだちひろたか)は乙一の別名義だが、『ウルトラマンジード』では、全体のシリーズ構成は安達寛高名義で、脚本は乙一名義で書かれていましたね。



 で、この映画の第2話、桜井亜美監督作品「花火カフェ」の主演が小松彩夏であることは、公開当時は聞いていたし、機会があったら観ようとも思っていたんだけれども、なにせマイナーな映画なもんで(すみません)そのうちすっかり忘れてしまっていた。先日『M14の追憶』にレビューが載っていて、今なら「Amazonプライム」で視聴できることを教えていただいた次第です。ひょっとして「何でいまさらこの作品のレビューを?」と思われた方もいるかもしれないが、すみません理由はそれだけです。




 ドラマは、視覚障害者の女の子、染谷(小松彩夏)が、たぶん行きつけの雑貨屋でコーヒーを買う場面から始まる。目が見えないから、コーヒーの種類を、パッケージを触ったり匂いを嗅いだりして判別する。




 買い物を終えて帰る先は「木蓮荘」という表札の見える古びたアパート。住人たちの持ち物でごった返している廊下を、杖で器用に通り抜けて奥にある自分の部屋へと進む。



 部屋に向かう途中、恋人の宮本から電話があり、大切な話があるので、これから来るという。





 やってきた宮本のために、染谷が買ってきた豆でコーヒーを淹れている場面でタイトル「花火カフェ」。恋人の宮本を演じているのはアミューズ所属の吉村卓也。



 この二人、恋人同士なのにファーストネームで呼び合わない。染谷も宮本も互いを名字で呼び合っている。染谷は全盲のようなのだがも絵を描く才能がある。





 宮本の「猫の目は夜の空に浮かんでいる満月みたいだ」という言葉にインスパイアされて描いた絵が、視覚障害者の絵画コンクールで賞を獲ったという話だ。



 二人が恋人同士の関係になったきっかけはある夜のこと。宮本が、このままでは家に帰るまでに寝てしまいそうだから、コーヒーを一杯だけ飲ませてくれと、染谷のアパートに転がり込んだのがきっかけだった。要望どおり「どろどろに濃い」コーヒーを淹れてやった染谷だが、宮本はそのまま泥のように眠りこけていた。



 染谷は布団を出して宮本を寝かせてやり、自分は手をつないで添い寝する。





 翌朝、目が覚めた宮本は、傍らに居た染谷の笑顔に吸い込まれるようにキスをした。それから二人の交際は始まった。



 でも宮本には、もう染谷とは別の新しい彼女が出来ていた。いまもその彼女から、早く帰ってきてねとメッセージが届いている(染谷は彼のことを「宮本」としか呼ばないが、新しい彼女はスマホの画面で彼に「さとし」と語りかける)。





 そしてスマートホンの液晶が見えない染谷も、宮本の雰囲気や、そそくさと返事メールを打つ態度などで、もう自分が宮本にとって一番大切な女の子ではなくなっていることに、だいたい気づいている。




 それでも染谷は、彼の気持ちをつなぎとめたくて、あの夜と同じようにコーヒーを淹れ、ラテアートを作ってみせたり、思い出話をしようとしたりするのだ。



宮 本「この写真、去年の……」



宮 本「……ってかさ、飾ったってこれ見えないじゃん」
染 谷「見えるよ」
宮 本「はあ? だってこれ逆さまだし」



染 谷「その写真に触ると、あの日宮本が手に描いてくれた花火が、魔法みたいにここに出てくる」



(スマートホンの震動音)



染 谷「ねえ、今年も花火しようよ」
宮 本「ああ……花火ね」



宮 本「え、なに?」
染 谷「あの時みたいに、ここに花火の画、描いて」



╳    ╳    ╳




宮 本「ああ、もう落ちちゃうかな……」



宮 本「ねえ、どうだった、初めての花火」
染 谷「何なのか分かんない。ちゃんと分かるように説明して」
宮 本「いやぁ、あの、どんなのって言われても、おれ理系だし、言葉のキャパないからなあ……」
染 谷「私は煙くさいだけで何にも楽しくない」



宮 本「え……分かった、えっと、えっとね、花火は、こう金属の炎色反応を利用した火薬の爆発で、線香花火は赤い色を出す……とかじゃ、ダメだよな」



染 谷「もう煙くさいの嫌だから帰る」



宮 本「いやいや、ちょっと待ってよ、ねえ」



宮 本「ああもう、ねえちょっと待って、ねえホント」



宮 本「あっ危ない、ちょっと」



染 谷「もうやだ、早く帰りたい」



宮 本「よし分かった、ちょっと待って、ちゃんと説明するから、な、座って」



宮 本「じゃああの、手のひら出して。描いてあげる。いい?」



宮 本「線香花火は、赤い光の花のかたまり。これ花ね」



宮 本「で、その花が、ここにも、ここにも、これも花。その花が追っかけっこしているみたいに、咲いたり、消えたり」



宮 本「その花が、どんどん小さくなっていて、最後、小指の先みたいのがポトンと落ちて、終わり」



宮 本「はは、ああやっぱキャパねえなあ。これじゃ俺、小学生みたいじゃん」



染 谷「見えたよ。きれいな線香花火がちゃんと見えた。光の花びらが咲いたり消えたり」



染 谷「みんな宮本の指から魔法みたいに出てきた」



宮 本「よかった……えっと、じゃ次、ネズミ花火は……」



╳    ╳    ╳




宮 本「思い出した? 線香花火のかたち」



染 谷「うん、きれい。小さい花びらが咲いたり消えたり」



宮 本「花火ってさ、ずっと手のひらから消えないよな」



染 谷「うん、いつでも手の中にある」



宮 本「染谷と過ごした楽しい時間も同じだと思うんだ」



染 谷「どういうこと?」



宮 本「もう新しいもの、見せてあげられなくなった。ごめん。俺もう、染谷に会えない」



宮 本「ごめん……ごめんね」
染 谷「ねえ、どっちがいい?」
宮 本「え?」



染 谷「生まれてから死ぬまで、この世界に花火があるのを知らないのと、一度だけ花火を見て死んじゃうのと、どっちがいい?」



宮 本「俺には、分かんない」



染 谷「あたしはね、一度だけ見たかったんだ」



染 谷「だって花火を知らなかったら、夏の夜に浴衣着て、オリンピックの聖火ランナーみたいに、真っ暗な夜を照らしている、いい気持ちになったりもできないでしょ」



染 谷「それって例えばさ、ボブディランがここで、私だけのために歌ってくれるみたいな、超感動ものなんだよ」



染 谷「だから私は宮本に花火を見せてもらおうって決めたの」


 さっき書いたとおり、この映画はいまAmazonプライムに入っている人なら無料で鑑賞できる。あとU-NEXTとTSUTAYA TVでも視聴可能のようだ。なので、ここから後、オチまでの展開は伏せておく。まあだいぶお話を紹介してしまったけど、どちらかというと筋を追うドラマではなくて、未見のファンの皆様には、ぜひ小松彩夏の演技をご鑑賞いただきた。
 私はこの作品の小松彩夏のお芝居がとても良いと思った。古い話だが、同じような短編オムニバス映画『恋文日和』の第2話「雪に棲む花」(須賀大観監督、2004年)や、ソニーのケータイ音楽ドラマ『DOR@MO The MOVIE 20 -CRY-』のEpisode 2「ハンバーグ」(ウスイヒロシ監督、ネット配信2008年)も良かった(これらの作品の詳細なデータはこちらをご参照ください)。


「ハンバーグ」


 小松彩夏の薄倖でミステリアスなたたずまいは、はかなげな魅力のぶん、主演で長編一本はもたない。だからオムニバス短編の一篇だとだといちばん光る。もし長編のヒロインにするなら何らかのギミックが必要で、それがうまくはまったのが、(厳密にはヒロインではないが)すでに死んでいて回想シーンにしか出てこない、主人公の年上の元カノを演じた『僕らがいた』前・後編(三木孝浩監督、2012年)や、思い切ってゾンビに挑戦した『Miss ZOMBIE』(SABU監督、2013年)だったと思う。


『Miss ZOMBIE』


 撮影スケジュールは相当なものだったようだが、この『Miss ZOMBIE』で小松彩夏はちょっとお芝居に覚醒したようなところがあって、今回の『僕たちはゆっくりじょうずにできない』第2話「花火カフェ」も、お芝居の質的には、明らかに『Miss ZOMBIE』の延長線上にあるように私には見えた。と私が力説してもあまり説得力はないので、ここで映画監督岩井俊二さんにご登場いただこう。



 この『ぼくたちは上手にゆっくりできない。』が公開された2015年3月29日、上映館の渋谷ユーロスペースで、第1話監督の安達寛高、第2話監督桜井亜美、そしてゲストの岩井俊二によるアフタートークが行われたという。そこでのやりとりが「映画エンタメ情報 Cinema Colors」に採録されていたので、小松彩夏に関する部分だけ拾っておくね。ちなみに岩井俊二は、桜井亜美の映画には過去にプロデューサーとして関わっていて、映画作りのお師匠さんみたいな立場であるようだ。



岩井俊二「桜井作品は、本作が一番、すとんと直球で入ってきたんですが、最初(の作品)からの、この成長ぶりというか。最初の頃は、ストーリーもほとんどない状態で、何かイケメンだけが出ていて、カメラがズームインしていくと、ピントがぼけていくっていう(笑)。それは最初にピント合わせておくんだよっていうことを、教えるところから始まったんですけども、どんどん技術が上がっていって、今回はそういう次元から、一皮むけたなっていう気はしました。役者さんの力量が、凄く大きかったんじゃないかと思うんですが、主役の小松(彩夏)さんの存在感というか、『美少女戦士セーラームーン』に出てた子ですよね??」
桜井監督「愛野美奈子!セーラーヴィーナスの愛野美奈子役です」



岩 井「あの頃はティーンな女の子で、今回みたら、往年のメリル・ストリープのような、迫力が出てましたよね。更に目がみえなくて、声が軽くしゃがれ声になっていて、あれは花粉症だったのか、それともそういう風だったのかは分からないんですけど」
桜 井「違う(笑)!(普段は)もうちょっと、可愛いくて高い声なんですけど、ちょっと気が強そうなドスを利かせてもらったんです。彼女はご存知のように儚げな美人なので、当然、そのキーワードが凝縮されたような役が多かったみたいです。ご本人的には、自分で運命を変えていくような役がやりたかったと言っていて、この脚本を読んでやりたい!と強く思っていただいたと。すごくうれしかったです。その意志が現場をものすごくいい方向に引っ張ってくれましたね。オーディションの時から、ずば抜けて素晴らしかったです」
岩 井「知らぬ間に、ここまで成長してたんだなと驚きました」


 (『Cinema Colors』「3人の小説家によるオムニバスドリップ映画『ぼくたちは上手にゆっくりできない。』アフタートークイベント」取材:佐藤ありす 2015年4月3日配信


 そうか、「ご本人的には、自分で運命を変えていくような役がやりたかった」のかあ。たしかにそう言われてみれば、この映画の主人公もミスゾンビも、案外自分の意志を通して行動しているのだね。事務所から独立するまで、長く小松彩夏のことを誤解していた。反省します。
 そして、脚本を読んで「やりたい!」と思ったというくだりも良い。独立した今は、以前のようにメジャーな大作へのオファーはそうそう来ないと思う。でもちゃんと丁寧に脚本を読んでいれば、低予算のインディーズ映画やネットドラマのオファーのなかに、キラリと光る若い才能を見つけ出すこともあるだろうし、そういう良作にいちはやく出演するチャンスだってつかめるわけだ。むしろその方が合っているのかも。これからの小松彩夏にも期待します。



 このオムニバス3作品のなかでは、第2話は最も、なんというか首尾が整っている。画面のワンカットワンカットに整合性があり、そのつながりも過不足なく、セリフにもそれぞれの心情や意図が明確に表現されていて、無駄を省いて端正に作られた逸品という感じ。がその反面、説明的な描写やセリフは不親切なくらい省略されていて、登場人物二人のバックグラウンドはほとんど分からない。初回版のDVDには、この第2話も含め、三人の監督(本職は小説家だが)によるけっこう長い原作小説がオマケについてきて、しかも副音声のオーディオコメンタリーでは、桜井亜美監督がかなり事細かに丁寧にひとつひとつの場面を解説してくれているという。だからたぶんDVDを買えば、二人がもともとどういう知り合いだったのかとか、ラストシーンはどう解釈すればいいのかとか、だいたいの疑問に対する模範解答は出ると思う。



 そういう意味では、本当はDVDを取り寄せてそのへんを確認してからレビューを書くべきなんだろうけど、私としてはいまのところ、そこまでやる気はない。ひょっとしたら将来またそういう情報を確認して補足するかもしれないけれど、とりあえず今回はこのくらいにしておきます。



 それでは、私はあと、フィギュアみたいでほとんど現実味のない体形をした小倉優香がくの一として活躍するセーラー服美少女忍者アクション『レッド・ブレイド』を観てみる。これもやはりAmazonプライムで配信が始まったからね。では。