実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第256回】DVD第2巻:Act. 7の巻(その2)


済まない、話題の月9ドラマはまだ観ていない。ただ、北川さんがパンダになるという話だけ聞いたので、とりあえずそこんところだけチェックした。『太陽と海の教室』の時、タイトルにちなんで太陽の着ぐるみになったのは、番宣でバラエティに出演したときだけだったが、今回は本編で着ぐるみを着たというところが、ちょっと偉いですね。
さてAct.7レビュー、いよいよAパートの始まりだ。

1. 「納豆の茶漬けは奇想外に美味いものである」(北大路魯山人)


Act.7の監督は、Act.1、Act.2に続き田崎竜太(「崎」の字は、文字化けしないようにこちらを使わせていただきます)。あと次回のAct.8と、全部で4話しか担当していないが、実写版セーラームーンのキーノートを決めたという意味で、メイン監督の名に恥じない仕事をした最重要人物だ。このエピソードも主にそういう観点から考察したい。

主題歌が終わると、夜の街に響く「待ちなさい!」の声。深夜の東京ドームを疾走する妖魔と、後を追うセーラームーン。
以前、大家さんからのご依頼もあって、どのエピソードで誰が「待ちなさい!」を言ったか集計したことがある(これ)。その時の結果によれば、うさぎは全10エピソードで「待ちなさい!」と言っている。うちAct.1、Act.2、Act.4の3回は変身前の姿で言っていて、残る7回(Act.7、Act.18、Act.25、Act.33、Act.39、Act.44)はセーラームーンに変身してから後だ。つまり今回が、変身後に「待ちなさい!」と言った初めてのケースである。それがどうしたと問われても困るが。
また、いきなりAパート冒頭から「待ちなさい!」と言うのは、これが唯一の回である。というか「前回の続き」でもないのに、セーラームーンが妖魔を追う、なんて緊迫した場面から始まるエピソードなんて、後にも先にもこれっきりだ。

セーラームーンが追いかけている妖魔の名称は、東映公式ホームページによれば「納豆」だ。藁に包まれているから納豆なんて、若い人に通じるのだろうか。
ということはともかく、「納豆」は現場でつけられた愛称と考えて間違いない。なぜこの妖魔が藁でできているかというと、一種の「変わり身の術」を使うからで、「変わり身」=「藁人形」という連想だろう。また「変わり身」=「忍者」であるために、コスチュームは何となく忍者っぽくて「イガ、イガ」と言っている。したがって本来の愛称は「伊賀妖魔」もしくは「忍者妖魔」というあたりではなかったかと推定される。ただ、この後セーラームーンに向けて大量の五寸釘を放っているところから考えると、この妖魔は丑の刻詣りの「呪いの藁人形」にも引っかけてあるわけで、単に「妖魔(藁)」でもいいかもな。
ま「妖魔(伊賀)」にせよ「妖魔(藁)」にせよ「妖魔(丑の刻)」にせよ、あるいは納豆にせよ、小林靖子の台本の段階で、そんな名前がつけられていなかったことは明らかだ。これまで、幾つかの撮影台本を検討してみて分かったことだが、妖魔については、台本と完成映像との間に、しばしばギャップがある。そもそも台本に、妖魔の名称やデザイン、攻撃属性などが詳細に指定されること自体が少なく、たとえ「妖魔(金)」とか指定があっても、それらが実際に出来上がった妖魔の造形に反映されることは、あまりなかったようだ。このあたりは演出とか美術とかのスタッフが、わりとやりたいようにやったみたいですね。

ていうか、そもそも小林靖子先生ご自身が、キャラクターの造形面に無頓着なのかなあ。たとえば近作『侍戦隊シンケンジャー』も、世間ではサムライたちの変身後のマスク(顔が漢字だし)とコスチュームが「なんじゃこりゃあ!」と酷評された。前に書いたように(【第241回】を参照されたい)私は大好きなのでまったく気にならなかったが、そう言われてみれば、そうかも知れないと思う。巨大ロボットの方も、ダサイって言う人が少なくなかった。
もちろん脚本家にビジュアルの責任まで負わせるつもりはない。でもメインライターがあまり注文をつけたりしないもんだから、デザインを担当するスタッフも、うっかり、気持ちにスキが出来たりしたのではないか、そんな風にも思える。考えてみれば『仮面ライダー電王』だって、「モモタロス」とか「ウラタロス」とか「キンタロス」なんて、かなりいい加減なネーミングに聞こえるし、脱力したデザイナーが、名前につられてうっかりダメダメなデザイン画を書いちゃっても仕方がないようなセンスである。
「いや、あれは劇中の命名者である良太郎のセンスのなさを表現しているのだ」という人もいるだろうが、むしろ「センスなーい」とか言われたときに、「いや、センスがないのは我々スタッフではなくて、劇中人物の良太郎です」と言いわけするための設定ではないか、と勘ぐりたくもなる。

2. Visual Choreographer


東映ヒーローネットに今もアーカイブされている実写版セーラームーンオンエア時のインタビュー記事の中に、沢井美優と彩木映利の対談風インタビューがある。彩木映利(彩木エリ)さんは、実写版に「ビジュアル・コレオグラファー」として参加されている方だ。私が最近書いた記事(これ)の中で、今村ゆり子さんと間違えて、大変失礼した方ですね。しかし「ビジュアル・コレオグラファー」って何か。そのこともこのインタビューには書いてあるんですね。たいへん便利です。

  
彩木「コレオグラファーというのは、直訳すると振り付けのことなんです。一般的にいえば踊りなんかのことなんですけど、セーラームーンの場合、リズムに合わせた踊りがあるわけじゃないんですが、私が担当しているのはポージングとか、動きの形を美しく直すとか、そういうことです。アクションではないですよね。あくまでも美しい動きを見せるということで……それでビジュアル・コレオグラファーという名前になって。名前を考えてくれたのは田崎監督なんですけど」
沢井「あ、そうなんですか!?」
(「東映ヒーローネット オンエア情報/美少女戦士セーラームーン」第1回 沢井美優・彩木映利インタビュー

このインタビューは2003年の11月末か12月初旬、撮影が2クール目に入った頃に収録されたもののようだ。だから「1クール目を振り返って」というニュアンスが強いんだけど、ここまでで最も印象的な妖魔として沢井美優はAct.3のポヨン(ボヨンでは間違いらしい)とAct.7の納豆を挙げている。

  
――今まで戦ってきた妖魔で印象に残ってるのはいます?
沢井「可愛いのは、やっぱり風船。ポヨンポヨンとか。あと納豆妖魔。麦わらの忍者」
彩木「現場だと『納豆』って呼ばれてたからね」
――あの忍者がいちばん本格的に戦ってましたね。
沢井「そうですね。こー、打ち合ったりとか。キックとか。あの人が歩くと、後に藁が落ちてるんですよ」
(「東映ヒーローネット オンエア情報/美少女戦士セーラームーン」第1回 沢井美優・彩木映利インタビュー

ちなみにここで沢井さんが挙げている納豆とポヨンは、2004年ごろ全国各地で行われていた「実写版セーラームーンショー」でも、敵キャラとして登場していた。

もちろん「実写版セーラームーンショー」と言っても、キャストが地方回りをしていたわけではない。着ぐるみである。
四天王の中ではネフライトが着ぐるみで登場したという。あと杉本彩ではないベリル様も、後楽園のショーに出たという話がある。昔どっかでそんな画像を見て、いただいた記憶がありますが、今回名古屋支部アーカイブを探した限りでは見つからなかった。
すみません、話を戻します。

3. 田崎竜太@華麗なるアクション(プロローグ)


えーと、つまり沢井美優にとっても、このAct.7冒頭のアクションはかなり印象が強かったわけですね。なぜかというと、やっぱり田崎竜太が、この対納豆妖魔戦で、アクション場面の基本方針を変更したからだろう。ひとことで言えば、従来のヒラヒラを抑え、よりハードになった。

「待ちなさい!」と言いながら妖魔に追いつくセーラームーン。だが妖魔は素早くジャンプして、セーラームーンは一瞬その姿を見失う。
背後を取って襲いかかる藁妖魔。だがセーラームーンもとっさのターンで攻撃をかわし、二段蹴りをお見舞いする。
キックを受けて刀を取り落とした妖魔に、すかさずセーラームーンはティアラを投げつけ、見事に有効打。
ね。従来のヒラヒラ風のターンも残しつつ、しかしアクションは、よりダイナミックで力強くなっている。これ、どこからどこまでのカットが沢井美優本人でどこからがスタントの人か、沢井党なら一目瞭然なのかも知れないが、私にはちょっと分からない。でも本人自身が演じている部分が多いみたいである。このあたりの事情も、さっきと同じインタビューを読んでみましょう。

  
――いわゆるアクションシーンで、ここまでは本人が演じる、ここからは吹き替えの方っていうのは、彩木さんが判断されるわけですか?
彩木「ええ、そうです。でも、こちらがここから先は吹き替えでやらせるって言っても、監督によっては、やっぱり本人にやらせたいとか、そういうことはあります。本人に反れって言ったり、回れって言ったり。でも、うまくなりましたよ」
沢井「……まぁ少しは」
――監督さんとしては、できれは本人に演じてほしいですよね。
沢井「八話の田崎監督の回で、思いっきり反れって言われて。そんなに反れなかったですけど……」

彩木「じゃあ、もっと反れるようになろう。『反り&キメ』は絶対にやっておいたほうがいいから」
沢井「あの時、反って払って、それから二段蹴りですよね。あれはビックリした」
――監督によって、アクションへの要求の差はあります?
沢井「大いにあります!」
彩木「あるよね」
――田崎監督の回で、麦藁忍者と戦った時って、かなりヒーローものっぽかったですよね?
沢井「ああ、あれは多かったですね」
彩木「そうですね。あの頃からアクションぽく、ヒーローっぽくなって」
沢井「田崎監督は結構、本人にやらせるほうですよね。田崎監督は最初からやってるんで、もう『ファミリー』な感じです」
(「東映ヒーローネット オンエア情報/美少女戦士セーラームーン」第1回 沢井美優・彩木映利インタビュー

ここでは、沢井美優は「八話の田崎監督の回」と言っているけれども、これはもちろん単純なうっかりミスであって「反って払って、それから二段蹴り」のアクションがあったのはAct.7である。
Act.8で記憶に残るアクションというと、ジェダイトがセーラームーンを激しいオクラホマミキサーに巻き込んで、盛大なレオチラで客サービスを無理強いしたあげく、腹に重い蹴りを一発ぶちこんだ一連の所業である。増尾もベリル様のためならけっこう鬼畜になる。

まあこうして見ると、これもある意味ハードではありますね。
ともかく、Act.1やAct.2を見ていると、田崎監督は当初、それなりのアクションをはさみつつ、戦士たちがヒラヒラくるくる廻ると敵が倒れてしまうような、メルヘン的というかファンタジー的というか、そういうアクションシーンを漠然と思い描いていたようなフシもある。何しろ「マスクなしの顔出し」「コスチュームはレオタード」「演じるのは芝居もアクションもほとんど経験ゼロの美少女アイドルたち」という厳しい条件のもとで特撮アクションを作る、という前例のない課題を与えられてしまったのである。そりゃ試行錯誤もするよ。

で、まあ「こんなもんかな」とパイロット版2話を仕上げた田崎監督であったが、続く第3話、第4話を観て「困ったなあ」と思った。田崎監督としては、いろいろ制約はあるけど、このドラマでは新しいタイプの美少女アクションをやりましょう、という意志を示したつもりだったのに、後を継いだ高丸監督は、田崎監督の演出意図を「これはライダーや戦隊ものとは違う話なので、アクションはソフト路線で、さほど比重をかける必要はない」という意味に理解したのである(推定)。
そういう解釈で演出された、ライトな乗りのAct.3やAct.4のアクションシーンを観た田崎竜太の脳裏には、すでに後の高丸作品『美少女戦麗舞パンシャーヌ 奥様はスーパーヒロイン』(2007年)が像を結んでいた。「そっそれは違うよ高丸さん」という思いを込めて撮られたのが、このAct.7冒頭の、これまでよりワンランクかツーランクぶん、ハードルを上げたアクションシーンだと私は思う。
たぶん田崎監督はこの時点で、もっとハードな美少女アクションを夢想していたのかも知れない。でもそれが実現されるのはもうちょっと先、サバン制作の米国版『パワーレンジャー』で活躍していた横山誠という才能を日本に引っ張り戻してからの話だ。しかしその道のりも平坦ではないのである。


というわけで、今回の記事はこの後、田崎竜太と横山誠の話で、2005年の『Sh15uya』(シブヤフィフティーン)、2007年の『キューティーハニー THE LIVE』を経て『仮面ライダーTHE NEXT』に及び、そこから黄川田将也つながりで話題が実写版Act.7に舞い戻ったところで次回へ続く、という構想だったのだが、マジで5月って仕事いそがしいね。力尽きました。ここまでで、また来週。ハニーフラッシュ!(なんだよそれ)

この胸は特殊効果ではないと思う。