実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


最新記事〕 〔過去記事〕 〔サイト説明〕 〔管理人

【第673回】岬マリは何を賭けたか?<その1>(北川景子in『探偵はBARにいる3』with 安座間美優『W/F ダブル・ファンタジー』第2話)



 『ブラック・ペアン』もいよいよ最終回だ(2018年6月24日、TBS/原作:海堂尊/脚本:紐尾健太郎・神田優・槌谷健/撮影:高島一宗・須田昌弘・大西正伸・杉岡克哉・大野紘平・平岩源治郎/照明:鈴木博文・原沢大樹・小池真之介/演出:田中健太)。たぶん福本(渋江譲二)のセリフはなかったと思うが、酒飲みながら普通に観ていたので見落としがあったらすまない。結局、私は全部で4話を観た。



 本当だったら物語の最後に1回きり使われるはずの特殊アイテム、カーボン製の黒い止血鉗子(ブラック・ペアン)を、佐伯教授(内野聖陽)が第1話のラストでいきなり使って、その後も毎回のように使い続けるので、どうなるのだろうと思ったが、基本的には原作どおりのお話の流れでした。そこに医師会の理事長選とか、実は当の佐伯教授が心臓病だったとか、大丈夫かと思うくらい派手なエピソードを幾つも放り込んでいたが、その甲斐あって今シーズンのドラマでは最も視聴率を獲ったらしい。これを機に渋江譲二のシュールな残像が一人でも多くの方々の脳裏に残れば嬉しく思う。



 それからWOWOWの連続ドラマW『W/F ダブル・ファンタジー』第2話「昔の男」(2018年6月23日、WOWOW/原作:村山由佳/脚本:阿相クミコ・御法川修/撮影:谷川創平/照明:李家峻理/監督:御法川修)。



 東都新聞社ビル。編集部の岩井(田中圭)は、社が主催する「横浜ヨーロッパ映画祭2017」のスペシャルトークゲストのことで、同僚の谷村梨絵(安座間美優)から相談を受ける。



梨 恵「岩井さん」



梨 恵「高遠さんのことなんですけど」
岩 井「高遠……ナツメさん?」



梨 恵「はい、今度うちが主催する映画祭に、ゲストでお呼びしたくて」



岩 井「え? 何で彼女を」



梨 恵「いま書かれている連ドラの『赤と黒』って、フランスのスタンダールの小説が原案だし」



梨 恵「……ってのは、かこつけで」



梨 恵「売れっ子で美人だし、トークショーの目玉になるじゃないですか」



岩 井「あ、いやでも、お忙しいんじゃないか……」



梨 恵「だから岩井さん、プッシュしてくれません?」



岩 井「はい?」



梨 恵「大学の後輩なんでしょ」




梨 恵「正式にオファーはしたんで、岩井さんからも連絡してくれたら堅いじゃないですか」



岩 井「あいや、そんな親しい関係じゃない……僕のことも憶えているかどうか」



梨 恵「え〜そうなんですかぁ?」



梨 恵「なぁんだ……」


 それから一ヵ月後。その間、ペンネーム高遠ナツメこと奈津(水川あさみ)は色々あって、自分を支配しようとする夫(眞島秀和)の元を飛び出してしまうのだが、それは措いといて、再び東都新聞本社。



岩 井「谷村さん」



梨 恵「はい」



岩 井「あれ、どうなりました?」



梨 恵「あれって何ですか?」



岩 井「映画祭のゲストの件です」



梨 恵「OKでした! 高遠さんトークショー出てくださるそうです」



岩 井「あ、そうか」



梨 恵「岩井さんも取材、行きますよね。記事のほう宜しくお願いします」



岩 井「はい、了解です」


 てわけで、岩井はなんとなくソワソワした感じでトークショーの囲み取材に出かける、でも田中圭なので奥手だ。最後列から遠巻きにかつての後輩を見守るのみ。



 でも最前列にいる『横浜文化通信』の大城(大成修司)という記者の質問に答えようとした奈津は、その後ろにいる昔の先輩に気づいたのだった。



大 城「先生は今、フランス文学を原案にしたドラマを執筆されていますが」



大 城「そもそもヨーロッパ文化との出会いについて、お聞かせ願いますか?」





奈 津「あ、はい、そうですね」



奈 津「大学で学生演劇に携わったことが、私が脚本家の道に進む大きな契機になったんですけど」



奈 津「ある先輩がフランスオペラの魅力について教えてくださったんです」



奈 津「その情熱的な言葉の響きに、夢中になってしまって……」


 ええっ、?ある先輩?って、それおれじゃん。ひょっとして誘われてる?



 というわけで、大学卒業以来13年ぶりくらいに再会した二人は。ハマの中華街レストランへ。それで、自分ももう一児のパパだ、なんて話をして、ダメだなあ田中圭。



岩 井「乾杯」
奈 津「乾杯」




 もうこうなっちゃうと、あとはみなとみらいの夜景からホテルへ一直線だ。でも安座間美優はもう出て来ないみたいなので、紹介はこのくらいにしておく。



 というわけで、ようやく『探偵はBARにいる3』だ。




 え〜と、今回のシリーズ3作目が、いちおうオリジナル脚本という触れ込みだったけど、実際に観てみたら、導入部は原作小説の第一作目とほぼ変わらなかった、ということは前回ちょっと書いた。探偵(大泉洋)の相方、北海道大学農学部助手の高田(松田龍平)が後輩の大学生、原田誠(前原洸)を連れてやって来る。



 原田誠の依頼は人捜しだった。昨年の六月、めったに行かない合コンで、道央女子大の学生と知り合い(原作では道央女子短大)、意気投合して仲良くなって、恋人同士になって同棲を始めた、ところがその彼女が四日前からアパートに帰って来ない。連絡も取れない。彼女の身になにかあったのか、心配で心配でもう仕方がない。



 探偵は内心うんざりだ。たんに彼女に飽きられちゃっただけなんだろうと思っているが、原田誠があまりにもめそめそしているのと、ほかならぬ高田の連れてきた依頼人だからということもあって、とりあえず二人が同棲しているアパートまで足を運ぶことにする。



 アパートに乗り込んだ探偵と高田は、原田がおろおろするのもかまわず勝手に彼女の私物を物色する。郵便物から実家の連絡先を突き止めて電話をするが、実家に帰省しているわけではなかった。



 やがて引き出しの奥から通帳が出てくる。「ピュアハート」という名義で、定期的にけっこうな額のお金が振り込まれている。



 一方、洋服ダンスを物色していた高田は薬の袋を見つけてきた。



高 田「これ、シモの病のやつだろ」
お れ「実入りの良いアルバイトに励んでいたか、女子大生」


 彼氏には内緒で、高収入の副業に励んでいた女子学生が、金回りのいいパトロンを見つけたか、それとも、最初はその朴訥なところに惹かれたけど、結局ダサい彼氏に飽きがきて、相手が諦めるまで姿をくらますつもりか、まあ、そんなとこだろう。これ以上の真相究明より、諦めてきれいさっぱり忘れた方が良い。



 それでも、彼女への未練たらたらの彼氏を放ったらかしにしておくわけにもいかない。高田の紹介でもある。調査費用については「暇つぶしだ、いくらでもいい」と気前のいいことを言って、「おれ」は仕事を引き受けることにした。



 ここまではほぼ原作どおり。そしてこの消えた女子大生、諏訪麗子(名前も原作と一緒)を演じているのが前田敦子。
 まだソフト発売(レンタル・配信)から間もないので、今回のレビューでは全面的なネタバレはしない。が、ここで原作第一作目と共通するポイントだけおさらいしておく。



 このあと、消えた女子大生が、やっぱり風俗方面の副業をして高収入を得ていたことが明らかになる。どうやらその関係で殺人事件に関わりをもってしまい、しかも覚醒剤が絡んでいるもんだから、姿を消さざるを得なかったようだ。



  探偵が苦労のすえ、女子大生を見つけ出すと、彼女は自分の措かれた状況がわかっているのか、早くアパートに帰りたい、同棲中の原田誠に会いたい、彼にはこのことを黙っていてくれ、と訴える。





 結局、探偵は学生からの僅かな報酬で、身体中ボロボロになって、この脳天気なカップルのヨリを戻させてやる。




 喜ぶ二人はやがて結婚する。その場を去る探偵。ジ・エンド。だいたいこんな大枠の流れは原作と一緒である。



 女子大生は、ある殺人事件が起こった直後から失踪した。そこに関係していると思われる人物が、業界では有名な「モンロー」という源氏名の、夜のお姉さん。モンローは探偵とも既知との間柄だが、原作では、女子大生の失踪と同時にススキノ界隈から姿を消している。探偵がモンローの行方を捜し出すと、危ない感じの人が次々に現れて、何かと袋だたきの目にあう。



 映画のモンロー姉さん(鈴木砂羽)は、すでに夜の世界から足を洗って、小樽かどこかの港町で、食堂のおかみさんになっている。探偵(大泉洋)はモンローを訪ねて再会を喜び、昔、彼女が面倒をみていた岬マリ(北川景子)という子についての情報を聞き出す。ここらへんからが映画オリジナルで、原作に岬マリは出て来ない。



 モンローを演じた鈴木砂羽が良いです。いまは足を洗い、子育てと店の切り盛りに忙しい港の食堂のおかみさんだが、夜の世界にいたころから、若い子たちの面倒見がいいアネゴ肌の気質で、探偵も彼女のそんなところを買っていたし、マリも彼女には心を許していた。マリとモンローの生き方のコントラストが、この映画の基調をなしている。



 よく分からないのは、なぜ今回の『3』に限って、原作なしのオリジナル・ストーリーと謳ったのか、ということ。確かに1作目と2作目の話の流れは、まあまあ原作に忠実であり、較べて今回はだいぶオリジナルな展開になっている、とは言える。でも2作目だって、根本的な部分が原作と違うではないか。被害者に実は幼いころ生き別れになった妹がいたという設定も、その妹が、兄の弔い合戦のために探偵に調査を依頼したという発端も、ヒロインが群衆の中で復讐を果たそうとするクライマックスも、すべて原作にはなかった。そういう意味では前回も今回も大差ないと思うのだ。ま、どっちでもいいんだけど。



 逆にちょっと惜しかったのが前田敦子。以前、山下敦弘監督(『苦役列車』『もらとりあむタマ子』)が前田敦子について、いわゆる上手い女優さんではないが不思議な人だ、と言っていた。だいたいの役者は、監督がカチンコならす時、演技に入る緊張感とかそういうものがあるのに、彼女は何もなくて、カメラが廻っている時とオフの時の落差がまったく感じられないのだという。



 原作では、このバカみたいな女子大生、諏訪麗子が、実は裏ではモンロー姉さんその他を出し抜いて(モンロー姉さんのためを思ってではあるのだが)ちゃっかり事件を利用して別の画を描いていた、というオチがつく。そのくらいのヒネリがあった方が、前田敦子さんは活きたかもしれない。でも映画版の後半にそれをいれちゃうと、岬マリの悲劇を描くのに邪魔だもんな。結局、前田敦子はただのバカな女子大生で終わる。『もらとりあむタマ子』の山下監督ならそこをもうちょっと味わい深く描けただろうけどね。



 と、いろいろ横滑りに感想を書いてしまったが、え〜と、話を冒頭に戻して、原田青年の依頼を受けた探偵は、諏訪麗子の口座に定期的に金を振り込んでいた「ピュアハート」というモデルクラブに潜入する。そしてそこで岬マリ(北川景子)と出会う。



 でもその出会いは、本当は初めての出会いじゃなかったんだよね。というところで、次回へ続く。